社員の二重就業(副業)が発覚したらどうする? 禁止と許可の判断基準とは
- 一般企業法務
- 二重就業
急速に進む働き方の多様化に伴って、いわゆる副業である二重就業を認める企業が増えてきました。総務省の経済コンセンサスによれば、平成28年の時点で奈良県内の事業所数は4万8235件でした。中には複数の事業所をまたがって、二重就業している労働者も少なくないでしょう。
一方、就業規則等で二重就業を禁止している会社にとっては、社員が許可なく二重就業をした場合にどうすればいいのか、二重就業の普及にどのように対応していけばいいのかは、悩ましいところです。
そこで今回は、二重就業とは何かという基礎知識から、就業規則で二重就業を禁止している場合の法的効果、二重就業を許可する場合の注意点などについて、労働問題の実績が豊富なベリーベスト法律事務所 奈良オフィスの弁護士が解説します。
1、二重就業(副業)とは
二重就業とはいわゆる副業のことで、本業として務める企業とは別に、複数の企業と雇用契約(労働契約)を締結して就業することです。
たとえば、平日にA会社でフルタイムの事務として勤務している方が、夜間や休日にB会社でデザイナーとして労務提供をするなどです。
かつては多くの企業で二重就業が禁止されていましたが、平成30年1月に厚生労働省が「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を作成したこともあって、二重就業を解禁する動きが広まりました。
労働者にとっては二重就業が可能になることで、収入の増加やスキルの向上などのメリットがあります。
また、景気悪化による賃金カットや働き方の多様化など、企業にとっても二重就業を認める必要性や意義が高まっています。
2、二重就業のメリットデメリット
二重就業をすることは、会社にとっても社員にとってもそれぞれのメリットとデメリットがあります。企業と労働者それぞれの立場から解説します。
-
(1)会社から見た二重就業のメリット
●社員のスキルアップ
二重就業を許可することで、社員は自社の業務ではできなかった経験やスキルを獲得することができます。他社で得た経験やスキルを社内の業務に反映したり共有したりすることで、会社にとっても利益になります。
●社員の定着率の向上
二重就業を許可しない場合、社員はその仕事に就くために会社を退職してしまう可能性があります。二重就業を許可すれば、社員は退職せずに新たな仕事にチャレンジできるため、社員の離職を防止して定着率を向上させることにつながります。 -
(2)会社から見た二重就業のデメリット
●社員のマネジメントが困難になる
二重就業を許可すると、社員のマネジメントが複雑化するデメリットがあります。二重就業に伴って就業時間の取り扱いが困難になったり、他社での労働時間を把握できないため体調管理が難しくなったりするでしょう。
また、自社と二重就業先の企業で保険者が異なる場合など、従業員の社会保険や労務の管理にも目を配らなければならない可能性があります。
●情報漏えいなどのリスクがある
なんの対策もせずに二重就業を許可してしまうと、悪意なく社員が機密情報などを漏らしてしまう可能性があります。また、社員が競業他社に就業したり利益相反行為をしたりするリスクもあります。 -
(3)社員から見た二重就業のメリット
●収入の増加
社員が二重就業をする主な目的のひとつでもあるように、二重就業によって仕事を増やすことで、収入を増加させることができます。収入が増加することによって、生活の質の向上やモチベーションの増加などにつながります。
その他、会社のメリットと同様に二重就業によって新たなスキルを身に着けたり、専門的な技術の習得につながったりする可能性があります。 -
(4)社員から見た二重就業のデメリット
●保険の適用に注意する必要がある
雇用保険の加入基準のひとつに、(同一の事業所のもとで)週20時間勤務していることという条件があります。労働時間が短い仕事を兼業しているなど、それぞれの勤務先での就業時間が短い場合、雇用保険に加入できない場合があるので注意しましょう。
また、会社のデメリットでも述べたように二重就業をすると従来よりもワークライフバランスが崩れやすくなる可能性があるため、自己管理に気をつける必要があります。
3、就業規則の拘束力と意義
会社における働き方のルールである就業規則において、社員の二重就業を禁止する規定がある場合に、どのような拘束力や意義があるかを解説します。
-
(1)二重就業を禁止する法律はない
二重就業を解禁する企業もでてきたとはいえ、まだまだ就業規則において二重就業を禁止する企業は少なくありません。
就業規則とは、企業において労働者が順守すべきルールをまとめた規則のことです。就業規則には給与規定や退職規定などの労働条件が規定されているほか、社内で守るべき決まりごとなどが規定されています。
ただし、就業規則で規定されている内容はあくまでその企業の規則なので、労働基準法などの法律に違反していれば無効になります。
そして、労働基準法などの法律においては、二重就業を禁止する規定は存在しません。そのため、就業規則において二重就業を禁止したとしても無効となる可能性がある、ということです。 -
(2)就業規則の拘束力
それでは、法律による明確な禁止規定が存在しない二重就業について、就業規則で禁止した場合はどのように取り扱われるのでしょうか。
就業規則による二重就業の禁止については、裁判所はおおむね以下のように判断しています。- 使用者が就業規則によって社員の二重就業を禁止すること自体は、一定の合理性が認められる
- ただし、勤務時間以外について労働者は自分の時間を自由に利用することができるので、勤務時間外の兼業については原則として認められる
- 就業規則による二重就業の禁止が認められるのは、兼業に伴う長時間勤務での疲労によって業務に支障をきたす、機密情報の漏えいのおそれがある、会社の信用が損なわれる、などの事情がある場合に限定される
裁判所の判断をまとめると、二重就業を禁止する規定自体は許されるものの、勤務時間外に兼業するかは基本的に自由であり、禁止が認められるのは例外的な場合に限られるということです。
そのため、就業規則で二重就業を禁止している場合でも、兼業をした社員に対して、事情を問わずに解雇などの懲戒処分をした場合は、処分が無効になる可能性があるので注意しましょう。 -
(3)就業規則の意義
二重就業を禁止する就業規則の規定は、かなり限定的に解釈されていることがおわかりいただけたと思います。それでは、就業規則において二重就業を禁止する意義はどこにあるのでしょうか。
この点、就業規則で二重就業を禁止することは、「社員による二重就業をどのようなケースであっても一律に認めるわけではない」、ということを示すために役立ちます。
二重就業の形態はさまざまであり、場合によっては社員の兼業が会社にとっての利益相反になったり、機密情報の漏えいのリスクのある行為になったりする可能性があります。
就業規則で二重就業を禁止することで、社員の二重就業によって利益相反や機密情報の漏えいなどのトラブルが生じた場合に、会社としては二重就業を全面的に容認していたわけではない、ということを示しやすくなります。
4、二重就業を認めるときの注意点
社員が二重就業をすることを会社が認める場合に、トラブルにならないように注意すべき点を解説します。
-
(1)認める範囲を定める
二重就業を認める場合は、どのような就業形態であれば会社として認めてよいかを、あらかじめ規定しておくことが大切です。
項目としては、二重就業として認められる業務内容、就業時間、就業日、就業場所、就業期間、就業を認める対象者などが重要です。 -
(2)手続きを定める
二重就業として認めてよい範囲が決まったら、次に二重就業を認めるための手続きの方法を定めます。定めておくべき手続きのポイントは以下のとおりです。
- 二重就業を行うために、社員がどのような手続きをする必要があるか(上司や人事担当者に事前に承認を得るか、事後に届け出をしてもよいかなど)
- 二重就業の状況を把握するために、どのような仕組みを構築するか(上司や人事担当者に定期的に報告する仕組みや、報告する方法など)
- 二重就業の内容を変更する場合に、どのような手続きが必要か
-
(3)就業内容を確認する
社員から二重就業の申し出があった場合は、上司や人事担当者はすぐに許可したり却下したりせずに、まずは二重就業の内容を確認しましょう。
二重就業の内容についてチェックすべきポイントは以下のとおりです。- 二重就業が自社との競業にあたらないか
- 業務量や勤務時間がオーバーワークにならない程度か
- 二重就業を行う会社、場所、就業内容など
二重就業の内容を確認する際は、社員に必要以上の情報を求めすぎることで、プライバシーを侵害することがないように注意しましょう。
-
(4)許可後の社員の状態を確認する
二重就業を許可した後は、社員の健康や業務の状態を確認することが大切です。
体力面や時間的に二重就業をする余裕がないにもかかわらず、社員が無理をして二重就業をしている場合は、健康状態が悪化したり業務に支障をきたしたりする可能性があるからです。
また、社員と定期的にコミュニケーションをとることで、体調や業務に問題が生じていないかを確認することも重要です。
5、まとめ
いわゆる副業である二重就業を禁止する法律はありません。就業規則によって二重就業を禁止すること自体は許容されていますが、裁判所は二重就業が禁止される場合を限定的に解釈しています。
二重就業を許可する場合は、許可すべき二重就業の内容の確定、二重就業の許可や変更のための手続きの構築、許可後の社員の状態の把握などが重要です。
就業規則で二重就業を制限すべきか、二重就業をどのように認めるべきかなどでお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所 奈良オフィスにご相談ください。労働問題の経験豊富な弁護士が親身に対応いたします。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています