15分単位で残業時間を切り捨てるのは違法! 未払いになりがちな労働とは

2025年11月06日
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15分単位で残業時間を切り捨てるのは違法! 未払いになりがちな労働とは

奈良労働局が令和6年に公表した統計資料によると、令和5年度に長時間労働が疑われる事業所に対して労働基準監督署が監督指導を行った事業場は321事業場でした。

残業時間は、たとえ15分、30分以内であっても原則として切り捨ては違法です。もし残業代が正しく支払われていない場合は、会社に未払い残業代を請求しましょう。今回は15分単位などで残業代(残業時間)を切り捨てることの違法性や、正しい残業代の計算方法などをベリーベスト法律事務所 奈良オフィスの弁護士が解説します。

出典:「長時間労働が疑われる事業場に対する監督指導結果(令和5年4月から令和6年3月までに実施)」(厚生労働省)


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1、15分単位での残業時間切り捨ては原則違法

会社は従業員に対し、原則、残業代を1分単位で支払わなければなりません。

そのため、15分単位・30分単位などで切り捨てて計算することは、本来支払うべき残業代(賃金)を支払っていないものとして、労働基準法違反に当たります。

適切に残業代を計算するためには、労働時間を正しく把握する必要があります。まずは未払いになりがちな労働のケースを把握することからはじめましょう。

  1. (1)残業代が未払い(違法)になりがちな労働時間

    労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間です。

    実際の業務を行っている時間に加えて、以下の作業等を行っている時間も労働時間に含まれます。

    未払いになりがちな労働
    • 朝礼
    • 就業前の準備
    • 会社の業務指示を待っている手待ち時間(待機時間)
    • 片付け
    • 会社の指示によって参加した接待


    これらの作業等について残業代を支払わない会社は、労働基準法違反の賃金未払いに当たります。

    もし上記のような作業等につき、残業代が正しく支払われていない場合には、弁護士への相談をおすすめします。

  2. (2)残業代を切り捨てることによる罰則

    残業代の切り捨ては、賃金全額払いの原則を定めた労働基準法24条に違反します。

    また、残業代の切り捨てにより未払い残業代が生じますので、時間外・休日・深夜労働の割増賃金の支払い義務を定めた労働基準法37条にも違反します。

    このように15分単位での残業時間切り捨ては、労働基準法違反となりますので、違反した事業主は、「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金(労働基準法37条違反)」または「30万円以下の罰金(労働基準法24条違反)」に処せられます。

2、残業代の正しい計算方法

会社から支払われている残業代の金額に疑問を抱いた方は、ご自身で正しい残業代を計算してみましょう。難しければ、弁護士に相談するのがおすすめです。

正しい残業代は、以下の手順で計算します。



  1. (1)1時間当たりの基礎賃金を求める

    まずは、残業代計算の基礎となる「1時間当たりの基礎賃金」を求めましょう。

    「基礎賃金」は、計算期間中に支給された賃金の総額から、以下の手当を除外した金額です。

    手当の種類
    • 時間外労働手当/休日手当/深夜手当
    • 家族手当
    • 通勤手当
    • 別居手当
    • 子女教育手当
    • 住宅手当
    • 臨時に支払われた賃金
    • 一か月を超える期間ごとに支払われる賃金


    たとえば1月に支払われる賃金につき、計算期間が同じ年の1月であるとします。この場合、1月中に支給される予定の賃金総額から、上記の手当を除外した金額が基礎賃金です。

    基礎賃金を月平均所定労働時間で割ると、1時間当たりの基礎賃金が求められます。

    たとえば、

    • 1月の基礎賃金=32万円
    • 月平均所定労働時間=160時間

    の場合、1時間当たりの基礎賃金は【32万÷160時間=2000円】となります。

  2. (2)残業時間を集計する

    残業時間は、以下の残業の種類ごとに区分して集計します。

    残業の種類 概要
    法定内残業 所定労働時間を超え、法定労働時間(原則として1日当たり8時間、1週間当たり40時間)を超えない部分の残業時間。
    時間外労働 法定労働時間を超える部分の残業時間。
    休日労働 法定休日における労働時間。1週間に複数の休日がある場合には、そのうち1日のみが法定休日に当たる。
    法定休日は、会社の就業規則などによって決まる。定めがなければ、日曜から土曜を1週間として、もっとも後ろに位置する日が法定休日となる。法定休日ではない休日の労働は、法定内残業または時間外労働。
    深夜労働 午後10時から午前5時までの労働時間。法定内残業・時間外労働・休日労働と重複することもある。

    勤怠管理システムの記録や、業務メールの送受信履歴などを参考にして、正確に残業時間を集計しましょう。

  3. (3)割増率を適用して残業代を計算する

    1時間当たりの基礎賃金と残業時間が把握できたら、以下の式によって残業代を計算します。

    残業代=1時間当たりの基礎賃金×割増率×残業時間数


    割増率は、残業の種類によって以下のとおり決まっています。

    残業の種類 割増率
    法定内残業 割増なし
    時間外労働 25%以上(50%以上※)
    休日労働 35%以上
    深夜労働 25%以上
    時間外労働かつ深夜労働 50%以上(75%以上※)
    休日労働かつ深夜労働 60%以上

    ※月60時間超の時間外労働に適用されます。ただし2023年3月までは、中小事業主(中小企業)については適用されません。

    【残業代の計算例】
    労働条件
    • 1時間当たりの基礎賃金が2000円
    • 法定内残業が10時間
    • 時間外労働が15時間(うち深夜労働が3時間)
    • 休日労働が8時間

    法定内残業の残業代
    2000円×10時間=2万円

    時間外労働の残業代(深夜手当を含む)
    2000円×125%×12時間+2000円×150%×3時間=3万6000円

    休日労働の残業代
    2000円×135%×8時間=2万1600円

    残業代の合計
    2万円+3万6000円+2万1600円=7万7600円
  4. (4)残業代の計算に必要な証拠

    残業代は状況によって変わるため、複雑な計算になるケースも少なくありません。

    残業代を正確に計算するためには、就業規則、雇用契約書、賃金規程、給与明細、タイムカード、勤怠管理ソフトのデータ、業務日報などの証拠を集めなければなりませんが、事案によって必要になる証拠が異なります。また、退職後は証拠収集が難しくなりますので、会社に在籍中に必要な証拠を集める必要があります。

    一般の方では、正確な残業代計算は難しいことも多いため、弁護士に依頼するのがおすすめです。弁護士は残業代請求に必要になる証拠収集や残業代計算の手続きも行うため、負担なく正確な未払い残業代の金額を把握することができます

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3、【注意】残業時間の切り捨てが認められるケースもある

残業時間(残業代)の切り捨ては原則として違法ですが、以下の場合には例外的に、残業時間の端数処理が認められています(昭和63年3月14日基発第150号)。

  • 1円未満の端数を四捨五入する場合
  • 1時間未満の端数を1時間単位に丸める場合


これ以外の場合には、残業時間の端数処理は違法となる可能性が高いです。以下、具体的なケースと共に解説します。

  1. (1)1円未満の端数を四捨五入する場合

    1時間単位で残業代を計算した際に1円未満の端数が生じた場合、50銭未満の端数を切り捨て、50銭以上を1円に切り上げることは認められます。

    1円未満の端数を四捨五入するケース
    • 1時間の時間外労働につき、計算された残業代が2768.75円(1時間当たりの基礎賃金:2215円、割増率25%)だった場合に、2769円の残業代を支払う
    • 1時間の時間外労働につき、計算された残業代が2761.25円(1時間当たりの基礎賃金:2209円、割増率25%)だった場合に、2761円の残業代を支払う


    このような四捨五入の取り扱いは、常に労働者の不利になるものではなく、事務簡便を目的としたものであるため問題ないとされています。

    なお、1円未満の端数であっても、一律切り捨てとする場合には違法の疑いがあるのでご注意ください

  2. (2)1時間未満の端数を1時間単位に切り上げる場合

    1か月単位で集計した時間外労働・休日労働・深夜労働につき、各労働時間の合計に1時間未満の端数が生じた場合、30分未満の端数を切り捨て、30分以上を1時間に切り上げることは認められます。

    1時間未満の端数を1時間単位に切り上げるケース
    • 1か月間で15時間40分の時間外労働をした労働者の残業代を計算する際、16時間の時間外労働をしたものと取り扱う
    • 1か月間で17時間20分の時間外労働をした労働者の残業代を計算する際、17時間の時間外労働をしたものと取り扱う


    このような取り扱いも、常に労働者の不利になるものではなく、事務簡便を目的とするものとして問題ないとされています。

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4、未払い残業代を弁護士に相談するメリット

  1. (1)会社への請求を一任することができる

    残業代請求は、会社との協議のほか、労働審判や訴訟の手続きを通じて行います。

    いずれも労働者本人が対応するのは大変ですが、弁護士に依頼することでスムーズな手続きが可能です。また、会社の主張に惑わされることなく、労働者としての権利を毅然と主張することで、適正額の残業代を獲得できる可能性が高まります。

    正しい残業代を全額回収するためには、早めに弁護士へ相談することが大切です。労働基準監督署とは異なり、弁護士は労働者の代理人となって残業代を計算し、回収までをサポートします。

  2. (2)消滅時効について判断できる

    残業代請求をする権利には、消滅時効が適用されます。そのため一定期間が経過すると残業代を請求する権利が消滅してしまいます

    以前は、残業代請求権の時効期間は2年とされていましたが、労働基準法改正により5年に延長され、当面の間は「3年」の時効期間が適用されます。すなわち、未払い残業代を請求するなら、各給料日の翌日から3年以内に会社に対して権利行使をしなければならないということです。

    弁護士に依頼することで、時効期間を含めて請求手続きを進めることができます。

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5、まとめ

会社が残業代計算(給与計算)を行うに当たっては、1分単位で残業時間を集計・反映しなければなりません。15分単位・30分単位などで残業時間を切り捨てることは、原則として労働基準法違反に当たります。

正しく残業代が支払われていない場合には、会社に対して未払い残業代請求を行いましょう。弁護士にご相談いただければ、会社との協議・労働審判・訴訟などの手続きを通じて、適正額の残業代を回収できるようにサポートいたします。

ベリーベスト法律事務所 奈良オフィスは、未払い残業代に関する従業員の方からのご相談を随時受け付けております。会社から支払われている残業代の金額に疑問を抱いた方は、ぜひ一度ご相談ください。

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