労働審判は自分でできる? 手続きの流れや弁護士に依頼するべき理由
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裁判所が公表している司法統計によると、令和4年に奈良地方裁判所に申立てのあった労働審判は26件でした。
会社との間で労働問題(解雇、雇い止め、賃金、残業代など)が発生した場合には、話し合いで解決を図るのが基本です。しかし、会社との話し合いが困難な場合は、労働審判を利用してみるとよいでしょう。
労働審判は自分で申立てて手続きを行うことも可能です。ただし、全3回の期日で終結するため、入念な準備が必要となるケースもあります。今回は、労働審判を自分で行う場合の流れやメリット・デメリット、弁護士に依頼するべき理由などについて、ベリーベスト法律事務所 奈良オフィスの弁護士が解説します。
1、労働審判とはどのような手続きか
労働審判とはどのような手続きなのでしょうか。以下では、労働審判に関する基本事項を説明します。
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(1)労働審判の概要
労働審判とは、労働者と使用者との間の労働問題を実情に即して、迅速かつ実効的に解決するための手続きです。労働審判は、裁判官1人(労働審判官)と労働問題に関する豊富な知識と経験を有する労働審判員2人で組織する労働審判委員会が審理を担当します。
労働審判には、以下のような3つの特徴があります。① 迅速な手続き
労働審判は、原則として、3回以内の期日で審理を終了することになっていますので、訴訟に比べると迅速な解決が期待できる手続きといえます。
② 事案に即した柔軟な解決が可能
労働審判の手続きでは、まずは調停で話し合いによる解決が図られ、話し合いでの解決が難しい場合に事案に即した判断(労働審判)が行われます。当事者同士の話し合いによる解決の余地が残されているという点で、柔軟な解決が期待できる手続きといえます。
③ 異議申立てにより訴訟に移行
労働審判に不服がある場合には、異議申立てをすることができます。適法な異議申立てがなされた場合は、労働審判は効力を失い、訴訟手続きに移行します。 -
(2)労働審判の対象となる労働問題とは?
労働審判の対象になるのは、労働関係について個々の労働者と使用者との間で生じた民事に関する紛争が対象になります。これを「個別労働関係民事紛争」といいます。
個別労働関係民事紛争にあたる具体的な労働問題としては、以下のものが挙げられます。- 不当解雇
- 雇い止め
- 賃金や残業代の未払い
- ハラスメントによる慰謝料請求
他方、労働組合と使用者との間に生じた集団的労使紛争については、労働審判の対象外です。
2、労働審判を自分で行う場合の流れ
労働審判を自分で行う場合には、以下のような流れになります。
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(1)労働審判の申立て
自分で労働審判の申立てをする場合には、労働審判の申立書を作成し、労働者側の主張を裏付ける証拠を準備して、裁判所に提出します。労働審判申立書のひな型(作成要領等)は裁判所のホームページからダウンロードすることができます。
なお、労働審判の申立ては、以下のいずれかの裁判所に行います。- 相手方である企業等の住所地の管轄裁判所
- 労働者の就業場所の管轄裁判所
- 当事者が合意した裁判所
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(2)期日の指定・呼び出し
労働審判の申立てが受理されると、裁判所は、申立てから40日以内の日で第1回期日の指定を行います。そして、裁判所は、労働者から提出された申立書類一式と期日の呼び出し場を会社側に送ります。
会社側は、労働者側の主張に反論がある場合には、第1回期日までに答弁書を作成して、裁判所に提出します。 -
(3)第1回期日
第1回期日では、当事者から提出された申立書および答弁書の内容を踏まえて、労働審判委員会から事実関係の聞き取りが行われます。
事実関係の聞き取りが終わると、労働審判委員会から話し合いによる解決(調停)の可能性について打診が行われます。調停は、当事者別々に話が聞かれ、それぞれに対して、労働審判委員会からの心証が開示されます。当事者は、労働審判委員会から開示された心証を踏まえて、調停を成立させるのかを検討することになります。 -
(4)第2回、第3回期日
第1回期日では結論が出ない場合や補充の主張が必要な場合には、2回目以降の期日が設定され、第1回期日と同様に事実関係の聞き取りと和解に向けた調整が行われます。
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(5)労働審判または調停成立
当事者の話し合いの結果、合意に至ったときは調停成立により労働審判の手続きは終了します。
他方、話し合いでは合意に至らなかったときは、労働審判委員会が当事者の主張立証を踏まえて、相当と認める処分(労働審判)を下します。労働審判に不服があれば、労働審判の告知をされた日から2週間以内に異議の申立てをすることができます。当事者双方から期限までに異議申立てがなかった場合、労働審判は確定します。
3、労働審判を自分で行うメリット・デメリット
労働審判を自分で行った場合、以下のようなメリットとデメリットがあります。
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(1)労働審判を自分で行うメリット
労働審判を自分で行うメリットは、費用を節約できるという点です。労働審判を自分ではなく弁護士に依頼して行った場合には、以下のような費用が発生します。
- 法律相談料
- 着手金
- 報酬金
- 実費
- 日当
他方、自分で労働審判を行う場合には、申立手数料(収入印紙)と郵便切手の負担だけで足ります。会社との間でトラブルになっている状態だと、経済的にも余裕がないことが多いため、最低限の費用負担だけで労働審判を利用できるのは大きなメリットといえます。
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(2)労働審判を自分で行うデメリット
労働審判を自分で行う場合には、以下のようなデメリットがあります。
① 申立書の作成や証拠収集の負担が生じる
労働審判の申立てをする際には、労働審判の申立書の作成と労働者の主張を裏付ける証拠の収集が必要になります。
初めて労働審判を利用する場合、どのように申立書を作成すればよいか、どのような証拠が必要になるのかがわからず、申立てまでに相当な時間と手間がかかってしまうおそれがあります。
② 適切な主張立証が困難
労働審判は、原則3回以内の期日で終了します。そのため、限られた時間の中で効果的な主張立証を行わなければなりません。法的観点から適切な主張立証を行うためには、労働問題に関する経験や知識が不可欠になりますので、本人だけでは対応が難しい可能性があります。
③ 訴訟に移行する可能性がある
労働審判に不服がある場合には、異議申し立てにより労働審判は効力を失い、訴訟に移行してしまいます。労働審判は、基本的には話し合いの手続きが中心となりますので、労働者が自分で対応することも可能ですが、訴訟になると専門的かつ複雑な手続きですので、弁護士のサポートを受けるのが得策といえます。
4、労働審判を弁護士に依頼するべき理由
労働審判は、労働者が自分で行うことも可能な手続きです。しかし、以下のような理由から労働審判は弁護士に依頼するのがおすすめです。
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(1)最適な解決方法を選択できる
労働問題を解決する方法には、労働審判以外にもさまざまな方法があります。労働審判は、訴訟とは異なり、迅速かつ柔軟な解決が期待できる手続きですが、その反面、当事者からの異議申し立てにより労働審判の効力が失われ、訴訟に移行してしまいます。
そのため、実際の労働問題の内容や会社側の姿勢によっては、労働審判ではなく最初から訴訟を選択した方が、解決までの期間が短くなることもあります。
最適な解決方法を選択するためには、労働問題に関する知識や経験が必要になりますので、まずは弁護士に相談して、アドバイスしてもらうとよいでしょう。 -
(2)法的観点から適切な主張を組み立てられる
労働審判申立書や主張書面で自分のいいたいことのみを書き連ねても、労働審判委員会に理解してもらうのは難しいといえます。
限られた時間の中で労働審判委員会に労働者側の言い分を理解してもらうためには、法的観点から労働者側の生の主張を再構成する必要があります。
弁護士であれば、ポイントを押さえた主張を展開することができますので、早い段階から労働者側に有利な判断が下される可能性が高くなるでしょう。 -
(3)労働審判や訴訟のサポートをしてもらえる
弁護士に依頼したとしても、労働者本人は、原則として労働審判への出席が必要になります。しかし、弁護士に依頼をすれば、実際の労働審判期日に弁護士が同席して、労働審判委員会からの質疑のサポートをしてもらうことができますので、安心して期日に臨むことができます。
また、訴訟に発展した場合でも引き続きサポートしてもらえるため、一貫して安心して任せることができるでしょう。
5、まとめ
労働審判は、基本的には話し合いの手続きになるため、労働者が自分で行うことも不可能ではありません。しかし、限られた時間の中で労働者側の言い分を労働審判委員会に理解してもらうのは容易ではありませんので、少しでも有利に話し合いを進めたいのであれば、弁護士への依頼をおすすめします。
労働審判の申立てをお考えの労働者の方は、ベリーベスト法律事務所 奈良オフィスまでお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています