債務整理のリスクとは? 任意整理・自己破産・個人再生が及ぼす影響
- 任意整理
- 債務整理
- リスク
奈良県内の地方裁判所では、令和元年の1年間に900件を超える債務整理(破産・個人再生)が行われました(出典:最高裁司法統計)。統計にはない任意整理を加えると、さらに多くの方が債務整理を行われたとみられます。
一方、借金を整理するために債務整理をしなければいけないと思いつつ、どんなリスクやデメリットがあるのか分からず躊躇される方も少なくありません。
確かに債務整理にはデメリットもあり、生活への影響を心配されるのはもっともなことです。しかし、債務整理にまつわるデメリットやリスクは必ずしも正確に認識されているとは限らず、債務整理を経験された方からも、意外に生活への影響はなかったという感想が聞かれます。
そこで、今回は債務整理を検討されている方に向けて、債務整理のリスクに焦点を当てて弁護士が解説します。
1、債務整理の方法は任意整理・個人再生・自己破産が主流
債務整理をする場合、任意整理・個人再生・自己破産のいずれかの方法を選択するのが主流になっています。
それぞれの特徴について解説します。
-
(1)任意整理
任意整理は、債権者との交渉により借金の減額や弁済条件の変更をする方法です。弁護士が委任を受けて任意整理する場合、将来発生する利息を免除してもらった上で、3年から5年程度の分割弁済で合意を目指すのが一般的です。
一例として、借金の残高が300万円(利息年15%)で毎月6万円ずつ弁済しているケースで任意整理をすると表のようになります。任意整理をしない場合 将来利息カットの
任意整理をした場合完済までの利息 約173万7000円 なし 弁済総額 約473万7000円 300万円 弁済回数 79回 50回
将来利息のカットは、任意整理を行った直後はあまり恩恵を感じられないかもしれませんが、完済までのスパンで見ると大きなメリットがあります。任意整理は、現状ではなんとか弁済はできていても、なかなか借金が減らないという方に向く方法といえます。
-
(2)個人再生
個人再生は、住宅ローンなどを除く借金が5000万円以下の場合に利用できる手続きです。小規模個人再生と給与所得者等再生の二種類の手続きがありますが、メリットとデメリットにそれほど違いがないので、合わせて個人再生として解説します。
個人再生の手続きは、裁判所に再生計画書を提出し、認可されると住宅ローンを除く借金を5分の1程度に減額してもらい、3年から5年かけて弁済していく流れになります。大きな減額が魅力の個人再生ですが、返済計画を実行する見込みがあることが再生計画認可の要件となるため、給与所得や事業所得など継続的な収入がある方でなければ利用できません。 -
(3)自己破産
自己破産は、原則としてすべての資産を処分して債権者へ配当した上で、借金を全額免除してもらう手続きです。ただし、生活の維持に必要な当面の生活資金は法律によって保有が認められており、さらに裁判所の判断により追加で保有が認められるものもあります。
自己破産は、現在の収入では返済を続けることが困難で、預貯金などの財産が底をつくおそれがある方に向く方法といえます。
2、債務整理全般における共通のデメリットと注意点
債務整理を行う場合に避けられないデメリットとして、次のようなことが考えられます。
- ブラックリストに載る
- 保証人に影響が及ぶ可能性がある
- ローン物件は手放すことになる ※個人再生における住宅ローンは除く
また、支払いが困難になった状況で注意しなければならないこともありますので、合わせて詳しく解説します。
-
(1)ブラックリストに載る
俗に「ブラックリストに載る」とは、信用情報に事故情報が登録された状態をいいます。
信用情報とは、契約内容や返済状況、延滞や債務整理に関する事故情報などで、事故情報とは、返済が滞った履歴、債務整理を行ったかといった内容です。返済能力がない人への過剰貸し付けを防止するため、銀行や貸金業者、信販会社は信用情報機関へ信用情報を登録し、情報を共有しています。
個人の信用情報は、JICC(株式会社日本信用情報機構)、CIC(株式会社シー・アイ・シー)、KSC(全国銀行個人信用情報センター)の信用情報機関で保管されており、保管されている信用情報は、本人が問い合わせして開示請求を行うことで確認することができます。
信用情報に延滞や債務整理を行ったという事故情報が記録された場合、5年から10年の間は新規の融資やクレジットカード発行の審査が通りにくくなります。 -
(2)保証人に影響が及ぶ
保証人を付ける場合、一定期間の返済が滞った場合に、すぐに保証人から回収できるような契約内容にされているのが一般的です。
本人が個人再生や自己破産により借金が減免されたとしても、その効力は保証人には及びません。そのため、個人再生や自己破産では債務整理をすると、保証人に残額一括の請求がされることは避けられません。
ただし、保証人への一括請求が重い負担になることは債権者も承知しており、分割払いなどに応じてくれる可能性もあります。保証人への影響が気になる場合は、まず弁護士に相談してみましょう。 -
(3)ローン物件は手放すことになる
自動車ローンやショッピングローンなどで商品を購入する契約では、所有権留保条項がほぼ例外なく設けられます。所有権留保条項とは、ローンが完済されるまで自動車や住宅などの所有権を、債権者である銀行などの債権者が留保するというものです。また、住宅ローンを組む際には、住宅や敷地に抵当権が設定されるのが一般的です。
この留保所有権や抵当権は、債務整理とは関係なく実行することができます。そのため、債務整理をするとローンで購入した商品は手放すことになるのは避けられません。
ただし、住宅ローンに関しては、個人再生の住宅ローン特則により住宅ローンを維持できる可能性もあります。マイホームを手ばなしたくないために債務整理へ踏み切れない方は、個人再生の可能性があるか、まずは弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。 -
(4)債権者平等の原則に注意が必要
債務整理ではどの手続きでも“債権者平等の原則”が重要なポイントとなります。債権者平等の原則とは、全債権者への弁済が困難な状況となってから、一部の債権者のみを優遇することはできないという原則です。
具体的には、一部の債権者へのみ弁済をすることや、一部の債権者を除外して債務整理を行うことが債権者平等の原則に反する行為となります。特に個人再生や自己破産は、債務者の経済的再生を図るため、債権者に平等に不利益を負担してもらう制度であり、債権者平等の原則のもとに成り立つ制度ともいえます。
一方、任意整理は、裁判所を介さずに債権者と直接交渉して無理のない借金返済を目指す手段のため、この原則が適用されません。しかし、「他の債権者と同じ条件なら協力する」という一種の信頼関係で交渉が進むことも多く、債権者平等の原則を無視していいわけではありません。交渉においては、債務整理の実績経験が豊富な弁護士に依頼することが成功のカギであるといえるでしょう。
3、任意整理・個人再生・自己破産のデメリットとメリット
債務整理の方法を検討する際に知っておきたい手続きごとのメリットとデメリットを解説します。
それぞれの手続きの特徴を表にまとめると次のようになります。
任意整理 | 個人再生 | 自己破産 | |
---|---|---|---|
利用条件 | なし | 継続的または反復的な 収入があること |
免責不許可事由がないこと ただし裁量免責の可能性あり |
法的根拠・強制力 | なし | あり 一定数の債権者が不同意で打ち切られる可能性(小規模個人再生) |
あり |
債権者平等の原則 | できる限り尊重する | 違反すると不利益がある | 違反すると免責が許可されない可能性あり |
強制執行への対応 | できない | 強制執行停止 または取り消しが可能 |
強制執行停止 または取り消しが可能 |
財産の処分 | なし | なし | 財産は処分する必要がある 99万円までの生活資金・ 生活必需品は保有できる |
住宅ローンへの対応 | 困難 | 住宅ローン特則により 維持できる可能性あり |
できない |
官報掲載 | なし | 通常3回掲載される | 通常2回掲載される |
資格制限(職業など) | なし | なし | 一定の職種・資格に制限 |
裁判所へ納める 費用(弁護士費用を除く) |
なし | 3万円弱 | 2万円前後 |
個人再生委員が選任される場合はさらに15万円以上 | 破産管財人が選任される場合はさらに20万円以上 |
以下、債務整理の手続きごとにデメリットとメリットを解説します。
-
(1)任意整理の場合
任意整理のデメリット・メリットは以下の通りです。
任意整理のデメリット
● 法的根拠がなく債権者の意向に左右される
債権者には任意整理に応じる法的な義務はなく、会社の方針で任意整理には応じないという業者も存在します。また、借り入れをしてすぐのタイミングやあまり返済をしていない状況で任意整理をしても、容易に応じてもらえないケースもあります。あくまで任意の交渉であり、確実に成功する方法ではありません。
● 強制執行には対応できない
強制執行は債権者が一方的に行うもので、法的な根拠がなければ対処のしようがありません。債権者の中に強制執行をしている業者や、いつでも強制執行ができる状態の業者が存在する場合は、任意整理による解決は難しくなります。
一方、任意整理のメリットも少なからずあります。
任意整理のメリット
● 返済を続ける対象を選べる
個人再生や自己破産では、特定の融資に対して返済を続けることは認められていません。そのため、保証人への影響やローン物件の引き上げを避けることは困難ですが、任意整理であれば可能な場合もあります。
たとえば、保証人を交えて返済条件を変更する合意を成立させたり、ローン物件の引き上げを回避できる条件まで譲歩して合意を成立させたりすることも方法のひとつです。
● 過払い金の対応もできる
借金の取引履歴を確認する過程で、不当な金利により必要以上に返済をしている“過払い金”が判明することもありますが、任意整理とともにその回収も弁護士に依頼することが可能です。
● 家族や会社にバレずに借金を整理できる
個人再生や自己破産の手続きでは裁判所から自宅に郵便物が届くこともありますが、任意整理ではそのようなことはなく、家族に知られたくない場合でも安心して利用することができます。 -
(2)個人再生の場合
個人再生のデメリット・メリットは以下の通りです。
個人再生のデメリット
● 小規模個人再生は一定の不同意がないことが必要
小規模個人再生は、債権者の半数以上または債権額にして半数を超える不同意があると、手続きが打ち切られてしまいます。
● 債権者平等の原則に反した場合に不利益を受ける
個人再生手続きでは故意に債権者を除外したことが明らかになった場合、個人再生の申し立てが棄却されることや、個人再生委員が選任されて調査が行われる可能性があります。個人再生委員が選任されることになると、費用として15万円以上必要となります。
● 官報に掲載される
個人再生では3回にわたって国が発行する日刊紙である官報に住所や氏名が掲載されることになっています。
すべての債権者や利害関係人に参加の機会が保障されなければならないという個人再生や自己破産の性質上、官報への掲載は避けられないものです。
なお、官報は国が発行する日刊紙でインターネット上でも閲覧することができますが、一般の方で官報を見たことがある、いつも見ているという方は多いとは考えられず、官報によって周囲の方に知られてしまうというリスクは高いとは言えないかもしれません。
● 個人再生委員が選任された場合は費用が掛かる
再生手続き内で債権額の調査を行うなどの必要がある場合、個人再生委員が選任されることがあります。
東京地裁など一部の裁判所では全件で個人再生委員が選任されますが、それ以外の裁判所では、申し立てを弁護士に委任している場合は個人再生委員が選任されることはほとんどありません。個人再生委員が選任される場合、最低でも15万円(弁護士に委任していない場合はさらに高額)の費用が必要となります。
個人再生のメリット
● 最大で借金が9割減額される
個人再生は、基本的に借金の総額に応じて借金の減額割合が決まります。借金の総額が大きくなるほど減額割合も大きくなる反面、最低でも100万円は返済する必要があるため、借金の総額が大きいほどメリットも大きくなる手続きといえます。
● 住宅ローンを維持できる可能性がある
個人再生では、住宅ローンのみ契約どおり返済して、その他の借金のみ個人再生で整理することが認められています(住宅資金特別条項・住宅ローン特則)。
すでに住宅ローンを延滞している場合でも利用できますが、事前に住宅ローンの債権者と返済条件について協議し合意に至る必要があるなど、延滞がある場合は条件が複雑で難易度が高い手続きといえます。
● 免責不許可事由や資格制限がない
個人再生は継続的または反復的な収入があれば利用することができます。自己破産における免責不許可事由や職業などの資格制限がネックになる場合でも、個人再生では問題になりません。 -
(3)自己破産の場合
自己破産のデメリット・メリットは以下の通りです。
自己破産のデメリット
● 免責不許可事由が障害となることがある
破産法で定める免責不許可事由に該当する場合、借金を帳消しにする手続き“免責許可”が認められないことがあります。
免責不許可事由に該当するのは、次のような行為です。- 債権者に配当すべき財産を隠匿したり、安く処分したりした場合
- 一部の債権者にのみ優先的に弁済した場合
- 特定の債権者を破産手続から除外するために虚偽の債権者名簿を提出した場合
- 借金の原因が賭博や浪費、FXなどの金融取引である場合
- 過去7年以内に免責許可決定を受けたり、給与所得者等再生手続における再生計画の認可を受けたりした場合
なお、免責不許可事由に該当しても、裁判所は裁量で免責が許可することも可能で、免責不許可事由があっても免責が許可されるケースもあります。免責不許可事由があるケースでもあきらめることなく、弁護士に相談してみることをおすすめします。
● 財産を処分する必要がある
自己破産は財産の処分が前提となる制度です。ただし、個人の方の場合は当面の生活維持に必要な財産の保有は認められます。保有が認められるのは、99万円までの現金、食料品や衣料品、家財道具などの生活必需品です。さらに裁判所の判断で高額ではない財産の保有が認められることがあります。
● 資格制限(職業などの制限)
自己破産すると、一定の職種や資格に就けなくなります。身近な例としては、警備員、生命保険募集人、パチンコ店店長などの職業や、損害保険代理業、建設業、運転代行業などの自営業者です。資格制限を受けるのは破産手続開始から免責許可決定が確定するまでの間で、早ければ3か月程度で終了します。
なお、会社の取締役や監査役は破産手続開始によりその地位を失い、免責許可決定を受けても地位が復活することはありません。
また、破産手続きのために破産管財人が選任された場合、転居や旅行をする際は事前に裁判所の許可を受けなければなりません。これは財産隠しを防止するための措置で、転居や旅行を制限するという趣旨ではないので、許可の申請をして認められないということはまずないでしょう。
● 官報に掲載される
自己破産でも官報に住所や氏名が掲載されます。手続上の必要があって官報に掲載されること、周囲の方に知られるリスクが比較的低い点は個人再生と同様です。
● 破産管財人が選任されると費用が掛かる
自己破産では、財産の処分や債権者への配当を行うために破産管財人が選任されるのが原則です。
破産管財人が選任される基準は裁判所によって異なりますが、現金や預貯金が50万円を超える場合や個別の価値が20万円以上の資産があることがひとつの目安となります。破産管財人が選任される場合、20万円以上の費用を用意しなければ、破産手続を進めてもらうことができません。
もしも、債権者に配当できるようなめぼしい財産がない場合には、破産管財人が選任されないケースもあります。
自己破産のメリット
● 借金が全額ゼロになる
自己破産により免責が許可されると、借金は全額免除されます。債務整理の中では最も経済的な利益が大きくなる方法です。前述の通り、自己破産にはそれなりのデメリットもありますが、実際には、借金に追われる生活をリセットして新たな生活を再建していく礎となるため、結果としては大きなメリットを享受できることになります。
4、債務問題の解決を弁護士に依頼するメリット
返済が滞った状態を放置すると、債権者から訴訟などの法的措置を取られる可能性が高く、任意整理による解決も困難になる可能性が高まります。
借金問題を解決する上で重要なことは、一日でも早く債務整理に着手することといえます。
まずは、ご自身の借金の状況を把握した上で、債務整理の経験が豊富な弁護士に相談することをおすすめします。債務整理を弁護士に委任すれば、弁護士は受任通知を送付します。債権者が通知を受け取ると、債務者に対して直接取立てや催促を行うことができなくなるため、精神的に負担の少ない環境で債務整理を進めることができます。
また、債権者や裁判所との折衝や必要書類の収集、作成も弁護士がすべて一任することもできるため、仕事や生活に影響がでることも少なく、債務整理のために時間を割くこともなくなります。
5、まとめ
債務整理にはそれぞれメリットとデメリットがあります。任意整理や自己破産など法的な手続きにはデメリットがあるとイメージする方も少なくありませんが、実際には、高額な資産がある場合や特定の職種にある方以外、メリットの方が大きいというケースも少なくありません。
借金問題はなかなか他人に相談しづらく、意図せず膨れ上がってしまうケースも珍しくありません。ベリーベスト法律事務所では、債務整理に関するお問い合わせを24時間、365日無料で受け付けております。まずはお気軽にご相談ください。債務整理の対応経験を積んだ奈良オフィスの弁護士が、一日でも早い借金問題の解決に向けて尽力いたします。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
- |<
- 前
- 次
- >|