有休を使わないとどうなる? 会社に買い取ってもらえるのか?
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令和4年度に奈良県内の労働基準監督署が監督指導を行った317事業場のうち、違法な時間外労働があったものは150事業場でした。
労働者のなかには、仕事が忙しいために年次有給休暇をなかなか使えないという方もおられます。有給休暇は、取得しないと、付与日から2年間で時効により消滅してしまいます。また、在職中は会社に有給休暇を買い取ってもらえないので、計画的に有給休暇を取得することが大切です。
本コラムでは、有給休暇に関する基本ルールや、有給休暇を使わないとどうなるのかなどについて、ベリーベスト法律事務所 奈良オフィスの弁護士が解説します。
1、有給休暇(有休)に関する法律のルール
まずは、労働基準法における、有給休暇に関する基本的なルールを解説します。
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(1)有給休暇が与えられる労働者
有給休暇は、雇い入れから6か月以上継続勤務した労働者(従業員)のうち、その6か月間における全労働日の8割以上出勤した労働者に付与されます。
また、2回目以降の有給休暇は、前回の付与日から1年間において、全労働日の8割以上出勤した場合に付与されます。
正社員に限らず、契約社員やパートやアルバイトなどであっても、上記の要件を満たせば有給休暇を取得可能です。 -
(2)有給休暇の日数
有給休暇が付与される日数は、フルタイム労働者とそうでない労働者の間で差があります。
フルタイム労働者に当たるのは、以下のいずれかに該当する労働者です。- ① 1週間の所定労働日数が5日以上
- ② 1年間の所定労働日数が217日以上
- ③ 1週間の所定労働時間が30時間以上
また、フルタイム労働者には、以下の日数の有給休暇が付与されます(労働基準法39条2項)。
継続勤務期間 付与される有給休暇の日数 6か月 10日 1年6か月 11日 2年6か月 12日 3年6か月 14日 4年6か月 16日 5年6か月 18日 6年6か月以上 20日
一方で、フルタイム労働者以外の労働者には、継続勤務期間と所定労働日数に応じて以下の日数の有給休暇が付与されます(労働基準法39条3項)。
1週間の所定労働日数 4日 3日 2日 1日 1年間の所定労働日数 169日以上216日以下 121日以上168日以下 73日以上120日以下 48日以上72日以下 継続勤務期間 6か月 7日 5日 3日 1日 1年6か月 8日 6日 4日 2日 2年6か月 9日 6日 4日 2日 3年6か月 10日 8日 5日 2日 4年6か月 12日 9日 6日 3日 5年6か月 13日 10日 6日 3日 6年6か月以上 15日 11日 7日 3日 ※1週間の所定労働日数に基づく有給休暇の日数と、1年間の所定労働日数に基づく有給休暇の日数が異なる場合は、より多い日数が適用されます。
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(3)有給休暇は原則自由に取得可能|ただし会社の時季変更権に注意
有給休暇の取得時季は、原則として労働者が自由に決められます(労働基準法第39条第5項本文)。
ただし、例外的に、有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合には、会社(企業)は労働者に対して請求とは異なる時季に有給休暇を与えることが認められています(同項但し書き)。
これを使用者の「時季変更権」といいます。 -
(4)有給休暇の時季指定義務|年5日以上取得させなければならない
年10日以上の有給休暇が付与される労働者については、そのうち5日間につき、使用者が労働者ごとに時季を定めて付与しなければなりません(労働基準法第39条第7項)。
これを「時季指定義務」といいます。
有給休暇の時季指定義務は、仕事の忙しさや周囲への遠慮などから有給休暇の取得がなかなか進まない状況が問題視されていたことを受けて、2019年4月に施行された働き方改革関連法によって新たに設けられたものです。
2、有給休暇(有休)を使わないとどうなる?
有給休暇を使わないと、2年で時効消滅してしまいます。
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(1)有給休暇は2年で時効消滅する
有給休暇は、付与日から2年で時効消滅します(労働基準法第115条)。
たとえば2023年10月1日に付与された有給休暇は、2025年9月30日まで取得可能です。
なお、異なる時期に付与された有給休暇は、先に付与されたものから消化されます。
たとえば2022年に付与された有給休暇と、2023年に付与された有給休暇がいずれも残っている場合には、2022年に付与されたものから使うことになります。 -
(2)強制的に有給休暇を取らせることはできない|ただし時季指定義務は例外
有給休暇の取得は労働者の権利であり、取得するかどうかは労働者の自由です。
したがって、原則として、会社が強制的に有給休暇を取らせることはできません。
ただし、前述のとおり、年10日以上の有給休暇が付与される労働者については、そのうち5日間の時期を指定して与えなければなりません(=時季指定義務)。
会社に時季指定義務がある場合には、労働者の意向にかかわらず、会社側が有給休暇の時季を指定して与えるという形となります。
3、有給休暇(有休)は買い取ってもらえるのか?
「有給休暇をなかなか使えないから、会社に買い取ってもらいたい」と考えている方もおられるでしょう。
しかし、有給休暇の買い取りが認められているのは原則として退職時のみです。
また、退職時においても、会社に買い取る義務はないのです。
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(1)在職中の有休買い取りは原則違法
労働者の在職中に、会社が有給休暇を買い取ることは違法とされています。
有給休暇の付与が会社に義務付けられているのは、労働者にリフレッシュの時間を与えて心身の健康を維持するためです。
有給休暇を与えない代わりに金銭を支払うことは、有給休暇の趣旨に反するため認められません。
ただし、労働基準法によって付与が義務付けられたものでなければ、有給休暇を買い取ることも認められます。
たとえば2年間の時効が完成した有給休暇を買い取ることや、労働基準法に基づく日数を超える日数の有給休暇を労働者との合意により買い取ることは可能です。 -
(2)退職時の有休買い取りはOK|ただし会社に買い取りの義務はない
労働者が退職する際には、会社が有給休暇を買い取ってもらうことに問題はありません。
退職後に有給休暇を取得することはできないので、買い取りは労働者の利益になるためです。
ただし、会社には、退職する労働者の有給休暇を買い取る義務はありません。
有給休暇を買い取ってもらえるのは、あくまでも、会社と労働者が合意した場合に限られます。
4、有給休暇(有休)を使いたくても使えない場合の対処法
労働者には原則として、有給休暇を自由に取得できる権利があります。
したがって、会社が労働者に有給休暇を使わせないのは違法です。
会社の時季変更権が認められることもありますが、あくまでも取得時季を変更できるだけで、取得させないことは認められません。
また、会社が有給休暇を使う人と使わない人を差別することも、人事権の濫用として違法となります。
上司に有給休暇の取得を拒まれたり、忙しすぎて有給休暇を使いたくても使えなかったりする方は、以下のような窓口に相談してください。
人事を担当する部署に、有給休暇を取得できない状況について相談してみましょう。
きちんと対応してもらえれば、迅速に社内での意思疎通が行われ、有給休暇の取り扱いが適正化される可能性があります。
② 労働組合
会社の労働組合がある場合には、有給休暇について団体交渉を依頼することも検討してください。
会社は正当な理由なく、労働組合との団体交渉を拒否できません。
労働組合が組織的に交渉すれば、有給休暇の取り扱いが改善される可能性があります。
③ 労働基準監督署
労働基準監督署は、労働基準法等の遵守状況について各会社を監督しています。
労働者は労働基準監督署に対して、有給休暇に関する違法状態の申告が可能です(労働基準法第104条第1項)。
また、労働基準監督署への申告を理由として、会社が労働者を不利益に取り扱うことはできません(同条2項)。
労働者の申告を受けた労働基準監督署は、事業場に対して臨検(立ち入り調査)を行い、違法状態が存在するかどうかを確認します。
違法状態が発見されれば、会社に対して行政指導(勧告)を行って是正が求められます。
労働基準監督署による勧告が行われれば、会社が速やかに有給休暇の取り扱いを是正する可能性は高いでしょう。
④ 弁護士
弁護士は労働者の代理人として、会社に対して労働者の主張を伝えます。
弁護士に依頼すれば、会社に対して直接的かつ迅速にアプローチできるため、有給休暇の問題を早期に解決できる可能性があります。
5、まとめ
有給休暇を取得できる期間は2年間であり、それを過ぎると時効により消滅します。
また、在職中の有給休暇買い取りは原則として認められないので、計画的に有給休暇を取得しましょう。
もし会社からの圧力や仕事の状況などが原因で有給休暇を取得しづらい場合には、弁護士に相談することも検討してください。
ベリーベスト法律事務所 奈良オフィスでは、労働者からのご相談を受け付けております。
有給休暇をなかなか取得できずに悩まれている方や、会社から有給休暇の取得を拒否されてしまった方は、まずはベリーベスト法律事務所にご連絡ください。
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