鑑定入院とは? 目的や期間、何をするかなどを弁護士が解説
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家族が逮捕され、警察から「不起訴になるが鑑定入院が必要かもしれない」と言われるケースがあります。
突然、鑑定入院の可能性があると言われても、そもそも鑑定入院という言葉自体聞いたことがなく、今後どうなっていくのかも分からず、不安に思われる方も多いのではないかと思います。
そこで本コラムでは、鑑定入院とは何か、鑑定入院の目的や入院期間などを、ベリーベスト法律事務所 奈良オフィスの弁護士が解説します。
1、鑑定入院とは
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(1)鑑定入院の意味
鑑定入院とは、「一定の重大な他害行為」を行った「対象者」に対して、強制的に医療を受けさせる必要があるかどうかを判断するために入院をさせる制度です。この制度は、医療観察法という法律に定められています。
鑑定入院の「対象者」とは、心神喪失・心神耗弱を理由として、不起訴処分となったり、無罪判決・執行猶予判決を受けたりした者などを指します。
一口に心神喪失・心神耗弱といっても、その原因はさまざまですが、具体例としては、精神障害・精神疾患・人格障害・発達障害・知的障害・薬物依存・アルコールによる病的酩酊(めいてい)などが該当します。
また、「一定の重大な他害行為」とは、殺人・放火・強盗・強制性交等・強制わいせつ・傷害の6個の犯罪(傷害は重いものに限り、傷害以外は未遂を含む)を指します。
手続きについての詳細は後述しますが、鑑定入院の流れは、検察官が申し立てを行い、これを受けて、裁判所から鑑定入院命令が出されることによって始まります。
令和2年に検察官から入通院の申し立てがなされた件数は、323件でした(わずかですが、申し立てが却下されたなどのケースもあるため、申し立ての数と鑑定入院命令が出された数が全く同じというわけではありません)。 -
(2)鑑定入院の目的
鑑定入院は、対象者に強制医療の必要があるかどうかを判断するために行われるものです。
しかし、最終的な目的は、医療が必要な対象者に適切な治療を受けさせることによって、病状を改善させ、同様の他害行為の再発を防止し、対象者の社会復帰を促進することにあります。
このことは、鑑定入院の手続きを定める医療観察法1条1項に定められています。
2、鑑定入院中にはなにをする?
鑑定入院の結果は、対象者を担当する鑑定医から、鑑定書として裁判所に提出されます。
そのため、鑑定入院中は、鑑定書の作成に向けて、検査やテストなどが行われたり、鑑定医との面接が行われたりします。対象者の病状に応じて、治療なども同時に行われます。
鑑定入院は精神科病院で実施され、その期間は、原則として2か月、最長で3か月と定められています。
また、鑑定入院と並行して、保護観察所によって生活環境調査(生活や家族の状況、利用可能な福祉機関など、対象者を取り巻く環境の調査)も行われることがあります。
鑑定入院の最終的な目的は、対象者を社会復帰させることにありますから、それに向けて、対象者のこれまでの生活環境を調査し、改善や調整が必要な点を把握するために調査を行うのです。
3、鑑定入院までの手続き
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(1)鑑定入院までの手続き
鑑定入院は、殺人・放火・強盗・強制性交等・強制わいせつ・傷害のいずれかの犯罪について、心神喪失・心神耗弱を理由として、不起訴処分・無罪判決・執行猶予判決を受けた後に、検察官による申し立てがなされ、裁判所から鑑定入院命令が出されることによって始まります。
鑑定入院命令は、強制的に医療を受けさせる必要が明らかにない場合を除き、ほぼ全件で発せられます。
その後は、審判が開始され、鑑定入院や社会環境調査の結果などを踏まえて、強制医療の必要があるかどうかの判断がなされます。
強制医療の必要があるかどうかは、裁判官1人と鑑定医とは別の精神科医1人の計2人によって判断がなされます。この結果を踏まえて、最終的な判断が下されることとなります。 -
(2)鑑定入院・審判での弁護士の役割
審判には、裁判官と精神科医以外に、通常は検察官と弁護士も出席します。弁護士の出席は必須で、対象者が私選で弁護士をつけることができなければ、国選の弁護士がつくこととなります。この審判に出席する弁護士は、付添人と呼ばれます。
弁護士は、対象者に、強制医療が本当に必要なのか、必要だとしても通院でいいのか、入院まで必要かを考えます。また、弁護士には、望ましいゴールに至るように調整するコーディネーターとしての役割もあります。対象者の受け入れ体制の整備や、対象者が納得して治療を受けられるように説明するなどの環境調整も行います。 -
(3)具体的な弁護士の活動
- 鑑定入院中
弁護士が付添人についた時点では、対象者は鑑定入院命令を受けて入院中であることがほとんどです。したがって、弁護士は、裁判所で記録を閲覧し、対象者がどこの病院に入院しているのかを確認することからスタートし、入院先の病院で接見を行います。
鑑定入院中であっても適切な医療が行われなければならないため、接見では、処遇内容の確認を行います。また、鑑定入院先で不必要な人権制限(身体拘束・外部との連絡の制限など)が行われている場合には、そのような制限を行う法的根拠がないことを主張して、鑑定医などに抗議を行います。
これと並行して、対象者の家族から生育歴などを情報収集します。刑事裁判とは別の全く違う手続きであることすら知らない家族がほとんどですので、弁護士から丁寧に説明をすることで家族との信頼関係を築き、その後の環境調整に協力的に関与してもらえるようにします。 - 審判
このようにして審判の準備を進め、対象者に強制医療の必要がないと考える場合には、裁判所に意見書を提出してその旨を主張し、裁判所が検察官の申し立てを認めないように活動します。
また、医療を受けさせる必要がないとまではいえない場合でも、対象者の状態やこれまでの生活環境などを踏まえて、適正な医療が受けられるように活動を行います。
この他、福祉機関と連携して、社会復帰後の生活に向けて環境を調整したり、支援してくれる福祉機関を見つけたりするなどの活動も、審判での弁護士の役割です。
審判の手続きの進行については、医療観察法には具体的な規定がなく、各裁判所によって異なります。また、実質的な議論は、審判に先立って行われる事前打ち合せ(カンファレンス)で行われることも多いです。そのため、手続きにおける弁護士の役割が非常に重要となります。
審判の結果は、
① 入院処遇
② 通院処遇
③ 不処遇(何らの医療も受けさせない)
④ 却下(対象行為なし、完全責任能力あり)
の4パターンがあります。
裁判所による審判の結果が出る日時は、弁護士にも通知されないこともあり、刑事事件のように裁判所で判決を聞くというわけでもありません。そのため、弁護士は、審判の結果がいつ出る見込みであるかをあらかじめ確認し、審判の結果を把握することになります。
- 鑑定入院中
4、鑑定入院後はどうなるの?
審判の結果、医療を強制する必要があると判断された場合、対象者は、医療を受けることが強制されることとなります。
前述の通り、強制される可能性のある医療には、2種類あります。
1つは、入院処遇で、指定入院医療機関に強制入院させるものです。審判の結果、入院処遇となれば、その日のうちに、どこかの病院に移動させられます(どこの病院に入院するかは、結果が出るそのときまで知ることができません)。入院期間に制限はありませんが、入院日数の平均値は750日、中央値は925日となっており、入院期間は長期化の傾向にあるといえます。指定入院医療機関は、令和4年4月1日時点で、34か所あります。
もう1つは、通院処遇で、指定通院医療機関への通院を義務付けるものです。この義務に違反すれば、⼊院処遇の申し⽴てを受ける可能性があります。通院期間は、原則として3年ですが、最長で5年まで延長される可能性があります。指定入院医療機関は、令和4年4月1日時点で、病院が597か所、診療所が92か所、訪問看護が643か所あります。
なお、細かい内容になりますが、医療観察法の手続きでは、入院ではなく通院と判断されたにもかかわらず、精神保健福祉法という別の法律で定められている措置入院という制度によって、入院が強制されてしまうというケースもあります。
入通院決定に対しては、2週間以内に抗告という不服申し立てを行うことができます。抗告は、対象者が病院の中で自ら行うことが可能です。
5、まとめ
医療観察法に基づく鑑定入院は、対象者に強制的に医療を受けさせる必要があるかを判断するために行われるものですが、究極的な目的は、対象者の社会復帰を図る点にあります。
鑑定入院となれば、原則2か月、最長3か月の入院を余儀なくされ、審判によって、入院処遇・通院処遇・不処遇・却下のいずれかが判断されますが、審判では、弁護士がつき、適正な手続きと処遇を実現するために活動します。
医療観察法に基づく手続きは、刑事事件とは別で全く異なり、裁判所によっても手続きが異なるので、弁護士の役割が極めて重要です。また、対象者が正しい処遇を受けるためには、弁護士が、家族・対象者が過去に通院していた病院・福祉機関などと連携して、鑑定入院の調査結果が適正かどうかのチェックをすることもあります。
ご自身や大切な方に鑑定入院の可能性がある場合、まずはベリーベスト法律事務所 奈良オフィスまでご相談ください。医療観察法に基づき速やかに手続きをサポートいたします。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています