再婚すると相続はどうなる? 子どもの争続を回避するためには
- その他
- 再婚
- 相続
奈良県の統計によれば、平成30年の奈良市内における婚姻件数は1420件、離婚件数は520件でした。単純計算で1日あたり3~4組が婚姻し、およそ1~2組が離婚していることになります。
離婚の背景にあるものはさまざまです。何らかの理由によって離婚し再婚することはめずらしくありません。しかし、子連れで再婚した場合、のちのちに発生する相続において、前妻の子ども、前夫との間に生まれた子、自身の子ども、それぞれの相続の権利はどうなるのか、心配になる方もいらっしゃるでしょう。
そこで今回は、再婚をした場合の子どもの相続関係について、相続問題の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所 奈良オフィスの弁護士が解説します。
1、離婚・再婚すると相続はどうなるか?
離婚や再婚をした場合に相続がどうなるのかについて、相続の基礎知識とともに解説します。
-
(1)相続の基礎知識
相続とは、亡くなった方の預貯金や不動産などの財産を包括的に引き継ぐことです(民法896条本文)。亡くなった方を被相続人といい、引き継ぐ方を相続人といいます。
相続の対象となる財産を相続財産といいます。相続財産は預貯金や不動産などの利益となるプラスの財産(積極財産)だけでなく、債務や借金などのマイナスの財産(消極財産)も含まれます。
誰がどのような割合で相続するかは、法律上の定めがあり(民法886条から890条、900条)、規定されている相続人を法定相続人、規定されている相続財産の割合を法定相続分といいます。
ただし、法定相続分の割合は、遺言によって一定程度変更することができます(民法902条1項)。そのため、遺言によって、法定相続分と異なる割合で財産を相続することもできますし、遺言によって、相続人以外の人に対して、一定の限度で財産を譲り渡すこともできます(遺贈、死因贈与)。 -
(2)離婚・再婚後の配偶者の相続権
離婚・再婚後の相続について、基本的な事項を確認しましょう。
AとBが婚姻した後にAが亡くなった場合、配偶者であるBは相続人(民法890条)として、Aを相続します(民法896条本文)。
他方で、AとBが離婚した後にAが亡くなった場合、Aが再婚したか否かにかかわらず、Bは相続人となりませんから、BはAを相続しません。
婚姻が成立するとBはAの配偶者となりますが、AとBが離婚した場合、BはAの配偶者としての地位を失うからです。
BがAとの離婚後にCと再婚し、その後Cが亡くなった場合、BはCの相続人にあたります。BはCとの再婚によってCの配偶者となったためです。
なお、BとCが再び離婚した場合は、離婚以後、BはCの配偶者にはあたりませんから、離婚後にCが亡くなった場合、Cを相続することができません。
2、再婚後の子どもの相続権
上記で確認したとおり、離婚した後に、夫婦の一方が他方を相続することはできませんが、婚姻期間中に夫婦の間で生まれた子どもは、離婚した親を相続できるのでしょうか。
子どもの相続がどうなるかについて、子どもの属性ごとに解説していきます。
-
(1)連れ子の相続
いわゆる連れ子の典型例は、AがBと再婚したときに、すでにAD間の子Cがおり、AとBがCを引き取って養育する場合です。
この場合、Aが再婚した後にBが亡くなった場合、原則として連れ子CはBの財産を相続しません。なぜなら、CはBと法律上の親子関係にないため、Bの相続人に当たらないからです。
例外的に、BがCを養子とする養子縁組をした場合、Cは縁組の日からBの嫡出子となりますから(民法809条)、Bの相続人として(民法887条1項)、Bを相続できます。
一方、Cは常に実親Aの相続人にあたります。したがって、もし実親でないBと連れ子Cが養子縁組をした場合、子どもは実親Aと、実親でないB、両方の相続人として、AとBを相続できることになります。
また、Cは、実親Dの子どもとして、Dの相続人にもあたります。離婚は、AD間の婚姻関係を消滅させるのみでありCD間の親子関係に影響しないためです。 -
(2)再婚後に生まれた子どもの相続権
AとBが再婚した後に妊娠、出生した子どもは、AB双方と実親子の関係が生じる(民法772条1項、最判昭和37年4月27日)ため、遺産の相続権が認められます。
なお、婚姻期間中に妻が妊娠、出産した子どもについて、夫が自らの子どもであることを認めないケースがありえますが、この場合については説明を省略します。
3、連れ子を養子縁組したら相続はどうなるか?
先ほどご説明したとおり、連れ子が再婚相手と養子縁組をしていれば、子どもは再婚相手の子どもとして、再婚相手を相続します。
実子と養子に相続分の差はなく、平等の割合で相続します。
以下、それぞれのケースについて具体例で見ていきましょう。
母親が連れ子Aを連れて再婚した後に、実子Bが生まれて、再婚相手が亡くなりました。
相続財産は1000万円で、連れ子Aと再婚相手が養子縁組をしていない場合、それぞれの法定相続分は以下のようになります。
- 母親:2分の1=500万円
- 連れ子A:相続人にあたらない
- 実子B:2分の1=500万円
一方、同様のケースで連れ子Aと母親の再婚相手丙が養子縁組をしている場合、それぞれの法定相続分は以下のようになります。
- 母親:2分の1=500万円
- 連れ子A:(2分の1×2分の1=)4分の1=250万円
- 実子B:(2分の1×2分の1=)4分の1=250万円
母親から見ると、連れ子Aも実子Bも自分の子どもですが、実子Bは何もしなくても父親の遺産を相続できるのに対し、連れ子Aは養子縁組をしなければ相続できないことになります。
4、再婚家庭の相続対策
前妻の子ども、連れ子、再婚後に生まれた子どもなど、再婚家庭においては相続関係が複雑になるケースが少なくありません。相続争いを回避するには、生前から、遺言や遺留分など相続関係の制度に配慮することが重要です。
再婚家庭が相続争いで揉めないためのポイントとして、遺言と遺留分について解説します。
-
(1)遺言とは
遺言は、一般的には相続財産の分割割合、処分方法などを示すことで、被相続人の死後、円満な遺産相続の実現を助けるためにされるものです。
遺言をすると、どの相続人がどの遺産を相続するかについて、原則として遺言者の意思で決めることができます。相続する順番や割合を法的に定めた法定相続の順位や法定相続分にも原則として拘束されません。
ただし、例外的に、遺留分を侵害する相続分の指定は、遺留分侵害額請求(民法1046条)(民法改正前の遺留分減殺請求に相当します)の対象となり、新たな紛争を引き起こしてしまうため、注意が必要です。
また、遺言によって、相続人以外の人に対しても、財産を遺贈(民法964条本文)することができます。
たとえば、養子縁組をしないと連れ子は相続人にあたりませんが、遺贈をすることができれば、養子縁組をしなくても連れ子に財産を残すことができます。
ただし、遺言によってかえって相続人同士が争うことがないよう、あらかじめ弁護士に相談し冷静な第三者の意見を取り入れたうえで、遺言の内容を検討することをおすすめします。 -
(2)遺留分とは
一定の法定相続人には相続財産の最低限の取り分が法律によって認められています。これを遺留分といいます(民法1042条)。
遺留分を有する方を遺留分権利者といいます。遺留分権利者は被相続人の配偶者、両親や祖父母などの直系尊属、子どもや孫などの直系卑属です。被相続人の兄弟姉妹は遺留分権利者ではありません。
被相続人の子どもにも遺留分があるため、被相続人と養子縁組をした連れ子にも、遺留分が認められます。
遺留分が侵害された場合、遺留分権利者は侵害された額に相当する金銭の支払いを請求することができます。これを遺留分侵害額請求権といいます(民法1046条)。
たとえば、「相続財産を全て実子に相続させる」という遺言書があった場合、養子縁組をした連れ子は自分の遺留分を侵害されることになるので、遺留分に相当する金銭の支払いを実子に請求することができます。
ただし、遺留分を侵害する内容の遺言があっても、遺言自体が無効にはなることはありません。遺留分侵害額請求権を行使するかどうかは、遺留分権利者が判断しなければなりません。何もしなくても当然に遺留分が補償されるわけではないので、注意が必要です。
5、みなし実子とは(相続税と養子)
相続税の課税においては、連れ子であっても実子とみなす制度があり“みなし実子”と呼ばれます。
では、みなし実子とは、どのようなケースで利用される制度なのでしょうか。
養子の人数が増えると相続税の控除額が増えるため、節税目的で養子縁組を行うケースがあります。しかし、節税を目的とした養子縁組を繰り返すことを防ぐために、控除の対象となる養子の人数には以下の制限があります。
すなわち
- 相続人に実子がいる場合は養子1人まで
- 相続人に実子がいない場合は養子2人まで
とされます。
しかし、この取り扱いの例外として、「被相続人の配偶者の実子であり、被相続人の養子になった者」などの条件を満たした場合は、養子であっても実子としてみなし、養子の人数制限にカウントしないことが認められています。これが、みなし実子です。
6、まとめ
再婚をした場合、前妻に引き取られた子ども、連れ子、再婚後に生まれた子どもなど、子ども同士で相続トラブルになる可能性があります。
トラブルを事前に防止するには、最低限の取り分である遺留分に注意しつつ、適切な遺言書を作成することが大切です。特に、再婚などによって、相続関係が複雑になった場合、適切な遺言をしないと、大きな相続トラブルの種になるおそれがあります。円満相続のためにも、遺言書作成の際は弁護士に相談することをおすすめします。
相続手続でお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所 奈良オフィスにご相談ください。相続問題の経験が豊富な弁護士が、円満な相続の実現に向けて尽力いたします。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています