公正証書遺言は勝手に開封してもよい? 開封後の執行方法も解説
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人口動態総覧によると、奈良県内における2020年の死亡数は1万4678人でした。参考までに、そのうち、奈良市内における死亡者数は3651人となっています。
自宅で封をされた状態の公正証書遺言書(遺言公正証書)を発見し、開封してよいものかどうか悩んでいる方もいらっしゃるかと思います。
封をされた遺言書を開封してよいかどうかは、遺言書の種類によって異なります。公正証書遺言については開封しても構いませんが、念のため開封に関する民法のルールを正しく理解しておきましょう。
今回は、自宅にあった公正証書遺言を開封することの可否や、開封後の遺言執行の方法などにつき、ベリーベスト法律事務所 奈良オフィスの弁護士が解説します。
出典:「令和2年 確定数 人口動態総覧」(奈良県)
1、公正証書遺言は開封して構わない
「封をしてある遺言書は開封してはいけない」というイメージをお持ちの方も多いかと思います。相続手続きには慎重な対応が求められるため、このような心掛けをすることは好ましいといえるでしょう。
しかし、被相続人の自宅から見つかった公正証書遺言については、特に手続きを要することなく開封して構いません。
被相続人の自宅に保管されている公正証書遺言は「正本」または「謄本」であり、原本ではありません。公正証書遺言の原本は、公証役場に保管されています。公正証書遺言の正本や謄本が開封されても、公証役場に保管されている原本が改ざんされるおそれはありません。
そのため、被相続人の自宅に保管されている公正証書遺言の正本や謄本については、たとえ封がしてあったとしても、法定相続人等が自身の判断で開封してよいことになっているのです。
2、勝手に開封してはいけない遺言書
公正証書遺言とは異なり、自筆証書遺言と秘密証書遺言については、封がしてある場合は勝手に開封してはいけません。
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(1)自筆証書遺言(法務局で保管されている場合を除く)
「自筆証書遺言」とは、本人が全文・日付・氏名を自書し、さらに押印して作成する遺言書です(民法第968条)。民法で認められた方式の中では、もっとも手軽に作成できる遺言書といえます。
自筆証書遺言については、作成時に封印することは必須とされていません。しかし、遺言者(被相続人)の判断で自筆証書遺言を封印するケースがあります。
この場合、家庭裁判所において法定相続人またはその代理人の立ち会いがなければ、封印された自筆証書遺言を開封することはできません(民法第1004条第3項)。
なお自筆証書遺言は、「自筆証書遺言書保管制度」を利用することにより、法務局の遺言書保管所で保管してもらうことができます。
参考:「自筆証書遺言書保管制度」(法務局)
この場合、原本は法務局の遺言書保管所で保管されているため、公正証書遺言と同様に、被相続人の自宅で保管されている自筆証書遺言の写しを開封することは問題ありません。
ただし封書の外見からは、法務局で保管されている自筆証書遺言の写しなのか、それとも自筆証書遺言の原本なのかを判別するのは困難なケースが多いでしょう。その場合は、封書を勝手に開封することなく、念のため家庭裁判所に持ち込むことをお勧めいたします。 -
(2)秘密証書遺言
「秘密証書遺言」とは、遺言者が署名・押印をして作成した証書を封印した上で、公証人1人と証人2人が封書に署名・押印して作成する遺言書です(民法第970条)。実務上はあまり用いられていませんが、民法において遺言書の方式のひとつとして認められています。
秘密証書遺言は、封印することが必須とされています。したがってすべての秘密証書遺言は、家庭裁判所において法定相続人またはその代理人の立ち会いがなければ、開封が認められません(民法第1004条第3項)。 -
(3)家庭裁判所では、開封と同時に検認を行う
なお、封印のある遺言書を家庭裁判所に持ち込む際には、同時に「検認」という手続きを経ることになります。
参考:「遺言書の検認」(裁判所)
遺言書の検認とは、相続人に遺言書の存在・内容を知らせるとともに、検認日現在における遺言書の内容を明確化して、偽造・変造を防止するための手続きです。法定相続人は、検認期日に出席することができます(検認の申立人については出席が必須です)。
遺言書の検認は、封印のある遺言書に限らず、法務局で保管されているもの以外の自筆証書遺言と、秘密証書遺言について必要とされています(民法第1004条第1項)。
これに対して、公正証書遺言と法務局で保管されている自筆証書遺言については、検認不要です(同条第2項、法務局における遺言書の保管等に関する法律第11条)。 -
(4)遺言書を勝手に開封した場合の罰則
遺言書を勝手に開封した場合や、検認が必要な遺言書について検認を怠った場合には、「5万円以下の過料」に処される可能性があります(民法第1005条)。
実際に過料の制裁が課されるケースはほとんどありませんが、念のためご注意ください。
3、公正証書遺言の執行方法
遺言書の内容を実現することを「遺言の執行」といいます。公正証書遺言の執行方法は、遺言執行者が選任されているか否かによって、以下のとおり異なります。
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(1)遺言執行者が指定されている場合の執行方法
遺言者は、遺言によって遺言執行者を指定し、または遺言執行者の指定を第三者に委託することができます(民法第1006条第1項)。遺言執行者に指定された者が就任を承諾した場合、公正証書遺言の執行は遺言執行者が行います。
遺言執行者は、以下の流れで職務を行います。(a)職務の開始
遺言執行者は就任の承諾後、直ちに職務を開始します(民法第1007条第1項)。
(b)法定相続人の確定
就任直後の段階で、まず法定相続人の確定を行います。戸籍資料から被相続人との続柄を確認して、法定相続人の確定を進めます。
(c)相続人に対する遺言内容の通知
相続人を確定した後、就任後遅滞なく、遺言の内容を法定相続人全員に通知します(民法第1007条第2項)。
(d)相続財産の調査・相続財産目録の作成
遺言執行の対象となる相続財産を調査・把握し、相続財産目録を作成します。相続財産目録は、各法定相続人に交付する必要があります(民法第1011条第1項)。
(e)相続財産の処分・移転
遺言書の内容に従って、相続財産を各法定相続人に移転します。その過程においては、遺言執行者に必要な一切の行為をする権限が与えられています(民法第1012条1項)。
たとえば、相続登記や預貯金の相続手続きなども、遺言執行者が単独で行います。
法定相続人が遺言執行者の行為を妨害することは禁止されており、妨害に当たる行為は無効です(民法第1013条第1項、第2項)。
(f)相続人に対する報告
相続財産の移転が完了したら、遺言執行者は法定相続人に対して、遅滞なくその経過・結果を報告します(民法第1012条第3項、第645条)。
(g)受取物の引き渡し・費用の精算等
最後に、遺言執行の過程で受け取った物を法定相続人に引き渡し、費用の償還や報酬の精算などを行って、遺言執行は完了です(民法第1012条第3項、第646条第1項、第2項、第647条、第650条、第1018条第1項)。 -
(2)遺言執行者が指定されていない場合の執行方法
遺言執行者が指定されていない場合は、すべての法定相続人(+受遺者)が共同して遺言を執行します。
金融機関や法務局などにおける相続手続きも、すべての法定相続人が共同で行わなければなりません。法定相続人の中で代表者を決めて、その人が取りまとめをする形で、計画的に遺言執行を進めていきましょう。
ただし、特に法定相続人がたくさんいる場合には、全員が足並みをそろえて相続手続きを進めるのは非常に大変です。その場合は、弁護士に代理人として相続手続きを進めてもらうことをお勧めいたします。
4、公正証書遺言が見つからない場合は、公証役場の遺言検索
公証役場で作成された公正証書遺言については、各公証役場で利用できる遺言検索を通じて探すことができます。遺言検索には手数料がかからず、また遺言書を作成した公証役場がどこであっても、全国の公証役場において遺言検索を行うことが可能です。
亡くなった被相続人から公正証書遺言を作成したと聞いていたのに、自宅を探しても正本や謄本が見つからない場合は、公証役場の遺言検索を利用するのがよいでしょう。
また、特に公正証書遺言についての話を聞いていなかった場合でも、知らないうちに公正証書遺言が作成されているかもしれないので、念のため公証役場の遺言検索を利用することをおすすめします。
5、まとめ
自筆証書遺言や秘密証書遺言とは異なり、被相続人の自宅で発見した公正証書遺言は、法定相続人の判断で開封して構いません。公正証書遺言については、家庭裁判所での開封・検認の手続きは不要とされています。
公正証書遺言を執行する手続きは、遺言執行者が選任されているか否かによって異なります。遺言執行者になったけれど手続きの進め方がわからない場合や、遺言執行者がおらず、法定相続人の足並みをそろえるのが大変な場合は、弁護士への相談をおすすめします。
ベリーベスト法律事務所は、遺産相続に関するご相談を随時受け付けております。公正証書遺言の執行方法などを含めて、相続についてわからないことがあれば、お早めにベリーベスト法律事務所 奈良オフィスへご相談ください。
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