お墓を相続したくない! 継承は拒否できるか? 放棄する方法を解説

2021年09月30日
  • その他
  • 相続したくない
お墓を相続したくない! 継承は拒否できるか? 放棄する方法を解説

令和元年度の衛生行政報告例によれば、奈良県の墓地の総数は4936件でした。先祖の墓は代々当主が守るという考えも現在では薄れつつあり、奈良県においても、お墓は誰が管理するのかということは身近な問題ではないでしょうか。

被相続人が残した預貯金や不動産などの財産は相続人が受け継ぎますが、お墓に関しては相続財産とはみなされず、祭祀(さいし)承継者に選ばれた方が承継します(民法897条1項)。

したがって、お墓を相続したくない、承継を拒否したいと考える場合は、お墓を承継することになる祭祀承継者の制度について理解することが重要です。そこで今回は、祭祀承継者の制度について弁護士がわかりやすく解説します。

1、お墓を含む祭祀財産とは?

まず初めに、お墓を承継する仕組みや、祭祀財産や祭祀承継者について解説します。

  1. (1)お墓を承継する仕組み

    前述の通り、民法においてお墓は相続の対象ではありません。

    被相続人が亡くなって相続が開始すると、相続財産はまず相続人に包括的に承継されます。
    一方、お墓は相続財産に含まれないため包括承継はされず、各相続人による分配の対象にもなりません。

  2. (2)祭祀財産とは

    お墓は法律において墳墓(ふんぼ)と呼ばれます。墳墓は祭祀財産の一種です。祭祀財産とは神仏や先祖を祀るためのもので、民法897条において、系譜、祭具、墳墓の3種類が規定されています。

    ●系譜とは
    先祖から子孫に続いている血縁関係のつながりを表す記録や絵図のことです。いわゆる家系図や家系譜、祖先伝来の家系を示す冊子や巻物などが系譜にあたります。

    ●祭具とは
    祭祀や礼拝に用いられる器具のことです。儀式や供養などでどのような器具が使用されるかは宗教・宗派によって異なりますが、位牌、仏壇、神棚、霊位、十字架、盆ぢょうちんなどが祭具の典型例です。

    ●墳墓とは
    いわゆるお墓のことで、故人の遺体や遺骨が埋葬されている設備です。墓石、墓碑、霊屋、埋棺などが墳墓にあたります。解釈上、墓地も墳墓に含まれます。

  3. (3)祭祀承継者とは

    祭祀財産である系譜、祭具、墳墓の所有権は、祭祀承継者が承継することが民法897条1項に規定されています。

    祭祀承継者の役割は、祭祀財産を取得し、墓参りや法事などの祭祀を主宰することです。祭祀継承者や祭祀主宰者と呼ばれることもあります。祭祀承継者は原則一人が選ばれますが、複数人が祭祀承継者になる場合もあります。

2、祭祀承継者は誰がなるのか

誰が祭祀承継者になるのかについて、祭祀承継者を選択するルールや、選ぶ際の注意点を解説していきます。

  1. (1)祭祀承継者は民法の規定で選ぶ

    相続人の一人が祭祀承継者になるのが一般的ですが、祭祀承継者になるための資格は特にないため、相続人以外の方でも親族でなくても祭祀承継者になることはできます。また、複数の祭祀承継者を指定することもできます。

    祭祀承継者を選ぶ方法は民法897条に規定されており、同条のルールにしたがって祭祀承継者を決めることになります。祭祀承継者を選ぶ方法は以下の通りです。

    • 被相続人が指定した者が祭祀承継者になる
    • 被相続人の指定がない場合は、慣習にしたがって祖先の祭祀を主宰すべき者が祭祀承継者になる
    • 被相続人の指定がなく、慣習も明らかでない場合は、家庭裁判所が祭祀承継者を選ぶ
  2. (2)祭祀承継者を指定する場合の注意点

    祭祀承継者を選ぶ場合、まずは被相続人の指定が優先されます。祭祀承継者を指定する方法は文書だけでなく口頭でも可能ですが、遺言書で指定するのが一般的です。

    被相続人が指定できる祭祀承継者に制限はないため、法律上は相続人や親族以外の方が祭祀承継者になることもできます。ただし、墓地によっては規則で承継者を相続人や親族に限定している場合もあるので注意が必要です。

    なお、本人の同意がなくても祭祀承継者を指定することはできますが、トラブルを防止するには事前に了承を取り付けておくことが肝要でしょう。

  3. (3)祭祀承継者の指定がない場合

    被相続人が祭祀承継者を指定しなかった場合、次に慣習によって祭祀承継者が選ばれます。慣習とは、社会生活における特定の事項について、反復して行われているならわしが一種の社会規範になっている状態です。現代では、明確な慣習は認められることは難しいといわれています。

  4. (4)慣習が不明な場合

    被相続人による指定がなく、祭祀承継者を決める慣習も明らかでない場合は、最終的に家庭裁判所が祭祀承継者を指定することになります。

    方法としては、相続人などの利害関係人が、家庭裁判所に祭祀承継者指定の調停、または審判を申し立てます。申立権者に係る規定はありませんが、共同相続人は全員が参加しなければならないとされています。

    なお、家庭裁判所の手続きの中には最初に必ず調停をしなければならないものもありますが、祭祀承継者の指定の場合は、調停をせずに審判を申し立てることもできます。

    家庭裁判所が審判によって祭祀承継者を指定する場合、どのように祭祀承継者を選ぶかは民法に規定はありません。

    従前の祭祀主宰者(被相続人)の意思、相続人と祭祀承継者の身分関係、過去の生活関係や生活感情の緊密度、祭祀を主宰する意欲や能力、利害関係人の意見などを総合的に考慮して、もっともふさわしい方を祭祀承継者に指定します。

3、お墓の祭祀承継は拒否できるのか

もしも祭祀承継者となった場合、お墓を受け継ぐことを拒否できるのでしょうか。相続との関係や、祭祀承継者の権利義務などとともに解説します。

  1. (1)祭祀承継者になることは拒否できない

    残念ながら、被相続人の指定、慣習、家庭裁判所の選択などで祭祀承継者に選ばれると、祭祀承継者になることを拒否することはできません。

    相続人は相続放棄の手続きにより、相続人としての地位を拒否することができますが、祭祀承継者には相続放棄のような制度はないのです。

    なお、祭祀財産は相続財産には含まれないため、相続を放棄しても祭祀承継者に選ばれて祭祀財産を受け継ぐ可能性はあります。

  2. (2)祭祀承継者は相続で優先されない

    祭祀承継者になると墓地などの祭祀財産を受け継ぐだけでなく、墓地の管理料や永代供養費の支払い、法要の営み、檀家としての費用などの経済的な負担を伴うのが一般的です。

    上記のような費用は、相続人や親族の間で特別な取り決めがあるような場合を除き、基本的に祭祀承継者が負担することになります。祭祀承継者は経済的な負担を理由に、他の相続人や親族に対して当然に費用を請求できるわけではありません。

    また、祭祀承継者に選ばれたからといって、相続財産について他の相続人よりも多い取り分を当然に主張できるわけではありません。

    もっとも、祭祀承継者の経済的な負担を考慮して、被相続人の意志や他の相続人の合意のもとに、遺言や遺産分割協議などで有利な取り計らいをすることはできます。

    遺産相続と併せて、祭儀承継者についても弁護士に相談することは、のちのちの親族間のトラブル回避につながるでしょう。お墓の承継でお悩みの場合は、弁護士に相談することを検討してみるのもおすすめです。

  3. (3)祭祀承継者の権利義務について

    祭祀承継者は一般に供養などの祭祀を主催する立場ですが、祭祀を主催する義務を負うわけではありません。

    したがって、制度上は祭祀を主宰しなくても罰則などは課されません。

    さらに、とくに親族などの同意がなくても自分の意志で祭祀財産を処分することも可能なため、継承人が役割をきちんと果たさずに、祭祀財産を勝手に売却されてしまう可能性もあります。

    祭祀承継者になることを拒否できない反面、祭祀財産の管理者としては広い自由が認められているのです。祭祀承継者の選定には、意志や能力などを十分に考慮して、祭祀承継者として誰がふさわしいかを真剣に検討することが重要です。

4、祭祀承継者の変更と手続き

一度祭祀承継者になると、通常は亡くなるまで祭祀承継者としての地位が存続しますが、何らかの理由で祭祀承継者を継続できない場合は、生前に祭祀承継者を変更する方法もあります。

祭祀承継者を変更するには、当事者間の合意による場合の他家庭裁判所に祭祀承継者指定の申し立てをする方法があります。手続きの方式は、慣習がない場合に家庭裁判所に祭祀承継者を指定してもらう場合と同様、調停と審判があります。

また、祭祀承継者が墓の世話や供養をしない場合などに、親族が祭祀承継者指定の申し立てをすることで変更が認められる可能性もあります。

ただし、家庭裁判所に申し立てをしても祭祀承継者の変更が必ず認められるとは限りません。祭祀承継者を変更すべきといる具体的な事情があることなどが重要です。やむを得ない理由がある場合、まずは相続手続きの経験豊富な弁護士に相談してみましょう。

5、まとめ

お墓は相続財産ではなく祭祀財産なので、相続の対象にはなりません。祭祀財産は、祭祀承継者に選ばれた方が承継して所有します。祭祀承継者を選ぶ方法には優先順位があり、被相続人の指定、慣習、家庭裁判所の選定の順に優先されます。

祭祀承継者は法律上、必ずしも祭祀を主宰する必要はなく、祭祀財産を処分することもできるため、のちのちのトラブルを避けるためにも誰を祭祀承継者に選ぶかは慎重に検討する必要があります。

相続や祭祀財産についての問題は、親族や兄弟のさまざまな思いや考えが表面化し、トラブルが深刻化することも珍しくありません。まずは経験豊富な弁護士にご相談ください。ベリーベスト法律事務所 奈良オフィスの弁護士が、事案の解決に向けて誠心誠意サポートいたします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています