非免責債権とは?|債務整理をしても税金や養育費は免除されない

2022年07月21日
  • 自己破産
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非免責債権とは?|債務整理をしても税金や養育費は免除されない

裁判所が公表している司法統計によると、奈良地方裁判所において令和2年に新たに申し立てられた破産事件は、719件でした。このことからも多くの方が借金の返済が困難になり破産という方法を選択していることがわかります。

自己破産をすればすべての借金や負債がゼロになると考えている方もいます。しかし、自己破産の申し立てをして、裁判所から免責を認められたとしても、一部の債権については免責が認められないことがあります。このような債権を「非免責債権」といいますが、非免責債権が支払えなくなった場合には、破産以外の対処法を検討する必要があります。

今回は、自己破産で免責されない非免責債権とそれが支払えない場合の対処法について、ベリーベスト法律事務所 奈良オフィスの弁護士が解説します。

1、非免責債権とは

債権とは、端的にいえば、支払いを求める権利です。では、非免責債権とはどのような意味になるのでしょうか。

以下では非免責債権の内容とその種類について説明します。

  1. (1)非免責債権について

    自己破産の申し立てをして、裁判所から免責が認められた場合には、原則として借金などの債務の支払い義務が免除されますので、借金を返済する必要がなくなります。

    しかし、免責が認められても、一部の債権は免責にならず、支払い義務が免除されないものがあります。このような債権のことを「非免責債権」といいます。

    非免責債権がある場合は、自己破産をしても、非免責債権について支払いをしていかなければなりません。そのため、自己破産をするかどうかを判断するためにも、どのような債権が非免責債権に該当するのかを把握することが大切です。

  2. (2)非免責債権の種類

    破産法253条1項では、以下の債権について非免責債権になると規定しています。

    ① 租税などの請求権
    租税などの請求権とは、国税徴収法または国税徴収の例により徴収することができるものをいいます。具体的には、所得税、贈与税、市県民税、固定資産税、国民健康保険料、国民年金保険料などが挙げられますいわゆる税金にあたるものについては、自己破産では免責されることはありません

    ② 悪意で加えた不法行為に対する損害賠償請求権
    故意または過失によって、他人の権利や利益を違法に侵害した場合には、不法行為が成立し、不法行為者は、被害者に生じた損害を賠償する責任を負います。

    非免責債権とされているのは、不法行為に基づく損害賠償請求権のうち「悪意で加えたもの」
    です。悪意とは、単なる故意ではなく、積極的な害意のことをいうとされています。したがって、通常の不貞行為等の場合には、悪意までは存在しませんので、非免責債権にはあたりません

    ③ 故意または重過失によって加えた人の生命または身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権
    不法行為に基づく損害賠償請求権のうち、人の生命または身体を害するものについては、被害者保護の観点から、悪意だけでなく故意または重過失がある場合についても非免責債権となります。

    通常の交通事故であれば非免責債権にはあたりませんが、危険運転などによって交通事故を起こした場合には、非免責債権にあたる可能性があります。

    ④ 親族関係に関する請求権
    夫婦間の婚姻費用分担請求権や親子間の養育費請求権については、親族関係に関する請求権として、非免責債権にあたります。

    ⑤ 雇用関係に基づいて生じた使用人の請求権および使用人の預り金返還請求権
    個人事業者である雇用主が自己破産をしたとしても、労働者の給料債権や退職金債権が免責されることはありません。

    ⑥ 破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権
    自己破産の申立てをする場合には、裁判所に債権者一覧表を提出します。

    債権者一覧表に記載されていない債権者については免責に関する意見申述の機会が与えられません。そのため、破産者がわざと債権者名簿に記載しなかった請求権は、非免責債とされます。

    ⑦ 罰金などの請求権
    罰金とは、罪を犯した場合の罰金や科料以外にも、刑事訴訟費用、過料、追徴金なども含まれます。これらの罰金については、制裁という面を重視して非免責債権として扱われます。

2、非免責債権と間違えやすい「免責不許可」

非免責債権と間違えやすいものとして「免責不許可」というものがあります。

  1. (1)免責不許可とは

    自己破産の申し立てをして、裁判所から免責の許可決定を受けることができれば、非免責債権を除いてすべての借金の支払い義務が免除されることになります。

    しかし、破産者に一定の事情がある場合には、免責の許可決定を受けることができないとされています

    このような免責許可を受けることができない事由のことを「免責不許可事由」といい、破産法上、以下のものが存在しています。

    • 不当な破産財団価値減少行為
    • 不当な債務負担行為
    • 不当な偏波行為
    • 浪費または賭博その他の射幸行為
    • 詐術による信用取引
    • 業務帳簿隠滅などの行為
    • 虚偽の債権者名簿提出行為
    • 調査協力義務違反行為
    • 管財業務妨害行為
    • 7年以内の免責
    • 破産法上の義務違反行為
  2. (2)免責不許可と非免責債権の違い

    免責不許可と非免責債権は、いずれも免責を受けることができないという点では共通するものといえます。

    しかし、非免責債権は、破産法上規定されている一部の債権についてのみ免責扱いにならないのに対して、免責不許可は、破産者の負担するすべての債務について免責を認めないというものですので、免責を受けることができない範囲に違いがあります。

3、非免責債権が支払えなくなった場合の対処法

非免責債権は、自己破産の手続きでは免責されることはありません。そのため、非免責債権が支払えないという場合、以下のような対処が必要となります。

  1. (1)税金

    税金の支払いを滞納していると税務署や市区町村によって滞納処分の執行が行われ、預貯金や給料といった財産が差し押さえられるリスクがあります。

    税金の支払いは、一括での支払いが原則となりますが、一括で支払うことが困難な事情がある場合には、分割払いの相談に応じてくれるケースもあります。税金は、滞納したまま放置していると延滞金が加算されるなどデメリットも大きいため、早めに税務署や市区町村の窓口に支払いの相談に行くようにしましょう

    なお、税金以外にも借金があるという場合には、税金以外の借金について自己破産をすることによって、税金を支払う経済的な余裕が生まれることがあります。そのため、このようなケースでは自己破産も有効な手段となります。

  2. (2)養育費

    離婚時に養育費の取り決めをしたとしても、その後の状況によっては、養育費の金額が高すぎて支払えない状態になることもあります。

    養育費の支払いができないからといって放置していると未払いの養育費の金額が積み重なり、支払いが困難な状況になってしまいます。

    養育費の取り決めをした時点から事情の変更があったようなケースでは、一度取り決めをした養育費の金額を変更することができます。そのため、養育費の支払いが難しくなってきた場合には、早めに養育費の減額を求めるようにしましょう

    養育費の減額をする場合には、まずは当事者同士で話し合いを行い、話し合いで解決することができない場合には、家庭裁判所の調停や審判によって解決することができます。

  3. (3)損害賠償金

    損害賠償金を負担することになった場合には、一括で支払えればよいですが、金額によっては一括での支払いが困難な場合があります。そのような場合には、債権者と話し合いをして、支払いの猶予や分割払いに応じてもらえないか交渉してみるとよいでしょう。

    交渉に応じるかどうかは債権者次第ですが、支払いが困難な事情を丁寧に説明して、誠意をもって対応することが大切です。

4、債務整理や非免責債権については弁護士に相談しよう

債務整理を検討している方や非免責債権を負担している方は、まずは弁護士に相談をしましょう。

  1. (1)最適な債務整理を提案してもらえる

    借金の負担を軽減する方法である債務整理には、主に、任意整理、自己破産、個人再生という3つの方法があります。

    3つの債務整理の方法には、それぞれメリットとデメリットがありますので、債務者の状況に応じて適切な債務整理の方法を選択することが大切です。

    弁護士に依頼すれば、借金額、借り入れの経緯、収支状況、資産、家族構成などを踏まえて、最適な債務整理の方法を提案することができます。弁護士には守秘義務がありますので、弁護士に相談をした内容が家族や第三者に伝わるということはありません。安心してご相談ください。

  2. (2)非免責債権や免責不許可事由について判断してもらえる

    自己破産をする目的は、免責の許可決定を受けて借金の支払い義務を免除してもらうことにあります。

    しかし、債務者が非免責債権を負担している場合や免責不許可事由がある場合には、自己破産の申し立てをしたとしても、債務の免責を受けることができない場合があります。

    自己破産をするかどうかを判断するためには、非免責債権や免責不許可事由の該当性についての正確な判断が必要となります。弁護士であれば、法的知識や経験に基づいて、非免責債権や免責不許可事由の該当性について正確に判断することが可能です。

5、まとめ

非免責債権がある場合には、自己破産の手続きでは、支払い義務の免除を受けることができませんので、自己破産以外の手段も検討する必要があります。

どのような対処が必要となるかは、非免責債権の種類や内容によって異なってきますので、適切な対応をとるためにも、まずは弁護士に相談をすることをおすすめします。

借金の返済でお困りの方は、ベリーベスト法律事務所 奈良オフィスまでお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています