15分単位で残業時間を切り捨てるのは違法? 残業代の正しい計算方法

2023年02月22日
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15分単位で残業時間を切り捨てるのは違法? 残業代の正しい計算方法

長時間労働が疑われるとして、2021年度に奈良県内の労働基準監督署が監督指導を行った事業場は343事業場でした。中には、長時間労働と残業代未払いが同時に発生しているような事業所もあるのではないでしょうか。

残業時間は、たとえ15分、30分以内であっても原則として切り捨ては違法です。もし残業代が正しく支払われていない場合は、会社に未払い残業代を請求しましょう。残業代請求で悩んだら、まずは弁護士への相談がおすすめです。

今回は15分単位などで残業代(残業時間)を切り捨てることの違法性や、正しい残業代の計算方法などをベリーベスト法律事務所 奈良オフィスの弁護士が解説します。

出典:「長時間労働が疑われる事業場に対する令和3年度の監督指導結果を公表します」(奈良労働局)

1、15分単位での残業時間切り捨ては原則違法

会社は従業員に対し、原則として残業代を1分単位で支払わなければなりません。

残業代を切り上げて計算することは、従業員にとって有利なので認められます。これに対して、15分単位・30分単位などで切り捨てて計算することは、本来支払うべき残業代(賃金)を支払っていないものとして、労働基準法違反に当たります。

2、残業時間の端数処理が認められるケース

残業時間(残業代)の切り捨ては原則として違法ですが、以下の場合には例外的に、残業時間の端数処理が認められています(昭和63年3月14日基発第150号)。

  • 1円未満の端数を四捨五入する場合
  • 1時間未満の端数を1時間単位に丸める場合


これ以外の場合には、残業時間の端数処理は違法となる可能性が高いのでご注意ください。

  1. (1)1円未満の端数を四捨五入する場合

    1時間単位で残業代を計算した際に1円未満の端数が生じた場合、50銭未満の端数を切り捨て、50銭以上を1円に切り上げることは認められます。

    (例)
    • 1時間の時間外労働につき、計算された残業代が2768.75円(1時間当たりの基礎賃金:2215円、割増率25%)だった場合に、2769円の残業代を支払う
    • 1時間の時間外労働につき、計算された残業代が2761.25円(1時間当たりの基礎賃金:2209円、割増率25%)だった場合に、2761円の残業代を支払う


    このような四捨五入の取り扱いは、常に労働者の不利になるものではなく、事務簡便を目的としたものであるため問題ないとされています。

    なお、1円未満の端数であっても、一律切り捨てとする場合には違法の疑いがあるのでご注意ください。

  2. (2)1時間未満の端数を1時間単位に丸める場合

    1か月単位で集計した時間外労働・休日労働・深夜労働につき、各労働時間の合計に1時間未満の端数が生じた場合、30分未満の端数を切り捨て、30分以上を1時間に切り上げることは認められます。

    (例)
    • 1か月間で15時間40分の時間外労働をした労働者の残業代を計算する際、16時間の時間外労働をしたものと取り扱う
    • 1か月間で17時間20分の時間外労働をした労働者の残業代を計算する際、17時間の時間外労働をしたものと取り扱う


    このような取り扱いも、常に労働者の不利になるものではなく、事務簡便を目的とするものとして問題ないとされています。

3、残業代の正しい計算方法

会社から支払われている残業代の金額に疑問を抱いた方は、ご自身で正しい残業代を計算してみましょう。難しければ、弁護士に相談するのがおすすめです。

正しい残業代は、以下の手順で計算します。

  • ① 1時間当たりの基礎賃金を求める
  • ② 残業時間を集計する
  • ③ 割増率を適用して残業代を計算する


  1. (1)1時間当たりの基礎賃金を求める

    まずは、残業代計算の基礎となる「1時間当たりの基礎賃金」を求めましょう。

    「基礎賃金」は、計算期間中に支給された賃金の総額から、以下の手当を除外した金額です。

    • 時間外労働手当、休日手当、深夜手当
    • 家族手当
    • 通勤手当
    • 別居手当
    • 子女教育手当
    • 住宅手当
    • 臨時に支払われた賃金
    • 一か月を超える期間ごとに支払われる賃金


    たとえば2023年1月に支払われる賃金につき、計算期間が同じ2023年1月であるとします。この場合、2023年1月中に支給される予定の賃金総額から、上記の手当を除外した金額が基礎賃金です。

    基礎賃金を月平均所定労働時間で割ると、1時間当たりの基礎賃金が求められます。
    たとえば、2023年1月の基礎賃金が32万円、月平均所定労働時間が160時間であれば、1時間当たりの基礎賃金は2000円です。

  2. (2)残業時間を集計する

    残業時間は、以下の残業の種類ごとに区分して集計します。

    (a)法定内残業
    所定労働時間を超え、法定労働時間(原則として1日当たり8時間、1週間当たり40時間)を超えない部分の残業時間です。

    (b)時間外労働
    法定労働時間を超える部分の残業時間です。

    (c)休日労働
    法定休日における労働時間です。1週間に複数の休日がある場合には、そのうち1日のみが法定休日に当たります。法定休日に当たる日は、就業規則などの定めによって決まります。定めがなければ、日曜から土曜を1週間として、もっとも後ろに位置する日が法定休日です。法定休日ではない休日に労働した場合は、法定内残業または時間外労働となります。

    (d)深夜労働
    午後10時から午前5時までの労働時間です。法定内残業・時間外労働・休日労働と重複することもあります。


    勤怠管理システムの記録や、業務メールの送受信履歴などを参考にして、正確に残業時間を集計しましょう。

  3. (3)割増率を適用して残業代を計算する

    1時間当たりの基礎賃金と残業時間が把握できたら、以下の式によって残業代を計算します。

    残業代=1時間当たりの基礎賃金×割増率×残業時間数


    割増率は、残業の種類によって以下のとおり決まっています。

    法定内残業 割増なし
    時間外労働 25%以上(50%以上※)
    休日労働 35%以上
    深夜労働 25%以上
    時間外労働かつ深夜労働 50%以上(75%以上※)
    休日労働かつ深夜労働 60%以上

    ※月60時間超の時間外労働に適用されます。ただし2023年3月までは、中小事業主(中小企業)については適用されません。

    (例)
    • 1時間当たりの基礎賃金が2000円
    • 法定内残業が10時間
    • 時間外労働が15時間(うち深夜労働が3時間)
    • 休日労働が8時間

    法定内残業の残業代:
    2000円×10時間
    =2万円

    時間外労働の残業代(深夜手当を含む):
    2000円×125%×12時間+2000円×150%×3時間
    =3万6000円

    休日労働の残業代:
    2000円×135%×8時間
    =2万1600円

    残業代の合計:
    2万円+3万6000円+2万1600円
    =7万7600円

4、朝礼・準備・片付けなども労働時間に当たる

残業代を計算するに当たっては、労働時間を正しく把握する必要があります。朝礼や就業前の準備、片付けなども労働時間に含まれるため、これらの時間にも正しく残業代が支払われているかどうか確認しましょう。

  1. (1)残業代が未払いになりがちな労働の例

    労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間です。実際の業務を行っている時間に加えて、以下の作業等を行っている時間も労働時間に含まれます。

    • 朝礼
    • 就業前の準備
    • 会社の業務指示を待っている手待ち時間(待機時間)
    • 片付け
    • 会社の指示によって参加した接待


    これらの作業等については、残業代を支払わない会社が多数存在しますが、労働基準法違反の賃金未払いに当たります。

    もし上記のような作業等につき、残業代が正しく支払われていない場合には、弁護士へのご相談をおすすめします。

  2. (2)未払い残業代は会社に請求可能|弁護士に相談を

    未払いとなっている残業代については、会社に対して請求できます。残業代を不当に切り捨てられた場合や、労働時間が正しくカウントされていない場合などには、会社に対する残業代請求をご検討ください。

    残業代請求は、会社との協議のほか、労働審判や訴訟の手続きを通じて行います。

    いずれも労働者本人が対応するのは非常に大変ですが、弁護士に依頼することでスムーズな手続きが可能です。また、会社の主張に惑わされることなく、労働者としての権利を毅然と主張することで、適正額の残業代を獲得できる可能性が高まります

    残業代請求権は、以下の期間が経過すると時効消滅してしまいます。

    • 2020年3月31日以前に発生したもの:発生から2年
    • 2020年4月1日以降に発生したもの:発生から3年


    正しい残業代を全額回収するためには、早めに弁護士へ相談することが大切です。労働基準監督署とは異なり、弁護士は労働者の代理人となりますので、迅速かつ丁寧なご対応が可能です。

    残業代の未払いが疑われる方は、正しい残業代を計算するため、一度弁護士までご相談ください。

5、まとめ

会社が残業代計算(給与計算)を行うに当たっては、1分単位で残業時間を集計・反映しなければなりません。15分単位・30分単位などで残業時間を切り捨てることは、原則として労働基準法違反に当たります。

正しく残業代が支払われていない場合には、会社に対して未払い残業代請求を行いましょう。弁護士にご相談いただければ、会社との協議・労働審判・訴訟などの手続きを通じて、適正額の残業代を回収できるようにサポートいたします。

ベリーベスト法律事務所 奈良オフィスは、未払い残業代に関する従業員の方からのご相談を随時受け付けております。会社から支払われている残業代の金額に疑問を抱いた方は、ぜひ一度ご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています