廃墟や心霊スポットに行くと逮捕される? 該当する罪について解説
- その他
- 廃墟
- 逮捕
古都として名高い奈良には、数多くの古い寺社・仏閣が現存しています。そのため、全国から数多くの観光客が訪れていますが、歴史探訪の目的ではない人もいるようです。
たとえば、老朽化して廃墟になってしまった古いホテル・旅館やダム・滝・街道など、いわゆる「心霊スポット」で肝試しに興じる人などです。動画投稿サイトでは「廃墟系ユーチューバー」のコンテンツも人気が高いため、まねをしようと興味本位で廃墟や心霊スポットに立ち入る若者も増えています。
しかし、たとえ管理されていないからといって、廃墟や心霊スポットに無断で立ち入るのは危険です。怪我などの事故に遭うかもしれないのはもちろんですが、状況次第では犯罪となり、逮捕・刑罰を受けるおそれがあります。本コラムでは、廃墟や心霊スポットに立ち入った場合に問われる罪をベリーベスト法律事務所 奈良オフィス弁護士が解説します。
1、廃墟や心霊スポットへの立ち入りで問われる可能性がある犯罪
すでに使用されていない、誰も管理している様子がないからといって、廃墟などに立ち入るべきではありません。廃墟への立ち入りは、ここで挙げる犯罪に該当するおそれがあります。
-
(1)不法侵入に関する犯罪
たとえ日ごろから誰かが使用しているような様子がなくても、自由な出入りを認められていない場所への無断立ち入りは「不法侵入」です。
水道・電気・ガスなどの点検、物件の補修工事など、正当な理由がないのに他人が居住・看守している住居や邸宅、建造物などに立ち入ると、刑法第130条の「住居侵入罪」または「建造物侵入罪」に問われます。
廃墟と呼ばれており、長年にわたって手つかずの状態であっても、そのほとんどは誰かの所有物であり、勝手な立ち入りは認められていません。門扉が閉じられていたり、ロープやチェーンで閉鎖されていたり、「立ち入り禁止」といった表示があったりするはずです。
このような場所に無断で立ち入ると、3年以下の懲役または10万円以下の罰金を科せられるおそれがあります。 -
(2)他人の財産を盗む犯罪
廃墟のなかには、使用していた当時の家具・調度品などがそのまま放置されていることがあります。
放置されているからといって勝手に持ち出してしまうと、刑法第235条の「窃盗罪」に問われ、10年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられてしまうかもしれません。 -
(3)他人の所有物を損壊する犯罪
廃墟になっていても、門扉やドア・窓などを破壊したり、内部の家具などを壊したりすると、刑法第261条の「器物損壊罪」に問われる危険があります。
面白半分で他人の所有物を損壊させていると、3年以下の懲役または30万円以下の罰金もしくは科料という刑罰を科せられてしまうでしょう。
2、不法侵入が「軽犯罪法」違反になるケース
廃墟が「誰かの所有物」だとすれば、無断で立ち入ると刑法の住居侵入罪・建造物侵入罪に問われるおそれがあります。
すると、廃墟が「誰も管理していない」あるいは相続人不在などの理由で「誰のものでもない」といった物件であれば罪にはならないと考えるかもしれませんが、それは間違いです。
誰も管理していない廃墟に立ち入った場合は「軽犯罪法」の違反になるかもしれません。
-
(1)軽犯罪法とは? 不法侵入との関係
軽犯罪法とは、比較的に軽微な秩序違反を取り締まるための法律です。33項目の違反行為が定められており、刑法などの処罰法令が適用される犯罪行為より比較的軽微な犯罪行為を処罰の対象としています。
軽犯罪法第1条1号には、人が住んでおらず、かつ、看守していない邸宅や建物などに、正当な理由なくひそむ行為を罰することが明記されています。
誰も管理している様子がない、立ち入りを阻むような門・扉・柵などがない、「立ち入り禁止」の表示がないといった廃墟でも、心霊スポットの肝試しは「正当な理由」による立ち入りとはいえません。 -
(2)軽犯罪法違反で逮捕される可能性は低い
廃墟への立ち入りで軽犯罪法違反になるとすれば、たとえば通報を受けて警察官が駆けつければ「現行犯逮捕されてしまうのか?」という不安も感じるでしょう。
たしかに、罪を犯している状態を警察官に現認されれば、その場で逮捕されてしまうおそれがあることは否定できません。ただし、逮捕は国民の自由を制限するきわめて強力な処分なので、自由を制限する程度に見合わない軽微な犯罪による逮捕は制限されています。
軽微犯罪における現行犯逮捕の制限は、刑事訴訟法第217条に定められています。ここでいう軽微犯罪とは、法定刑が「30万円以下の罰金・拘留・科料にあたる罪」です。
軽犯罪法第1条の法定刑は「拘留または科料」で、30日未満の刑事施設への収容や1万円未満の金銭徴収というものなので、まさに軽微犯罪にあたります。
軽微犯罪にあたる罪では、住居もしくは氏名が明らかではない、または逃亡するおそれがあるといった状況がない限り、現行犯逮捕されません。
逮捕状にもとづく通常逮捕の場合も同様で、刑事訴訟法第199条1項によると、30万円以下の罰金・拘留・科料にあたる罪については、住居不定、または正当な理由なく出頭の求めに応じない場合のみ逮捕可能としています。
つまり、警察官が駆けつけても、その場で素性を明かして事情聴取に応じる、後日の出頭要請にもきちんと応じるといった対応があれば、逮捕されることはありません。
3、逮捕・起訴されるとどうなる?
廃虚への不法侵入や窃盗・器物損壊などの容疑で警察に逮捕されると、その後はどうなってしまうのでしょうか?
-
(1)逮捕後は最長23日間の身柄拘束を受ける
警察に逮捕されても、そのまま刑務所へと収容されるわけではありません。まずは警察の段階で48時間以内の身柄拘束を受けたのち、検察官のもとへと送致され、さらに24時間以内の身柄拘束を受けます。
ここで検察官が「さらに詳しく取り調べる必要がある」と判断し、裁判官もその必要を認めると「勾留」によって原則10日間、延長請求があればさらに最長10日間、合計で最長20日間の身柄拘束が可能です。
身柄拘束の期間は最長で23日間となり、その間は自宅に帰ることも、会社や学校に行くことも許されません。スマホなども証拠品として押収されたり、事件には関係ないとしても私物として警察側が預かったりするので、自由な連絡も不可能です。 -
(2)起訴されると刑事裁判が開かれる
検察官が「厳しく処罰する必要がある」と判断すると、刑事裁判が提起されます。この手続きが「起訴」です。
起訴されると、容疑をかけられている人の立場が「被告人」へと変わり、被告人としてさらに勾留を受けながら、およそ1か月に一度のペースで開かれる刑事裁判に出廷することになります。
実際に違法行為があったのなら、刑事裁判で無罪になる可能性はきわめて低く、検察官が起訴した事件のほとんどに有罪判決が下されているのが現実です。 -
(3)起訴されないための対策
厳しい刑罰や前科がついてしまう事態を避けるためには、検察官による起訴の回避が不可欠です。
検察官が「不起訴」を選択すると刑事裁判が開かれないので、刑罰を受けることも、前科がつくこともありません。
検察官が不起訴とする理由はさまざまですが、およそ7割を占めるのが「起訴猶予」です。
起訴猶予とは、刑事裁判を起こせば有罪判決はほぼ間違いないという状況がありながらも、罪を犯した本人の反省の度合いなど諸般の事情を考慮して、あえて起訴しないことを意味します。
廃墟などの所有者に対して真摯に謝罪し、損壊したドアや窓の修理費を負担するなどの賠償を尽くすことで示談が成立すれば、起訴猶予となる可能性が高まるでしょう。
ただし、個人で示談交渉を進めるのは簡単ではありません。たびたび不法侵入されて怒りを感じている相手なら、示談交渉を受けいれてくれないおそれもあります。そもそも、個人ではどこの誰が所有者なのかもわからないケースもあるので、示談交渉は弁護士にまかせたほうがよいでしょう。
4、前科をつけたくないなら弁護士に相談を
いたずら半分や好奇心で廃墟・心霊スポットに立ち入ったのはよくないとしても、厳しい刑罰を受けて前科がついてしまう事態を避けたいと望むのは当然です。不法侵入などが問題となってトラブルに発展しているなら、弁護士に相談してサポートを依頼しましょう。
-
(1)早期釈放を実現できる可能性が高まる
すでに逮捕されているなら、社会生活への悪影響を抑えるためにも早期釈放を実現する必要があります。
しかし、すでに逮捕されている本人が「逃げ隠れしないから家に帰らせてほしい」と求めても、その要求は聞き入れてもらえません。
弁護士に依頼すれば、捜査機関や裁判官に対して身柄拘束を継続する必要がないことを客観的に主張することで、早期釈放の実現が期待できます。家族が本人の監督強化を誓約している、職場の上司が継続雇用の意向を示しているなどの状況を証拠とともに示せば、釈放されて任意の在宅捜査へと切り替えられる可能性も高まるでしょう。 -
(2)不起訴の実現を目指した弁護活動が期待できる
刑罰・前科を避けるためには廃墟などの所有者との示談成立が欠かせません。しかし、逮捕されている状況では被害者との面会がかなうはずもないので示談交渉そのものが不可能であり、在宅捜査であっても相手にしてもらえないおそれがあります。
弁護士に相談すれば、容疑をかけられている本人の代理人として廃墟などの所有者との示談交渉を一任できます。示談の成立を捜査機関に示したうえで、本人の深い反省や再び罪を犯さないことの誓約を伝えれば、不起訴となる可能性も高まるでしょう。
5、まとめ
たとえ面白半分や好奇心からでも、廃墟などの心霊スポットで肝試しをしていると、特に悪意がないのに罪を犯してしまう事態になりかねません。廃墟などの所有者が不法侵入や窃盗、器物損壊などの被害に頭を悩ませている状況なら、すぐに通報されて警察に逮捕されてしまうおそれがあります。
厳しい刑罰が科せられ、前科がついてしまう事態に発展することもあるので、トラブルが発生したらただちに弁護士に相談してサポートを得るのが賢明です。
廃墟など心霊スポットへの立ち入りが問題となりトラブルになったら、ベリーベスト法律事務所 奈良オフィスにご相談ください。刑事事件の解決実績を豊富にもつ弁護士が、トラブル解決に向けて全力でサポートします。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています