代引き詐欺で代金を払ってしまった! 取り戻せる?
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2020年に奈良市に寄せられた消費生活相談は2196件でした。
注文していない商品を送り付け、後から代金を請求する悪徳商法を「代引き詐欺」または「送り付け商法」といいます。
代引き詐欺(代金引換郵便詐欺、送り付け商法)に遭った場合は、業者からの請求に一切応じないことが大切です。万が一騙されて代金を支払ってしまった場合には、警察などへ相談しましょう。
今回は代引き詐欺(送り付け商法)について、法律上のルールや相談先・対処法などをベリーベスト法律事務所 奈良オフィスの弁護士が解説します。
出典:「奈良市統計書「統計なら」令和3年版(2021年版)」(奈良市)
1、代引き詐欺(送り付け商法)とは?
「代引き詐欺(送り付け商法)」とは、業者が消費者に対して注文していない商品を送り付け、後から代金を請求する詐欺・悪徳商法の手法です。
通信販売等による売買契約は、売主(業者)と買主(消費者など)の間の合意によって成立します。したがって、消費者が注文していない商品については、売買契約が成立していないため、業者に対して代金を支払う義務を負いません。
しかし、代引き詐欺を行う業者は、
- 「こちらには申込み情報が届いている。あなたが忘れているだけではないか」
- 「商品を勝手に処分したなら、こちらにも損害が発生しているので代金を払ってもらう必要がある」
などと言葉巧みに消費者の不安を煽り、義務のない代金を支払わせようとします。
もし代引き詐欺に遭ってしまった場合は、このような業者のかく乱や脅しに惑わされることなく、代金の支払いを毅然と拒否しましょう。
2、代引き詐欺で送り付けられた商品は、処分してよい
代引き詐欺で送り付けられた商品は、自分で使ってしまっても、捨てても構いません。業者に対する代金の支払いは一切不要です。
また、送られてきた商品について、業者からの連絡を待って保管する必要もありません。
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(1)自分で使っても、捨てても構わない|代金の支払いは不要
売買契約が成立していないにもかかわらず、消費者に対して一方的に送付した商品については、業者は消費者に対して返還を請求することができません(特定商取引法第59条、第59条の2)。
したがって、代引き詐欺で送り付けられた商品は、受け取った消費者が自由に処分できます。自分で使ってもよいですし、捨ててしまっても構いません。
いずれにしても、売買契約は成立していないので、業者に対する代金の支払いは不要です。 -
(2)業者からの連絡を待つ必要もない|14日間の保管も法改正により不要に
代引き詐欺で送り付けられた商品について、業者からの連絡を待つ必要もありません。
以前は商品を受け取ってから14日間、送り付けられた商品を処分せずに保管しなければなりませんでした。
しかし、2021年7月6日に施行された改正特定商取引法により、業者は直ちに送り付けた商品の返還を請求できなくなったことに伴い、14日間の保管も不要となりました。
したがって消費者は、業者からの連絡を待つことなく、送り付けられた商品を直ちに処分して構いません。
3、代引き詐欺業者への連絡はNG|公的機関へ相談を
代引き詐欺で送り付けられた商品の取り扱いについて、詐欺業者に確認の連絡を入れる必要はありません。
むしろ、騙されて契約を締結させられるリスクを回避するため、詐欺業者に連絡することは避けるべきです。代引き詐欺の疑いがある荷物が届いた場合には、消費者ホットラインや警察に相談しましょう。
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(1)連絡しなくてもペナルティなし
代引き詐欺で送り付けられた商品について、業者に連絡しなくてもペナルティは全くありません。
前述のとおり、売買契約が成立していないにもかかわらず消費者へ送り付けた商品につき、業者は直ちに返還請求権を失います。消費者が業者に対して、確認の連絡をしたか否かを問いません。
また、売買契約は成立していないので、確認の連絡をしたか否かにかかわらず、売買代金を支払うことも不要です。
したがって、業者に確認の連絡をしなくても、商品の返還義務や売買代金の支払義務を負うことはないのでご安心ください。 -
(2)連絡すると、騙されて契約を締結させられるリスクがある
詐欺業者に対して連絡をすると、言葉巧みに不安を煽られ、騙されて売買契約を締結させられるリスクがあります。
不当な勧誘が行われた場合は、消費者契約法や特定消費取引法に基づく契約取消しを主張する余地がありますが、トラブルが複雑化してしまうことは避けられません。
また、一度売買代金を支払ってしまうと、業者が倒産した場合などには回収できなくなる可能性があります。
前述のとおり、そもそも業者に確認の連絡をする義務はありません。騙されて契約を締結してしまうリスクなどを避けるためにも、業者への連絡は避けましょう。 -
(3)代引き詐欺に関する主な相談先
代引き詐欺と思われる荷物が届き、対処法がわからない場合には、以下の窓口へ相談することをお勧めいたします。
詐欺サイトを通じたネット詐欺などについても、各窓口への相談が可能です。① 消費者ホットライン
消費者庁が設置している相談ダイヤルです。消費生活センターや消費生活相談窓口の案内を無料で受けられます。紹介先の窓口に相談すれば、代引き詐欺への一般的な対処法や注意点などを教えてもらえます。
参考:「消費者ホットライン」(消費者庁)
② 各地域の警察署
業者から連絡があり、売買契約の締結を求めるような詐欺行為や脅迫行為などを受けた場合には、各地域の警察署に相談しましょう。詐欺業者の処罰を求めるため、被害届の提出や刑事告訴を行うこともできます。
③ 弁護士
詐欺業者に対して代金を支払ってしまった場合には、返金請求について弁護士に相談することも考えられます。特に、数十万円以上の高額な詐取をされてしまった場合には、お早めに弁護士へご相談ください。
4、通信販売でトラブルになった場合の対処法
ネット通販で商品を購入したものの、届いた商品が思っていたのと全く違った、予期せぬ追加費用を請求されたなどのトラブルが生じた場合には、以下の対応を行うことが考えられます。
- ① 契約の取消し
- ② 契約の解除
- ③ 不当条項の無効を主張
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(1)契約の取消し
業者によって不当な勧誘行為がなされた場合には、通信販売の売買契約を取り消すことができます(消費者契約法第4条)。
<契約を取り消せる場合の例>- 業者が消費者に対して、重要事項について異なる事実を告げた場合
- 将来における変動が不確実な事項につき、業者が消費者に対して断定的判断を提供した場合
- 消費者にとって不利益となる事実を、業者が故意または重大な過失によって消費者に告げなかった場合
- 進学、就職、結婚、生計、容姿、体型などについて消費者の不安を煽る勧誘が行われた場合
- 断能力の低下した消費者に対して、現在の生活の維持に関して不安を煽る勧誘がなされた場合
- 霊感など実証困難な特別な能力による知見として、消費者の不安を煽る勧誘がなされた場合
- 業者が消費者に対して先に商品を送り付けて、契約を締結しなければ損失補償を請求する旨を告げた場合
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(2)契約の解除
送られてきた商品が、通販サイト上の表示内容に適合していない場合、消費者は業者に対して、完全な商品への交換を請求できます(契約不適合責任、民法第562条第1項)。
業者が交換に応じない場合には、売買契約を解除することが可能です(民法第564条、第541条、第542条)。この場合、売買代金全額の返還を請求できます。
また、通信販売によって購入した商品は、「返品不可」の特約が付されていない限り、商品の引渡しを受けた日から起算して8日以内であれば、売買契約を解除して返品することができます(特定商取引法第15条の3)。
この場合も売買代金全額の返還を請求できますが、返品に要する費用(送料など)は購入者の負担となる点にご注意ください。 -
(3)不当条項の無効を主張
消費者が通信販売によって商品を購入した場合において、業者との売買契約に定められた以下の条項は、消費者契約法に基づき無効となります。
- 事業者の損害賠償責任を免除する条項等(同法第8条)
- 消費者の解除権を放棄させる条項等(同法第8条の2)
- 事業者に対し、後見開始の審判等による解除権を付与する条項(同法第8条の3)
- 消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等(同法第9条)
- 消費者の利益を一方的に害する条項(同法第10条)
悪徳業者が通信販売を行う商品の中には、購入時の契約書面において、消費者にとって不当に不利な内容が小さな字で書きこまれているケースが珍しくありません。
そのような条項が定められている場合にも、消費者契約法に基づいて無効を主張できる場合があります。
5、まとめ
代引き詐欺(送り付け商法)によって送られてきた商品は、直ちに処分して構いません。業者に対する代金の支払いは一切不要ですので、請求を受けても毅然と拒否しましょう。
代引き詐欺への対処法がわからない場合には、消費者ホットラインに連絡するか、または警察に相談することをおすすめします。また、すでに支払ってしまった代金の返還を請求したい場合には、ベリーベスト法律事務所 奈良オフィスの弁護士にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています