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白紙委任状とは?│トラブルになりやすい表見代理や裁判例を解説

2023年07月10日
  • 一般民事
  • 白紙委任状
白紙委任状とは?│トラブルになりやすい表見代理や裁判例を解説

2020年度に奈良市に寄せられた市民相談のうち、法律に関する相談は1151件でした。

法的トラブルにつながる事案のひとつに「白紙委任状」があります。不動産売買などの重要取引につき、他人を信頼して「白紙委任状」を渡して必要な手続きを任せ、後々トラブルに陥るケースです。

白紙委任状はトラブルを誘発するケースが多く、安易に交付するのは非常に危険です。もし白紙委任状の交付を求められた場合には、交付する前に弁護士への相談をおすすめします。

今回は白紙委任状について、問題になりやすい法律上のトラブルや最高裁判例などを、ベリーベスト法律事務所 奈良オフィスの弁護士が解説します。

1、白紙委任状とは?

「白紙委任状」とは、記載事項の一部が空欄とされており、受任者に補充を一任する形態になっている委任状です。

  1. (1)委任状とは?

    「委任状」とは、委任者が受任者に対して何らかの行為・対応を委任する際に、委任者から受任者へ交付する書面です。

    たとえば、以下のような場合に委任状が必要となります。

    • 本人に代わって代理人が契約を締結する際、相手方に対して代理権限を証明する必要がある場合
    • 不動産の登記手続きを代理人(司法書士、弁護士)が行う場合
    • 市区町村役場で公的書類を代理人が取得する場合
    など
  2. (2)一般的な委任状の記載項目

    一般的な委任状には、主に以下の事項が記載されます。

    • ① 委任者の住所・氏名or名称(法人の場合は代表者名も)
    • ② 受任者の住所・氏名or名称
    • ③ 委任する事項
    • ④ ③の事項を受任者に委任する旨
    • ⑤ 委任状の作成日
    など
  3. (3)白紙委任状=一部の事項を受任者が記載するもの

    白紙委任状とは、記載すべき事項の一部を委任者(委任状作成者)が記載せず、受任者が後で記載できるように空欄として交付される委任状です。

    典型的には、委任する事項(委任事項)が空欄とされているものが「白紙委任状」と呼ばれます。

    委任者が手続きに不慣れな場合や、委任者が受任者のことを心底信頼している場合などに、手続きのすべてを受任者に任せる意味で白紙委任状を交付することがあります。

    また、マンションの管理組合員が、管理組合総会において理事長・議長などに議決権行使を一任する場合にも、白紙委任状が交付される例が見られます。

    受任者が委任者の意図どおりに正しく補充記載を行う場合は、特に大きな問題は生じません。しかし、本来の授権よりも広い範囲の委任事項を勝手に記載するなど、受任者が白紙委任状を悪用した結果トラブルになるケースもあるので要注意です

2、白紙委任状について問題になりやすい「表見代理」

白紙委任状については、民法上の「表見代理」が問題になることがよくあります。表見代理が認められると、白紙委任状を交付した委任者(本人)が、財産を失うなど不測の損害を被る可能性があるので要注意です。

  1. (1)表見代理とは

    「表見代理」とは、本来であれば無権代理として無効であるものの、第三者が有効な代理であると信じることに正当な理由がある場合に、当該第三者との関係では代理を有効なものと認める民法のルールです。

    表見代理は、代理人と称する者に勝手に無権代理行為をされた本人と、無権代理を有効と信じて取引に入った第三者の利益を調整するための法理(=権利外観法理)です。

    本人と第三者の両方を保護することはできず、いずれかの犠牲の下で他方を保護することになります。

    有効な代理であるかのような外観を作出したことにつき、本人に一定の責任が認められ、かつ第三者がその外観を正しいと信じても仕方がない事情がある場合には、表見代理によって本人ではなく第三者が保護されます。

  2. (2)3種類の表見代理

    民法上、表見代理の基本類型としては以下の3種類が定められています。

    ① 代理権授与の表示による表見代理(民法第109条1項)
    第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した本人は、その代理権の範囲内において、当該他人が当該第三者との間でした行為について責任を負います。
    ただし、代理権がないことについて当該第三者が悪意または有過失の場合は、表見代理が成立しません。
    (例)
    AがCに対して「Bに不動産Xを売却する代理権を授与した」と伝えたが、実際には、AはBに代理権を与えていなかった。BはAの代理人として、Cに不動産Xを売却した。
    →Cが代理権の不存在について善意無過失であれば、Cが不動産Xの所有権を取得します。

    ② 権限外の行為の表見代理(民法第110条)
    代理人が権限外の行為をした場合において、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときは、当該代理人が当該第三者との間でした行為について、本人が責任を負います。
    (例)
    AはBに対して、不動産Xに係る抵当権設定登記手続きの代理権を与えた。しかしBは、代理権の範囲を超えて、Aの代理人としてCに不動産Xを売却した。
    →Bが不動産Xを売却する代理権を有するとCが信ずべき正当な理由があれば、Cが不動産Xの所有権を取得します。

    ③ 代理権消滅後の表見代理(民法第112条1項)
    他人に代理権を与えた者は、代理権の消滅後に、当該代理権の範囲内において当該他人が第三者との間でした行為につき、代理権消滅の事実を知らなかった当該第三者に対して責任を負います。
    ただし、当該第三者が過失によって代理権消滅の事実を知らなかったときは、表見代理が成立しません。
    (例)
    AはBに対して不動産Xを売却する代理権を与えたが、後に撤回した。しかし、代理権が撤回によって消滅したにもかかわらず、BはAの代理人としてCに不動産Xを売却した。
    →代理権の消滅についてCが善意無過失であれば、Cが不動産Xの所有権を取得します。


    また、上記①と②の重畳適用および②と③の重畳適用による表見代理の成立も認められます(民法第109条第2項、第112条第2項)。

  3. (3)表見代理が成立した場合の影響

    表見代理が成立した場合、本来であれば無権代理により無効であるはずの行為が有効となり、本人にその効果が帰属します。

    たとえば本人を売主、第三者を買主とする不動産の売買について表見代理が成立すれば、本人は不動産の所有権を失い、第三者がその所有権を取得します。

    表見代理によって損害を被った本人は、無権代理人に対して損害賠償を請求できます(民法第709条)。

3、白紙委任状による表見代理が問題になった最高裁判例

白紙委任状に関しては、複数の最高裁判例で表見代理の成否が争われています。白紙委任状に関する代表的な最高裁判例のうち、以下の2つの概要を紹介します。

  • ① 最高裁昭和39年5月23日判決
  • ② 最高裁昭和45年7月28日判決


  1. (1)最高裁昭和39年5月23日判決

    Xは、借入金の担保として自己所有の不動産Rに抵当権を設定するため、Aに白紙委任状2通・不動産の権利証・印鑑証明書を交付しました。

    しかしAは、自ら資金の融通を受ける目的で、Xから受領した白紙委任状等をBに交付しました。

    BはXの承諾を受けていると偽り、BのY会社に対する債務を担保するために不動産Rへ根抵当権を設定しました。さらにBはY会社との間で、当該債務不履行となったことを停止条件とする不動産Rの代物弁済契約を締結しました。

    XはY会社を相手方として、根抵当権・代物弁済契約上の権利の不存在の確認、および根抵当権設定登記・仮登記の抹消を請求する本件訴訟を提起しました。

    本件で主要な争点となったのは、代理権授与の表示による表見代理(民法第109条1項)の成否です。

    最高裁は、不動産登記手続きに要する白紙委任状等が、受任者によってさらに第三者へ交付され、転々流通するのは普通でないことを指摘しました。

    その上で、本人から直接交付を受けた者が白紙委任状を濫用した場合や、誰が行使しても差し支えない趣旨で本人が白紙委任状を交付した場合は格別、そうでなければ濫用者による契約の効果を本人に甘受させるべきではないとして、表見代理の成立を否定しました。

    本件では結論として表見代理が否定されましたが、本人から直接交付を受けた者が白紙委任状を濫用した場合などには、表見代理が成立し得ることが示唆されている点に注意が必要です

  2. (2)最高裁昭和45年7月28日判決

    Yは自己所有の山林MをAに売却し、その所有権移転登記手続きのために、Aの代理人Bを介して、Aに白紙委任状・不動産の権利証・売渡証書・印鑑証明書を交付しました。

    ところがBは、Aから改めて白紙委任状等の交付を受けた後、X1とX2の代理人Cに対して、自らがYの代理人であるかのように装い、X1・X2が共有する山林と、Y所有の山林Mを交換する契約を締結しました。

    X1とX2はYを相手方として、山林Mの所有権移転登記請求訴訟を提起しました。

    本件で主に問題となったのは、代理権授与の表示による表見代理(民法第109条1項)と、権限外の行為の表見代理(民法第110条)を重畳適用できるか否かの点です。

    最高裁は、白紙委任状等がB→A→Bと交付されている点について、AとBがいずれもYの信頼を受けた特定の者であることを指摘し、YのBに対する代理権授与表示があったことを認定しました。

    その上で最高裁は、Bが代理権の範囲を逸脱してX1・X2とYの間の交換契約を締結した点につき、X1・X2が代理権の存在を信ずべき正当の事由があれば、民法第109条・第110条の重畳適用によって表見代理が成立し得ると判示し、原判決を破棄して差し戻しました。

    現在では民法第109条第2項により立法的に解決されていますが、重畳適用による表見代理の成立を肯定したリーディングケースとして、意義の深い判例とされています

4、契約トラブルを予防するには弁護士にご相談を

契約トラブルを予防するためには、法律のルールや解釈を踏まえた上で、ドラフトのチェックや手続きの手配を行う必要があります。しかし、どのように対応すべきかについては慎重な検討を要するケースが多いため、弁護士への相談することをおすすめします。

弁護士は、法律のルールや取引の実情に即して、契約トラブルを効果的に予防し得る対策をアドバイスします。
契約に関するトラブルの発生を懸念し、可能な限り予防したいとお考えの方は、弁護士までご相談ください

5、まとめ

白紙委任状が受任者によって濫用されると、表見代理をはじめとした契約トラブルに巻き込まれるリスクがあります。そのため、白紙委任状を交付することは避け、委任状の記載事項はすべて受任者が記載すべきです。

ベリーベスト法律事務所は、契約の締結やトラブルの予防に関するご相談を随時受け付けております。重要な契約を締結するに当たって、トラブルのリスクを最小化したい場合には、ベリーベスト法律事務所 奈良オフィスにご相談ください

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

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