従業員の副業が発覚したら懲戒解雇できる? 処分に関する注意点
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奈良市では、公務員である市の職員が副業をしやすくするため、職務外に報酬を得て地域活動に従事する際の基準を定め、令和4年2月1日から運用を開始しました。自治体をはじめ、社員の副業を認める動きが企業にも広がっています。
一方で「従業員の副業が判明した。会社では懲戒事由として副業禁止を就業規則に定めているので従業員を懲戒解雇したいが、できるのか?」といった相談も、増加傾向にあります。
この記事では、副業禁止を守らない従業員への懲戒処分、具体的な懲戒処分の方法などについてベリーベスト法律事務所 奈良オフィスの弁護士が解説します。
1、「副業禁止」を守らない従業員は懲戒解雇できるのか
会社の就業規則で副業や兼業を禁止して、懲戒解雇の事由として定めている場合に、懲戒解雇を行うことはできるのでしょうか。
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(1)懲戒解雇を行う要件
懲戒解雇とは、従業員に対して、制裁として行う解雇を指します。懲戒解雇は懲戒処分の一種であり、懲戒処分の中では最も重いものになります。懲戒処分は、懲戒解雇のほかには、戒告・けん責処分、減給処分、出勤停止処分、降格処分などがあります。
このような懲戒処分を行うためには、以下の2つの要件が必要です。
第1に、就業規則などにその根拠となる規定が定められていなくてはなりませ。また、就業規則は従業員への周知が必要です。そして、単に就業規則に根拠があればよいというものではなく合理性が必要です。合理性がないと判断される場合には、当該規定は無効になってしまいますので注意が必要です。
第2に、就業規則などに根拠があって会社の懲戒権が行使されるとしても、権利濫用などの強行法規に違反するものであってはなりません。
懲戒処分のもとになった従業員の行為の重大さと、懲戒処分の内容が均衡しておらず、懲戒処分の内容が不相当に重い場合には社会通念上相当として認められない懲戒処分であるとして権利濫用として無効と判断されることになります。
労働契約法では、当該懲戒が、従業員の行為の性質、態様などの事情に照らして、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当であると認められない場合は、権利濫用として無効となることを明記しています(労働契約法15条)。 -
(2)副業禁止違反の定めと就業規則の合理性
就業規則には懲戒処分の理由について、合理性をもって定めなくてはなりません。ただし、副業禁止違反については、どのような定め方をすればよいのか議論があります。
従業員は、職務専念義務を負っているため、就業時間中に副業を行うことは、使用者の許可がない限り許されないことは当然です。
一方、就業時間外かつ企業外の副業については、従業員の私生活の範囲内にあり、余暇をどのように利用するかは従業員の自由ですから、基本的には自由に行うことができます。
したがって、従業員に対して全面的に副業を禁止することは、過度に私生活を拘束するものとして、就業時間外の副業すべてを禁止するという規定は、合理性がなく公序良俗違反として無効となる可能性があります。
多くの裁判例では、副業を全面的に禁止する就業規則は合理性を欠くが、許可制とする規定には合理性は認められるとしています。
そのうえで、深夜に及ぶ長時間の副業などで会社への労務提供に具体的な支障が出る場合や競合する会社へ就職したり自ら競合事業を経営したりするなどの背信行為があり、会社の企業秩序を乱すような場合に限定して、懲戒事由に該当すると解釈されています。
さらに、従業員が許可申請をせずに無断で副業を行った場合、その手続違反に対する懲戒は有効とも思われますが、多くの裁判例では、就業規則の副業禁止規定を限定的に解釈して、会社の秩序を乱すおそれがなく、労務提供に特段の支障を生じさせない程度での副業については、無断であっても懲戒の対象にならないとされていることに注意が必要です。
つまり従業員が許可を申請せずに副業を行った場合、その従業員の兼業によって、会社の秩序を乱すおそれが生じる場合や、労務提供が不能または不完全になるような場合に限定して懲戒処分の対象となるということです。 -
(3)懲戒処分の相当性‐懲戒解雇はリスクがある
合理性のある就業規則が定めてあるとして、第2に、懲戒処分が権利濫用として無効とならないか、ということを検討しなくてはなりません。
まず、重要なのは、当該副業行為がもたらす危険性がどの程度であったかということです。会社の企業秩序を乱す危険性が高ければ高いほど、重い処分を検討することになります。
そのほか、副業発覚後の労働者の対応によっても懲戒処分は異なってくるでしょう。
申請があれば不許可となるような副業行為が発覚し副業をやめるよう注意をしたところ、すぐにやめたような場合には軽い懲戒処分が適当でしょうし、一方で、副業を注意してやめるよう指示したにもかかわらず隠れて継続したような場合には、より重い処分を検討することが考えられます。
いずれにしても、事案によっては懲戒解雇という判断もあり得るでしょうが、懲戒解雇は最も重大な処分であるため、会社の企業秩序を大きく乱すといえる特別な事情が必要でしょう。
2、どのようなケースであれば、懲戒解雇は違法とならない?
それでは、これまでの裁判例で具体的にどのようなケースで、懲戒解雇が有効になっているかをご説明いたします。前述のとおり、懲戒解雇は最も重い処分であるため、懲戒解雇に値するだけの重大性が必要です。
主に、以下のような類型で、懲戒解雇が認められています。
- ① 競合会社での副業によって、会社に具体的な損害を生じさせる蓋然性があるケース
- ② 連日または深夜にわたる労働に伴う肉体の疲労により本業に支障が生じるケース
- ③ 休職し休業手当を受けているのに副業をするなど信義に反するケース
①のケースでは、競合他社に就職したり、自ら競合する事業を営むことによって、勤務先の会社のノウハウを流用したり、機密情報を漏えいしたり、顧客を奪ってしまうような会社にとって重大な損害が生じてしまうおそれがあるために、懲戒解雇が認められています。
②のケースは、従業員が本業を満足に行えなくなり、本来の労働提供ができなくなるような事態に相当期間陥っていることから、懲戒解雇が認められています。
③のケースは会社に対して背信性が高いことから、懲戒解雇が認められているものです。
3、副業をしている従業員には懲戒解雇以外にどのような処分が考えられる?
懲戒処分は、懲戒解雇のほかには、戒告・けん責処分、減給処分、出勤停止処分、降格処分などがあり、懲戒解雇は最も重い処分になります。
申請があれば不許可となるような副業行為が発覚したとしても、初めから重い処分を行ってしまうことは、相当ではないと判断される可能性があります。
もし無効な懲戒解雇を行ってしまった場合には、その従業員に対しては多額の損害賠償金を支払わなくてはならない場合があります。また、会社に対する社会的な信用が低下し取引へ悪影響が出てしまう可能性があり、ブラック企業などとレッテルを貼られて採用にも影響を及ぼすことがあります。
したがって初期的には、口頭または書面によって注意や指導を行い、それによっても改善がなされない場合には、けん責などの軽い懲戒処分を行い、その後も改善されることがなく業務上の支障があるという場合には、再度の懲戒として減給処分を行い、まだ改善しなければ、初めて解雇を検討する、というようなプロセスによって、徐々に段階的に処分の重さをあげていくことも有効です。
また、交渉状況によっては、一方的な懲戒処分ではなく、合意退職の方向を検討することも有効です。
4、副業を行う従業員にお困りの際は弁護士に相談を
副業を行う従業員に対して頭を悩ませているケースは少なくありません。しかし、副業の禁止に対しては就業規則をどのように定めるかという問題や実際にどのような懲戒処分を行うかなど、非常に悩ましい問題がついて回ります。
副業を行う従業員に対しては、裁判例を踏まえ慎重な対応が必要であり、就業規則の制定を含めて、知見のある弁護士に相談することをおすすめします。
5、まとめ
従業員に対する懲戒処分を行う事案では、事実の収集、証拠の評価・事実の認定、事実を評価し処分を下す、といったプロセスを踏む必要があり、それぞれの局面で法令・裁判例を踏まえて適切に対応しなくてはなりません。また、懲戒処分を行う前提として、就業規則に適切な根拠規定が定められている必要があります。
懲戒処分を行うかどうか、懲戒処分を行うとしてどの処分にするべきかの判断は、これまでに蓄積された裁判例などの分析が必要となり、弁護士の法的な知見が十分に発揮されることになります。
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