家庭内別居で修復不可能? 離婚を考えたら知っておきたい法的手続き

2020年12月24日
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家庭内別居で修復不可能? 離婚を考えたら知っておきたい法的手続き

奈良県が公表している『平成30年 人口動態統計』によると、同年度の県内における離婚件数は2047件でした。

この離婚件数を同居期間の長さで分類すると、最も多かったのが“5~10年未満(379件)”。ついで、“10~15年未満(244件)” 、“15~20年未満(222件)”の順に上位を占めていました。

反対に、もっとも少なかったのは30~35年未満(51件)、ついで35年以上(75件)のいわゆる熟年夫婦です。結婚して数年で破たんを迎える夫婦も一定数いますが、全体的な傾向としては5~20年あたりで我慢の限界を感じる人がいることがうかがえます。子どもが大きくなるまでは経済的な理由などで我慢して結婚生活を続けているけれども、家庭内別居が長年にわたると離婚に向けて検討する夫婦もいるでしょう。

家庭内別居からの修復に困難を感じ、離婚に踏み切りたいと考えている場合は何から始めれば良いのでしょうか。家庭内別居をしている夫婦が知っておきたい法的なポイントを、ベリーベスト法律事務所 奈良オフィスの弁護士が解説します。

1、家庭内別居とその理由

家庭内別居とは、結婚して同じ家に住んでいるにもかかわらず、家族としてのコミュニケーションを取らず、ほぼ別居しているも同然の状態を続けることを意味します。

たとえば、会話をしない、顔を合わせない、寝食を別々にする、家事はそれぞれで行う、子どもの前でだけ会話する、連絡事項はスマホで最低限……といった状態です。

何がきっかけで、家庭内別居が始まるのかは、夫婦によってさまざまです。具体的には、不倫、産後クライシス、不満の積み重ね、性格の不一致、価値観の違いなどが挙げられるでしょう。「自分でも理由がわからないけれど生理的に無理になっていた」「何となく」などの意見も少なくありません。

しかし、法律上の婚姻関係は「嫌いになった」「愛情がさめた」というだけでは簡単に解消することはできません。そのため家庭内別居が長期にわたる夫婦や、子どものために生活のためにと我慢して家庭内別居を続ける夫婦も少なくないでしょう。

2、家庭内別居の夫婦が修復不可能なケースとは?

  1. (1)繰り返し浮気をされている

    根は真面目な人が、魔が差して一回きりの過ちを犯してしまったケースでは、真摯に反省して二度と繰り返さないということもあるかもしれません。

    しかし、配偶者が根っからの浮気性である場合、浮気された側がどれだけ改善しようと努力しても徒労に終わることがあります。生まれつきの気質がなかなか改善できないように、浮気癖がある人を治すことは難しいものです。

    片方のみが感情を凍らせて続ける結婚生活は決して健全とは言えませんし、心身の健康状態や子育てにも悪影響を及ぼす危険性があります。「相手は今後変わることはない」とスッパリ割り切って、幸せな第二の人生を検討することもひとつの道です。

  2. (2)ギャンブル・アルコールなどの依存症が治らない

    ギャンブルやアルコールなどの依存症やそれに伴う浪費癖も、深刻な問題です。本人がやめたいと強く思っていても、自分の意志の力のみでは断てないことが多いからです。特に、アルコール依存症は“否認の病”とも言われており、本人が依存症であることを認めたがらない傾向があるため、治療と克服をより難しくしています。

    もちろん、夫婦で協力し合って専門家による適切なサポートを得て、依存症を克服される方も少なくありません。しかし、配偶者が助けようとしても一向に本人が努力しようとしないのであれば、修復は難しいと言わざるを得ないかもしれません。

  3. (3)義理の両親からの過干渉がある

    夫婦以外の第三者が加わると、事態はより複雑化します。義理の両親からの過干渉は夫婦の努力のみではどうにもならないことも多く、決定的な亀裂が生じるおそれがあります。

    最近では、“親害(しんがい)”という新しいキーワードを耳にすることが増えました。これは親主導で子ども夫婦の離婚を決めるなど、親が子どもの人生に強く介入することを意味します。子どもが結婚して独立した家庭を設けても親離れ・子離れができず、親による夫婦関係への干渉が行われてしまうのです。

    義理の両親とのトラブルでは、配偶者の対応がカギとなります。義理の両親による過干渉についての対策に配偶者が協力的でなく、むしろ親の意見を尊重するような場合、家庭内別居は修復不可能と言えるかもしれません。

  4. (4)相手が離婚すると決めている

    相手が離婚を固く決意している場合にも、修復不可能である可能性があります。同じ家で生活しながらも、すでに離婚の準備をひっそりと進めているケースも少なくありません。

    離婚を阻止したい場合や離婚条件を少しでも有利にしたい場合には、相手が実際に行動に移す前に、弁護士に相談してみましょう。財産分与のための共同財産の洗い出し、親権を獲得するための前準備、慰謝料請求のための証拠収集などについて具体的なアドバイスをくれるでしょう。

3、夫婦で解決しない場合の対処方法

  1. (1)夫婦・離婚カウンセラーへの相談

    家庭内別居を解消してなるべく離婚を回避したい場合には、夫婦カウンセラーや離婚カウンセラーに相談してみるのもひとつの方法です。

    夫婦カウンセリングでは、夫婦関係の現状や問題点を客観的・専門的な立場から整理して、クライアントが目指すゴールに向けて具体的な改善のアドバイスを行います。クライアント自身も心の底では自分が何を望んでいるのか理解できていないこともあるため、カウンセリングの技法を用いてクライアントの本音も探っていきます。

    夫婦でそろってカウンセリングを受けることもあれば、片方のみがカウンセリングを受けることもできます。夫婦でカウンセリングを受ける場合、普段はお互いに言えない本音をカウンセラーが間に入って伝えてくれるため、誤解やわだかまりが解けて離婚を回避できることもあるでしょう。

  2. (2)離婚を決めている場合は弁護士へ相談

    離婚をすでに決めている場合は、早めに弁護士に相談しましょう。夫婦関係の改善と当事者が納得のいく決断を後押しするカウンセラーとは違い、弁護士の場合は依頼者にとって有利な離婚に向けた法律的アドバイスを行うのが任務です。

    実際に離婚手続きを進めた場合の見通しについて、早めに理解しておくことが重要です。離婚を迷っている段階でも、弁護士に相談することは可能です。弁護士に相談したからといって、必ずしも離婚をしなければならないわけではありません。

    「もし離婚をした場合、親権者になれそうか?」「財産分与や慰謝料はどれぐらいもらえるのか?」など離婚後の生活についての素朴な疑問にも答えてくれるでしょう。弁護士の回答をもとに離婚後の生活をリアルに想像することで、自分が今離婚すべきか否かを適切に判断できるかもしれません。

  3. (3)別居することもひとつの選択肢

    家庭内別居をしていた夫婦の片方が家を出て本格的に別居を始めたことにより、膠着(こうちゃく)状態が進展するケースもあります。物理的距離を取ることによりお互いの大切さを実感したり、逆に新たな道を進む決意をすることが期待できます。

    なお、親権を希望している場合は、別居の際に子どもを連れていくことが非常に重要となります。親権者を決定する際の基準として“現状維持の原則”というものがあり、離婚時に子どもを実際に長時間監護している側が有利となるからです。

4、家庭内別居で離婚する前に知っておくべきこと

  1. (1)事前準備なしに離婚を宣言しない

    事前準備をせずに配偶者に離婚の意思を告げないよう注意しましょう。相手が財産隠しをしたり、証拠隠滅をするおそれがあるからです。

    親権を獲得したい場合には、自分が子どもの親権者としてふさわしいことを示す証拠を集めておきましょう。たとえば、子どもを実際に監護してきた記録や、相手によるDVや依存症の証拠などを用意します。ひとり親を対象とする公的支援制度も下調べしておきましょう。

    財産分与の準備としては、夫婦の共同財産の記録を収集しておくことも大切です。配偶者が財産隠しをしないよう、離婚の意思を気づかれないように注意しながら預貯金(金融機関名や支店名)や不動産、有価証券の情報を確認しておきましょう。

    もし、配偶者からの不倫や暴力等による精神的苦痛があった場合には、慰謝料請求のための証拠も集めておきます。また、専業主婦である場合は再就職のための資格を取得する、面接を受けるなどして、離婚後に自活できるだけの経済力を身につけることも大切です。

  2. (2)離婚するために必要な5つの事由

    家庭内別居状態のみを理由とする離婚請求は、認められない可能性があります。

    互いに合意すればどんな理由であれ離婚は可能なのですが、相手に拒否された場合、以下のような法定離婚事由がない限り離婚が認められないこととなっています。

    裁判で離婚が認められるのは下記の5つです(民法第770条1項)。

    • 配偶者による不貞行為
    • 配偶者からの悪意の遺棄
    • 配偶者の生死が3年以上不明
    • 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがない
    • その他婚姻を継続し難い重大な事由


    長年別居している場合には夫婦関係が破たんしていると判断され、 “その他婚姻を継続し難い重大な事由”として離婚が認められることがありますが、原則、家庭内別居状態は上記のいずれにも該当しないとされています。

    しかし「2、家庭内別居の夫婦が修復不可能なケースとは?」でお伝えしたような事情も含まれる場合には、それらが上記の法定離婚事由に該当すると判断され離婚が認められる可能性もあります。

  3. (3)家庭内別居でも「夫婦関係の破たん」と判断されることも

    家庭内別居状態では“その他婚姻を継続し難い重大な事由”のひとつである“夫婦関係の破たん”とは認められないことが多いでしょう。

    しかし、例外的に認められたケースもあります。家庭内別居を4年3か月続けていた夫婦の裁判では(大阪地裁平成14年6月19日)、「夫婦関係が破たんしている」として夫の妻に対する離婚請求を認めました。

    このケースが離婚請求を認められた理由としては、家庭内別居状態になる前、夫は酒を飲み妻に度々暴力をふるっていたことが挙げられます。また、家庭内別居が始まってからは会話がなく食事も別々、連絡事項はノートに書いて共有していました。さらに、夫婦カウンセリングも受けたものの、修復不可能だったという事情があります。

  4. (4)家庭内別居で不倫していた場合の慰謝料

    一般的には、配偶者が不倫をしていた場合、されていた側は精神的苦痛に対する慰謝料の請求が認められています。しかし、不倫前から夫婦関係が破たんしていたことが客観的に認められたため、慰謝料請求が棄却された判決があります(最高裁平成8年3月26日判決)。

    では、家庭内別居状態で夫婦のどちらか一方が不倫していた場合、「夫婦関係はすでに破たんしていた」といえるのでしょうか。家庭内別居状態は外部から夫婦関係が破たんしていることを判断しづらいため、このような主張は認められない可能性が高いでしょう。

    「同じ家に暮らしているが離婚について合意しておりおのおの準備を進めている」ことが客観的に証明できるなどの例外的なケースについてのみ、夫婦関係が破たんしていると言える可能性があります。

5、まとめ

家庭内別居は、当事者にとって精神的に非常につらい問題です。経済的な理由からなかなか踏み切れなくても、子どもの独立や経済的自立などから離婚を検討する方は少なくありません。

ただし、離婚を検討し始めたら、配偶者に告げる前に弁護士に相談することをおすすめします。親権獲得や、少しでも多くの財産分与・慰謝料などを得るためには、法的な対策が必要不可欠です。家庭内別居から離婚に進めるには具体的にどうすれば良いかお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所 奈良オフィスまでご相談ください。ご依頼者さまの新しい人生につながるよう真摯にアドバイスをいたします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています