働き方改革で残業代が出ない!? 未払いへの法的対策とは

2021年09月06日
  • 残業代請求
  • 働き方改革
  • 残業代出ない
働き方改革で残業代が出ない!? 未払いへの法的対策とは

奈良労働局が公表した「令和元年度11月過重労働解消キャンペーンの重点監督の実施結果」によると、違法な時間外労働があったのは33事業所場で、賃金不払残業があったのは6事業場、労働時間の把握方法が不適正なため指導を行ったのは13事業場でした。

働き方改革で労働時間の短縮を目指す一方で、実際にはサービス残業を直接的・間接的に従業員に強制している企業も少なくありません。業務量を減らさず、人員補充もせず、残業も禁止という無理難題を突きつけられ、疲弊している労働者は多いのではないでしょうか。

働き方改革によってサービス残業が増えた理由、未払い残業代を取り戻すための請求方法について、ベリーベスト法律事務所 奈良オフィスの弁護士が解説します。

1、働き方改革で残業代が減る理由

  1. (1)そもそも働き方改革とは?

    国が推し進めている“働き方改革”とは、労働者のひとりひとりが、多様で柔軟かつ健康的な働き方をできるようにするための制度です。

    少子高齢化が進み労働力が減少している日本において、介護や出産・育児をしながらでも働ける環境づくりは、経済活性化のために必要不可欠と言われています。

    具体的には、働き方改革において以下のふたつを目指しています。

    • 長時間労働の抑制
    • 雇用形態による不合理な待遇格差の是正


    育児中の女性や定年退職した高齢者、そして家族の介護をしている人でも、雇用形態にとらわれることなく、それぞれの能力をいかんなく発揮できる労働環境が、働き方改革の目標です。

  2. (2)長時間労働の改善が大きな柱

    働き方改革の支柱のひとつ“長時間労働の抑制”について詳しく見ていきましょう。

    働き方改革が目指す多様で柔軟な働き方を浸透させるためには、長時間労働を減らさなくてはなりません。育児・介護・持病の治療などのライフイベントと両立しながら健康的に働き続けるためには、“ワーク・ライフ・バランス”のとれる労働環境づくりが大切です。

    そのために、働き方改革においては以下の新制度が導入されました。

    • 残業時間の上限規制
    • 勤務間インターバル制度の導入促進(終業から始業までの休息時間の確保)
    • 年5日間の年次有給休暇の取得義務づけ
    • 時間外労働月60時間超の割増賃金率を25%→50%(中小企業は2023年4月から)
    • 労働時間の客観的な把握義務づけ
    • フレックスタイム制の拡充
    • 高度プロフェッショナル制度の創設
    • 産業医・産業保健機能の強化
  3. (3)残業時間の上限規制

    長時間労働を抑制するための対策のひとつとして重要なのが、残業時間の上限規制です大企業では2019年4月1日から、中小企業では2020年4月1日から適用されています

    • 原則:時間外労働(休日労働は除外)の上限は、月45時間・年360時間
    • 時間外労働……年720時間以内
    • 時間外労働+休日労働……単月100時間未満、または2~6か月平均80時間以内
    • 時間外労働……月45時間を超えるのは年6か月まで


    なお、残上時間の上限を超える例外として、“臨時的な特別の事情”があり、労使がそれについて合意して、届け出も行っている場合、が認められています。“臨時的な特別の事情”は、具体的かつやむを得ない内容でなければなりません。たとえば、「必要に応じて」などと条件が曖昧な記述は認められないとされています。

    また、規制違反に対して事業主に対して罰則が設けられています。罰則は、6か月以上の懲役または30万円以下の罰金です。

  4. (4)上限規制が適用猶予・除外される仕事もある

    上記の上限規制が適用猶予・除外される職業もあります。

    特定の職業については、直ちに上限規制を適用すると現場の混乱を招いてしまい、かえって負担が大きくなることが予想されるからです。

    上限規制の適用が猶予されている職業は、以下の通りです。

    • 自動車運転の業務……適用後の上限時間は年960時間
    • 建設事業……災害時の復旧には単月100時間未満・平均80時間以内の規制適用せず
    • 医師
    • 鹿児島県および沖縄県における砂糖製造業


    なお、適用は2024年4月からの予定となっています。

    また、以下の職業については、特別に上限規制が適用除外されます。

    ●新技術・新商品等の研究開発業務
    この業務は、上限規制が適用されない代わりに、医師の面接指導、代替休暇付与などの健康確保措置が義務づけられています。

2、不当な残業代未払いの具体的ケース

  1. (1)サービス残業

    働き方改革による新制度が導入され、収入が減少したにもかかわらずサービス残業が増えたケースは少なくありません。たとえば、今まで通り残業をしなければ終わらない仕事量でありながら、会社側が人員補充や新システム導入による効率化は行わないケースです。

    サービス残業については、“6か月以下の懲役または30万円以下の罰金”(労働基準法第119条)という罰則が定められています。

    ただし、サービス残業をさせていた企業が直ちに罰を受けるという訳ではなく、まずは労働基準監督署から是正勧告が行われ、したがわない場合や悪質な場合にはようやく罰則が適用されるケースが多いでしょう。

  2. (2)自宅へ仕事を持ち帰らざるをえない場合

    残業が禁止された結果、仕事を持ち帰る人もいるのではないでしょうか。

    持ち帰りを直接指示される訳ではないものの、“割り振られた仕事を時間以内に終えられないのは、従業員の能力不足”などと無言のプレッシャーを感じ、自発的に在宅で作業してしまうケースです。

    従業員それぞれの役職・能力に応じた適切な業務量を割り当て、時間内に達成するのが不可能な場合は必要な人員を確保するのも、使用者側の責任です。

    使用者側が持ち帰り残業を強制していると判断される場合には、残業代を請求できる可能性があります

  3. (3)掃除・朝礼・待機時間などを労働時間に含めない場合

    法律上の労働時間とは、仕事の作業をしている時間だけをさすのではありません。

    判例によると、客観的に見て“使用者の指揮命令下”に置かれていると言える時間は、労働時間に該当するとされています。

    つまり従業員が完全に労働義務から解放されて自由な行動を保障されているとは言えない場合には、その時間についても賃金を受け取る権利を有しているということです。

    たとえば、以下のような事例が該当します。

    • 朝礼・体操・掃除・仕事の準備
    • 研修
    • 健康診断
    • 仕事の合間の待機時間


    なお、待機時間については、一見休憩しているように見えても、業務が発生すればすぐに対応することが求められる状況を含みます。したがって電話当番、荷待ちなども帯域時間にあたります。

    口頭や書面等による明確な命令があった場合だけでなく、従業員が置かれている状況から上記の行動を余儀なくされた場合(暗黙の業務命令)でも、労働時間に該当するとされています。

    労働時間に該当するか否かは“指揮命令下にあるか否か”という客観的状況から判断されるため、たとえ労働契約や就業規則で「朝礼は労働時間に含まない」等と定めていても無効となります。

3、残業代規制の対象にならないケース

  1. (1)高度プロフェッショナル

    “高度プロフェッショナル制度”については、例外的に残業代規制が除外されるとしています。

    高度プロフェッショナルとは、高度の専門知識を有し、年収1075万円以上を得ているなどの条件を満たしている労働者のことで、自律的かつ創造的な働き方を認めるというものです。

    ただし、以下の厳格な条件を満たさなければ導入できません。

    • 高度プロフェッショナル制度の対象職種に該当すること
    • 労働者が年収1075万円以上の高収入をえており、高い交渉力を有していること
    • 労使委員会の決議、および労働者本人の同意があること
    • 健康・福祉確保措置が講じられていること
  2. (2)裁量労働制

    裁量労働制とは、企画職または特定の専門職の従業員に限定して、従業員の裁量による労働を認める制度です。裁量労働制では、実際に働いた時間と関係なく、労使であらかじめ決められた労働時間に基づいて残業代を計算しています。

    裁量労働制を導入する場合、対象業務や労働時間等の事項を労使協定により定めた上で、所轄労働基準監督署長に届け出て手続きを行います。

    ただし、実際の業務において従業員に裁量がない場合や、そもそも対象職種に該当していなかった場合などには、未払い残業代を請求できる可能性もありますまた、裁量労働制を導入した場合でも、深夜・休日労働の割増賃金は支払わなければなりません

  3. (3)その他

    上記以外にも、残業代規制が除外されるケースがあります。

    ひとつ目は、労働基準法上に定められる管理監督者に該当する場合です。管理監督者とは、重要な役職と権限、報酬が与えられており、経営者側と一体的な立場にある人のことです(労働基準法第41条)。

    しかし、管理職とは名目ばかりで実際には権限も報酬も少ない、いわゆる“名ばかり管理職”に該当する場合は、残業代の請求を認められる可能性もあります。

    ふたつ目は、在宅や出張先など会社の外で労働する、“事業所外みなし労働時間制度”(労働基準法第38条の2)です。

    ただし、除外されるのは、管理者が従業員の正確な労働時間を把握するのが困難であるというケースのみになります。

4、残業代未払いへの法的手段

  1. (1)未払い残業代の証拠を収集する

    未払い残業代を請求する際には、サービス残業を客観的に証明するための証拠が重要となります。そのため、普段から証拠集めをしておくことをおすすめします

    たとえば、以下のようなものが証拠となります。

    • タイムカード、勤怠管理表
    • パソコンのログイン・ログアウト時間の記録
    • 雇用契約書
    • 就業規則
    • 日記、メモ
    • メールの送信履歴(深夜に仕事用パソコンから送信した記録等)
    • 家族・友人とのメッセージ履歴


    証拠が集まらない、具体的にどう集めていいかわからないなど、悩んだら弁護士にアドバイスを求めてみましょう。

  2. (2)労働基準監督署に相談・通報する

    労働基準監督署に相談・通報すれば、会社に対して是正勧告をしてくれる可能性もあります。仕事の都合で直接訪問できない場合には、電話やメールで相談することもできます。労働基準監督署への相談は無料です。

    ただし労働基準監督署は常にたくさんの相談・通報を抱えているため、即座に対応してもらえないおそれもあります。

  3. (3)弁護士に相談する

    労働基準監督署と比べて費用がかかりますが、依頼者個人の利益を守るために迅速な対応をしてくれるのが弁護士です。会社のやり方が悪質な場合には、労働基準監督署への通報と弁護士への未払い残業代請求依頼を同時並行することも考えられます。

    弁護士に相談すれば、証拠集めのアドバイス、収集した証拠を確認した上での次の行動など、専門的見解を基に適切な指示がもらえるでしょう正式に依頼すると、会社との任意交渉から始まり、和解に至らない場合には労働審判、最終的には裁判へとすべての手続きを一任することができます

5、まとめ

働き方改革では長時間労働防止のために残業時間の上限規制が設けられていますが、結果として従業員はサービス残業に苦しむケースが少なくありません。

こうした場合でも、証拠を収集して弁護士に依頼すれば、未払いの残業代を請求し、場合によっては遅延損害金や付加金も一緒に回収できる可能性もあります。

働いた分の賃金をもらうのは、労働者の権利です。不当な残業代未払いにお悩みの際は、ベリーベスト法律事務所 奈良オフィスの弁護士までお早めにご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています