孫は遺留分を請求できる? 注意点についても弁護士が解説
- 遺留分侵害額請求
- 遺留分
- 孫
「祖父が亡くなったが、第三者に財産をすべて遺贈していた」など、被相続者が亡くなった後で、思わぬ状況が明らかになることは少なくありません。また、「祖父の生活のために亡くなった父は金銭的な援助をしていたのに、孫には一銭も残されていない」など、孫が祖父の相続に対して納得できないケースもあります。
第三者や他の相続人に不公平に財産が譲り渡されているときには、相続人であれば「遺留分」を主張して相当額の金銭の支払いを受けとれる可能性があります。また、孫であっても、状況によって遺留分を主張できるケースがあります。
このように、相続は金額の大きさにかかわらず争いになる場合があります。現に、平成30年度の奈良家庭裁判所でも121件の遺産分割調停が取り扱われました。
そこで、本コラムでは「孫は遺留分を請求できるのか」をテーマに、遺留分や代襲相続についてベリーベスト法律事務所 奈良オフィスの弁護士が解説していきます。
1、遺留分の基礎知識
まず「遺留分」について、ご説明していきます。
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(1)遺留分とは
遺留分とは、一定の範囲の法定相続人に最低限保障される相続分のことです。一定の範囲の法定相続人とは、兄弟姉妹をのぞく法定相続人で、「配偶者・子・直系尊属(被相続人の父母、祖父母など)」が該当します。
生前贈与や遺贈によって自分の財産を自由に譲り渡すことができますし、家族以外の第三者に財産をすべて遺贈するような遺言も、有効です。
ただし、それでは相続権があると思っていた法定相続人の生活にも、影響をおよぼす可能性があります。
そのため、遺留分を有する相続人(遺留分権利者)は、遺贈や生前贈与した財産の譲受人に遺留分を主張(遺留分侵害額請求)すれば、遺留の金銭の支払いを受けることができるとされています。 -
(2)遺留分の割合
遺留分の割合は、「相続人が直系尊属だけの場合には相続財産の3分の1」「それ以外は相続財産の2分の1」とされています。
これらの割合は「遺留分権利者全体の割合」になります。権利者が複数いれば、この割合をそれぞれの相続分に応じて分けることになります。
直系尊属とは、被相続人の両親や祖父母、それ以外は配偶者や子が該当します。なお、直系尊属に対して、子や孫などは「直系卑属」と呼ばれます。
2、孫は遺留分を請求できる?
では孫は、祖父母の遺産相続において遺留分を請求できるのでしょうか。
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(1)孫は代襲相続によって請求できる
孫の祖父母の一方が亡くなったときには、その配偶者や子ども(孫にとっての親・叔父・叔母)が相続人になります。
したがって、子ども(孫の親)が健在であれば、孫は相続人にはなりえません。しかし、子どもが祖父母より先に亡くなっていれば、その立場を代襲して孫が相続人になります。これを代襲相続といいます。
代襲相続とは、亡くなった父の相続権をそのまま引き継ぐものです。そのため、父が遺留分を有していれば、孫も同じだけ遺留分を有することになるといえます。ただし、代襲相続をする孫が複数いるような場合には、父の遺留分を孫の人数で均等に分けることになります。 -
(2)代襲相続とは
代襲相続について改めて解説しましょう。
代襲相続は、被相続人の相続開始よりも前に「子」や「兄弟姉妹」が死亡などによって「相続権を失っていた場合」に、「子」や「兄弟姉妹」の子が代わって相続する制度をいいます。
したがって、被相続人の兄弟姉妹が相続権を失っている場合には、被相続人の甥や姪が代襲相続できます。ただし兄弟姉妹には相続権があっても、遺留分がありません。つまり甥や姪には遺留分はないことになります。
代襲相続人のなかで遺留分を主張できるのは、被相続人の孫(またはひ孫などの直系卑属)に限られます。
なお、「相続権を失っていた場合」とは、死亡・相続排除・相続欠格のいずれかに該当していた場合を意味します。「子」や「兄弟姉妹」が相続放棄をした場合は代襲相続はできないので、注意が必要です。 -
(3)具体的ケースで見る孫の遺留分
具体的な事例によって、孫の遺留分を理解していきましょう。
たとえばAさんには、BさんとCさんという2人の子どもがいたとします。しかしBさんは、結婚してDさんとEさんという2人の子どもに恵まれた後に、事故でなくなってしまったとします。A(祖父)
B・C(子)…Bは亡くなっている
D・E(Bの子)
このケースでAさんが亡くなれば、Aさんの相続人はBさんを代襲相続する「DさんとEさん」とAさんの子である「Cさん」になります。遺留分は、相続財産の「2分の1」を全員で分けることになります。また、DさんとEさんは、下記のようにBさんの遺留分を分けることになります。
Bさんの遺留分……1/2×1/2=1/4
DさんとEさんはこれを半分ずつ分ける……1/8ずつの遺留分
なお、相続税の基礎控除は「3000万円+(600万円×法定相続人の数)」で求められますが、代襲相続人も法定相続人に含まれるため、法定相続人が増えればその分控除される金額も多くなるので納税額は減ります。
3、遺留分はどうやって請求する?
遺留分は、どのように請求することができるのでしょうか。
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(1)遺留分侵害額請求
遺留分権利者には、贈与や遺贈を受けた人に対して、侵害された遺留分に相当する金銭の支払いを請求できる権利があります。これを遺留分侵害額請求権といいます。
遺留分侵害額請求をする場合は、受贈者などに対して意思表示を行う必要があります。
なお、令和元年7月1日より前に亡くなった被相続人に対しては「遺留分減殺請求」という名称が使われていましたが、民法改正により「遺留分侵害額請求」に変更されました。 -
(2)遺留分請求の方法
では、具体的に遺留分を請求する場合には、何からはじめればよいのでしょうか。
まずは、内容証明郵便で受贈者に意思表示することがおすすめです。内容証明郵便は請求の証拠となるので、「請求された、請求されていない」といったトラブルを未然に防ぐことができるためです。
具体的には「父の遺言書は遺留分を侵害するものなので、私は遺留分権利者として貴殿に対して本書をもって遺留分侵害額の請求をします」などといった文面の内容証明郵便を作成して送付します。
もし、受贈者が遺留分請求に応じてくれなかったり、争いになったりするような場合には、家庭裁判所に調停を申し立てて解決を図る方法があります。調停では、調停委員を交えて当事者双方が話し合いを進めていきます。調停委員は、双方の主張をきいたり必要資料の提出などを求めたりして、解決策の提示やアドバイスを行います。
なお、家庭裁判所に遺留分請求の調停を申し立てただけでは、遺留分請求の意思表示をしたことにはなりません。そのため調停手続きとは別に、直接相手方に「内容証明郵便」で遺留分請求の意思表示をしなければなりません。
調停で合意できない場合などには、裁判で解決を図る方法もあります。
4、孫が代襲相続するときの注意点とは
孫が代襲相続するときには、主に次のような注意点があります。
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(1)遺留分請求は時効に注意する
遺留分侵害額請求権は、原則として1年間で時効によって消滅します。これは、遺留分権利者が「相続が開始したことおよび遺留分を侵害する贈与や遺贈があったことを知った日」が起算点になります。
なお、遺留分を侵害する遺贈などがあったことを知らなかったとしても、相続開始日から10年で時効によって請求できなくなるとされています。 -
(2)相続人の人数が多く手続きが煩雑になる可能性も
孫が代襲相続するような場合、相続人の人数が多いケースもあります。たとえば被相続人の子の人数がそもそも多いうえに、数人に代襲相続が生じているようなケースです。
こういった場合に、相続人同士が遠方で集まりにくかったり、関係が薄く面識さえなかったりということもめずらしくありません。そのため、相続手続きに必要な戸籍の収集や話し合いを進めることが困難で、なかなか進まないこともあります。
遺留分侵害請求をする場合は、時効が1年と短いため、弁護士に相続手続きを相談し早急に対処することが望ましいでしょう。 -
(3)子が相続放棄している場合は代襲相続できない
代襲相続は、相続放棄によっては生じないので注意が必要です。たとえば、祖母が亡くなり、母が相続放棄したからといって孫が代襲することはできません。
この場合孫は代襲相続できないので、祖母の相続に関して遺留分を主張することはできません。
5、まとめ
本コラムでは、「孫は遺留分を請求できるのか」をテーマに、注意点も含めて解説していきました。孫が遺留分を請求できるのは、代襲相続できるときです。ただし、もしも相続人が多いと、相続手続きに時間がかかったり相続人同士で意見がまとまらなかったりすることも少なくありません。
もし、遺留分侵害請求をする場合は、時効が1年と短いため、弁護士に相談し、相続人の戸籍の収集や相続手続きのアドバイスを迅速にもらうことをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所 奈良オフィスでは、遺留分侵害額請求などの相続問題に精通した弁護士がご相談に応じています。おひとりで悩むことなく、ぜひお気軽にご相談ください。
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