2020年(令和2年)養育費の法改正│内容と注意点

2022年11月09日
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2020年(令和2年)養育費の法改正│内容と注意点

奈良市が公表している人口動態に関する統計資料によると、令和2年における奈良市内の離婚件数は475件でした。

子どもがいる夫婦の場合、離婚時には養育費の取り決めをすることが一般的です。しかし、その後養育費の支払いがストップしてしまうことも少なくありません。もし養育費の支払いが止まった場合には、取り決め内容に従って養育費の請求を行い、最終的には相手の財産を差し押さえることもできます。

2020年(令和2年)4月1日施行の改正民事執行法では、これまで未払いに泣き寝入りしていた方を救済すべく、養育費などの滞納をしている相手に対して差し押さえを容易にするための制度が拡充されました。今回は、改めて2020年(令和2年)の法改正内容を確認し、養育費の滞納があった場合の対応について解説します。

1、2020年(令和2年)4月の法改正について

以下では、2020年(令和2年)4月から施行されている法改正のポイントについて説明します。

  1. (1)民事執行法の改正

    養育費の滞納があった場合には、強制執行によって、滞納している相手の財産を差し押さえ、強制的に未払いの養育費を回収することが可能です。

    しかし、2020年3月までの民事執行法では、養育費の滞納者の財産を特定しないと強制執行の申し立てができませんでした。離婚後に元配偶者の財産を把握することはとてもハードルが高く、強制執行の足かせとなっていました。

    2020年4月1日施行の改正民事執行法では、相手の財産の把握を容易にするため、これまでの「財産開示手続き(詳細は2章)」を充実するとともに、新たに「第三者からの情報取得手続き(詳細は3章)」を設けることになりました。

    これによって、これまでは養育費の取り立てができずに泣き寝入りしていた人であっても、養育費の取り立てがしやすくなりました

  2. (2)養育費の算定基準の改正

    養育費の金額は、当事者の話し合いよって定めることになります。子どもの人数や年齢によって金額の相場は変化しますが、そのような時の判断に利用されるのが、裁判所がホームページで公表している「養育費算定表」です。

    養育費算定表は、養育費をもらう側(権利者)と養育費を支払う側(義務者)の年収と子どもの人数・年齢を基準にして、養育費の相場を示した表です。

    2019年(令和元年)12月に、社会情勢や生活実態の変化を受けて、以下の2点を改定されました。

    • 子どもの生活費指数
    • 基礎収入


    これによって、ほとんどのケースで従来の養育費の算定表よりも養育費の金額が増加することになりました。

2、財産開示手続き|債務名義があれば申し立てが可能

以下では、2020年(令和2年)に改正された民事執行法のうち、財産開示手続きについて説明します。

  1. (1)財産開示手続きとは

    財産開示手続きとは、債権者が裁判所に申し立てることで、債務者を裁判所に出頭させ財産状況を開示させる手続きです。

    債権者は、財産開示手続きを利用することによって、債務者の財産を把握し、財産の差し押さえをすることが可能になります。

    しかし改正前は、多くの債務者が財産開示手続きに応じていませんでした。その原因としては、財産開示手続きに応じなかった場合の制裁が「30万円以下の過料」だけであったことが挙げられます。

  2. (2)改正のポイント

    従来の財産開示手続きの問題点を踏まえて、改正法では、以下のように制度の充実が図られるようになりました。

    1. ① 罰則の強化
      改正法では、債務者が財産開示手続きに応じない場合の制裁として、「6月以下の懲役又は50万円以下の罰金」が科されました。

      これまでは、単なる行政罰にすぎないものでしたが、改正法は刑罰が科されることになりますので、制裁を科された債務者は、前科が残ることになります。罰則が強化されたことによって、債務者による財産開示が期待できます。

    2. ② 申立要件の緩和
      改正前の民事執行法では、財産開示手続きを利用するため、調停調書や審判書などの債務名義を取得していることが必要でした。債務名義とは、強制執行を申し立てる際に必要な公的な文書です。

      法改正後は、債務名義の範囲が広がり、公正証書、仮執行宣言付き判決、支払督促も含まれるようになりました。
      養育費の取り決めは、公正証書で行っているケースが少なくありません。改正法では、そのような場合でも財産開示手続きを利用することができるようになりました。

3、第三者からの情報取得手続き|裁判所による情報照会

以下では、2020年(令和2年)に改正された民事執行法のうち、第三者からの情報取得手続きについて説明します。

  1. (1)第三者からの情報取得手続きとは

    改正前の民事執行法では、債務者本人を対象として、債務者本人から財産に関する情報を取得する手続きのみが規定されていました。

    しかし、債務者本人が自ら不利になる情報を積極的に開示するとは限らず、債務者本人が拒否してしまうと財産に関する情報を得ることができなくなってしまっていました。

    そこで、改正法では、債務者以外の第三者から債務者の財産に関する情報を取得することができる制度を新設することになりました。第三者とは、銀行や年金事務所、市区町村役場が該当します。

  2. (2)開示の対象となる財産

    情報取得手続きを利用すれば、債務者のすべての財産を明らかにすることができるというわけではありません。開示の対象となる財産は、以下のとおりです。

    1. ① 不動産
      債務者が不動産を所有している場合には、法務局の登記所から、債務者が所有している土地・建物についての情報提供を受けることができます。
    2. ② 給与
      債務者が会社から給与を受け取っている場合には、市区町村、日本年金機構、共済組合などから債務者の勤務先に関する情報(名称、住所)の提供を受けることができます。
      ただし、勤務先に関する情報は、プライバシー性が高い情報になりますので、情報取得手続きを利用することができるのは、以下の債権を有する方に限られます。
      ・ 養育費や婚姻費用などの支払請求権
      ・ 人の生命、身体の侵害による損害賠償請求権
    3. ③ 預貯金
      債務者が預貯金を有している場合には、金融機関から預貯金に関する情報(預貯金債権の存否、支店名、口座種別、口座番号、預貯金残高)の提供を受けることができます。
      複数の金融機関をまとめて対象にすることもでき、支店名や預金の種類を特定する必要もありません。
    4. ④ 株式、国債、投資信託
      債務者が株式、国債、投資信託などを有している場合には、証券会社などから株式などに関する情報(株式などの存否、銘柄、金額、数量)の提供を受けることができます。

4、養育費の取り決めは弁護士へ相談を

養育費の取り決めをする際には、弁護士に相談をすることをおすすめします。

  1. (1)公正証書の作成をサポート

    養育費の取り決めをした場合には、口頭での合意だけで終わらせるのではなく、必ずその内容を書面に残すことが大切です。そして、書面に残す場合には、公正証書にすることがおすすめです。

    養育費に関する合意を公正証書にしておくことによって、将来、債務者が支払いを滞納したとしても、直ちに財産開示の手続きや強制執行の手続きに移ることが可能になります。一般的な合意書では、強制執行をする前提として、裁判を起こす必要がありますので、時間と手間がかかってしまいますが、公正証書ではこのような負担はありません。

    弁護士であれば、将来争いにならないような内容での公正証書の作成をサポートすることが可能です。

  2. (2)適切な養育費の金額を算出

    養育費の金額については、当事者の合意によって自由に決めることができます。しかし、多くのケースでは、養育費算定表を参照して決めているといえるでしょう。

    養育費算定表は、権利者と義務者の収入および子どもの年齢・人数によって、簡単に相場となる金額を把握することができますが、算定表で明らかになる金額はあくまでも一般的な相場に過ぎません。

    実際には、夫婦の経済状況や生活状況に応じて修正が必要になるケースもありますので、修正を行わなければ、適切な養育費の金額を算定することはできません。弁護士であれば、個別具体的なケースに応じた適切な養育費の金額を算定することが可能です

  3. (3)その他の条件の取り決めもサポート

    子どもがいる夫婦の場合には、養育費以外にも面会交流についても取り決める必要があります。

    面会交流についての取り決めを曖昧にしていると、離婚後に子どもの面会をめぐってトラブルが生じることもありますそのようなトラブルを回避するためには、できる限り具体的に条件を定めておくことが大切です

    弁護士に依頼をすれば、養育費に関する問題だけでなく、面会交流など離婚に関する諸条件の取り決めについてもサポートがもらえます。

5、まとめ

2020年(令和2年)の法改正によって、養育費の滞納があった場合の強制執行の手続きが容易になりました。これによって、従来は養育費の回収ができずに泣き寝入りしていたケースであっても、回収が期待できるといえるでしょう。

養育費の取り決めや滞納などでお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所 奈良オフィスまでお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています