刑事事件で逮捕されないケースとは? 書類送検や在宅事件も解説

2021年01月21日
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刑事事件で逮捕されないケースとは? 書類送検や在宅事件も解説

出来心で違法ダウンロードをしてしまった、口論の末につい手がでてしまったなど、何らかの罪を犯してしまった場合は警察に逮捕される可能性があります。その一方で、喧嘩で相手を殴っても逮捕されなかったなど、罪を犯しても逮捕されないケースがあります。

警察庁の資料によれば、平成30年度の奈良県の刑法犯の認知件数は7764件でしたが、検挙率は4437件(57.1%)であり、犯罪を認知した件数と逮捕した件数は異なることがうかがえます。

このように、同じ犯罪であっても、逮捕される場合と逮捕されない場合があるのはなぜでしょうか?

本コラムでは、罪を犯しても逮捕されないケースとその理由、もし逮捕されてしまったらどうなるのかなどを、ベリーベスト法律事務所 奈良オフィスの弁護士が解説します。

1、罪を犯しても逮捕されないことがあるのはなぜか?

罪を犯した場合でも、全ての事件で必ず逮捕されるわけではありません。それはなぜでしょうか?
逮捕のために必要な構成要件を手がかりに、解説していきます。

  1. (1)逮捕とは

    逮捕には通常逮捕、現行犯逮捕、緊急逮捕の3種類があります。このうち一般に多いのが現行犯逮捕と通常逮捕です。

    現行犯逮捕とは、目の前で犯罪を行っている、あるいは行って逃走する犯人を逮捕するケースです(刑事訴訟法213条)。たとえば、パトロール中の警察官が、他人の家に侵入しようとしてドアを解錠している犯人を発見し、その場で現行犯逮捕するなどです。現行犯逮捕では、逮捕状がない警察官や一般人でも逮捕することができます。

    通常逮捕は、逮捕状に基づいた身柄の拘束です。まず警察などの捜査機関が逮捕状と呼ばれる書類を裁判所に請求し、逮捕をしてもよいと裁判所が判断した場合にのみ、逮捕状がだされます。通常逮捕では、逮捕状を持った捜査機関のみが容疑者を逮捕することができます。裁判所が逮捕状をださなければ、捜査機関はいくら逮捕したくてもできません。逮捕してもよいかどうかを捜査機関ではなく裁判所がチェックすることで、不当な逮捕を防止しているのです。

  2. (2)逮捕の構成要件

    逮捕が認められる要件は、刑事訴訟法という法律に規定されており、以下の2点を満たさなければなりません。

    • 逮捕する理由があること(刑事訴訟法199条1項)
    • 逮捕の必要性があること(刑事訴訟法199条2項但書)


    ひとつ目の逮捕する理由とは、「被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある」ことを意味します。少し難しい表現ですが、罪の疑いを受けた人物(被疑者)に対して、疑ってしかるべき「客観的で合理的な」理由が必要である、という解釈ができます客観的で合理的とは、たとえば窃盗罪であれば、盗みを犯した物的証拠や目撃者の証言があるということです

    ふたつ目の逮捕の必要性とは、以下の2点を満たす場合を意味します。

    • 被疑者が逃亡するおそれがあること(刑事訴訟規則143条の3)
    • 被疑者が罪証隠滅(犯罪の証拠を隠したり処分したりすること)をするおそれがあること


    つまり、逮捕する理由と必要性がなければ、罪を犯しても逮捕することはできないということです。これが、罪を犯しても逮捕されない理由のひとつです。

  3. (3)認知件数と検挙件数の差

    検察庁が発表している犯罪白書には、刑法犯(刑法などの法律に規定されている犯罪のこと)の認知件数と検挙件数が規定されています。

    認知件数とは、警察などの捜査機関が把握した犯罪の発生数です。通報を受けて現場に赴いた警察官が事件と判断し、被害届の提出を受けた場合に、認知件数としてカウントされます。

    検挙件数とは、捜査機関が事件を検挙した件数です。検挙とは、検察に事件を送る送致・送付や、軽微な事件のため検察に送致せずに警察で処理する微罪処分のことです。一般には逮捕した件数と考えてよいでしょう。

    令和元年版の犯罪白書によれば、平成30年度の刑法犯の認知件数は約81万7000件で、検挙件数は約31万件でした。単純計算でおよそ50万件以上の事件が、犯罪が発覚しても捜査機関に検挙されていないことがわかります。

2、逮捕と書類送検の違い

テレビや新聞などで、「事件を起こした被疑者が書類送検されました」という表現を見聞きしたことがあるかもしれません。逮捕と書類送検とは異なる手続きです。

逮捕とは、罪を犯した人物の身柄を拘束する行為です。刑事事件を起こした被疑者を逮捕して身柄を拘束し、事件とともに身柄を検察に送致することを、身柄送検といいます。

一方の書類送検とは、事件を起こした被疑者の身柄を拘束しない、つまり逮捕しない状態で事件に関する書類や証拠のみを検察に送致することです。

書類送検は、一般に以下の事由がある場合に行われます。

  • 被疑者がすでに死亡しており、身柄を拘束できない場合
  • 被疑者に逃亡や罪証隠滅のおそれがない(逮捕の要件を満たさない)場合


なお、書類送検はあくまで事件を検察に送るための手続きなので、書類送検された段階ではまだ有罪は確定していません。

3、逮捕されなくても在宅事件となる可能性がある

逮捕されなかったとしても、その事件について無罪が認められたわけではありません。在宅事件として捜査される可能性があります。在宅事件とは何か、概要や要件を解説していきます。

  1. (1)在宅事件とは

    在宅事件とは、事件の被疑者が留置所などに身柄を拘束されることなく、在宅で捜査が行われることです。在宅捜査とも呼ばれます。在宅事件は身柄事件とは異なり、普段どおりの生活をしながら取り調べなどを受けられるため比較的社会的な影響が少なくてすみます。

    なお、在宅事件であっても捜査は継続しており、無罪放免になったわけではありません。出頭の要請があった場合は速やかに応対しましょうまた在宅事件として捜査された結果、検察官に起訴されて刑事裁判にかけられる可能性はあります

  2. (2)在宅事件となるケース

    一般に在宅事件になる可能性が高いのは、以下の2点を満たすケースです。

    • 被疑者に逃亡や罪証隠滅のおそれがない
    • 比較的に軽微な事件である


    逃亡や罪証隠滅のおそれがないかどうかは、基本的に逮捕の場合と同様の基準で判断されます。比較的に軽微な事件であるとは、事件の被害が比較的軽いものだということです。

    たとえば同じ交通事故でも、被害者が軽症で示談がすんでいるような事件は比較的に軽微な事件といえます。一方、被害者が亡くなってしまった死亡事故の場合は、被害が重大で軽微とはいえません。

4、逮捕後の流れ

逮捕されてしまった場合でも、すぐに裁判にかけられて有罪になるわけではありません。逮捕された後は勾留や起訴などさまざまな手続きがありますが、その間の弁護活動や示談交渉により釈放となる可能性があります。

下記より逮捕後の流れを解説していきます。

  1. (1)逮捕

    捜査機関に逮捕されると、警察と検察の取り調べで、最大72時間にわたり身柄が拘束されます。まず逮捕後の48時間で警察によって取り調べが行われ、検察に送検するか釈放するかが判断されます。

    なお72時間の間、本人と自由に面会ができるのは基本的に弁護士だけです。家族であっても面会が許されないことがほとんどです。もし逮捕されてしまったら早期に弁護士に依頼することをおすすめします。

  2. (2)送検

    警察の取り調べの結果で検察に送検すべきと判断されると、身柄もしくは事件の捜査内容が検察へ送られます。これを送検といいます。送検されると、被疑者を勾留するか釈放するかが24時間以内に判断されます。

    送検には2種類あり、被疑者の身柄ごと事件を移すことを身柄送検、身柄を移さずに事件の書類や証拠のみを送ることを書類送検といいます。送検の目的は、被疑者を起訴して裁判にかけるかどうかを判断することです。

  3. (3)勾留

    逮捕された後、刑事施設に収監・身柄を拘束されることを勾留といいます。裁判所が勾留請求を認めると、最長で20日間(原則10日、延長によりさらに10日)身柄が拘束されます。

    勾留が長引くと職場や学校などに身柄を拘束されていることを知られ社会復帰に影響がでる可能性が高まります。逮捕後の迅速な刑事弁護が結果を左右することも珍しくありません。勾留期間でも適切な弁護活動がなされれば、早期釈放の期待が持てるでしょう。

  4. (4)起訴

    刑事裁判にかけることを起訴といい、起訴されると名称が被疑者から被告人にかわります。

    現在の日本の刑事事件では起訴されれば9割以上が有罪判決になるという事実があります刑事事件で有罪判決を受けると罰金や懲役などの刑罰の対象になり、前科がついてしまうので、起訴されないよう弁護活動を行うことは重要です刑事事件の経験が豊富な弁護士に相談し、不起訴処分を獲得するために行動することが大切です

5、逮捕される前に弁護士へ相談を

逮捕される可能性がある場合は、迷わず弁護士に相談することをおすすめします。
逮捕を回避するための弁護活動は以下の2点です。

  • 被害者との示談交渉
  • 捜査機関との交渉


これらを成功させることができれば、逮捕されずにすむ可能性が高まります。いずれも刑事事件の経験豊富な弁護士の力が重要です。以下、それぞれ解説していきます。

  1. (1)被害者との示談交渉

    示談とは、裁判を介さずに争いについて当事者の話し合いで解決することです。

    たとえば、金銭をだまし取る詐欺事件を起こしてしまった場合に、加害者が被害者と話し合って示談を成立させ、被害届を取り下げてもらうなどすれば、詐欺罪として逮捕されなくなる可能性があります。

    示談を成立させるには、誠意ある謝罪や損害の賠償などが重要です。しかし、加害者本人が示談をしようとしても、被害者の心情としては相手と関わりたくないと思うことも想像に難くありません。また連絡先を入手することも困難でしょう。

    この点、刑事事件の経験が豊富な弁護士であれば、経験をもとに被害者の心情を踏まえた交渉を行うことで、示談を成功させる可能性が高まります

  2. (2)捜査機関との交渉

    逮捕前であれば、弁護士が捜査機関と交渉して逮捕の必要性がないことを説得し、逮捕を回避できる可能性が高くなります。たとえば、弁護士名義の報告書を提出して逮捕の必要性がないことを訴える、逃亡のおそれや罪証隠滅のおそれがないことを主張して、逮捕ではなく在宅事件になるように説得するなどです。

    事件が発覚する前に、加害者が罪を犯したことを自ら捜査機関に報告することを自首といいます。弁護士に依頼すれば、自首する際に一緒に同行してもらえます。また取り調べの際のアドバイスを事前に受けることができます。

    いずれにせよ逮捕を回避するためには、当事者ではなく弁護士という立場から、法的に根拠のある主張をすることが非常に重要です。

6、まとめ

何らかの罪を犯した場合でも、必ず逮捕されるわけではありません。警察などの捜査機関が逮捕をするには理由と必要性が必要であり、要件を満たさなければ逮捕状は発付されないからです。

また、被疑者に逃亡や罪証隠滅のおそれがなく、比較的に軽微な事件の場合などは、逮捕せずに在宅事件や書類送検、微罪処分などですませる場合があります。

逮捕されるのではないかと悩んだら、まずはベリーベスト法律事務所 奈良オフィスにご相談ください。刑事事件の経験が豊富な弁護士が親身になって対応し、最善の対策を見いだすためにアドバイスいたします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています