離婚後に子どもの戸籍と姓はどうなる? 親権者が知っておくべき基礎知識
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子どものいる夫婦が離婚する場合、親権をどちらがとるかは非常に重要なテーマです。
裁判所が公表している『令和2年度司法統計 9家事審判・調停事件の事件別新受件数 家庭裁判所別』によると、奈良県における同年度の「親権者の指定又は変更」の審判事件は22件、調停事件は44件でした。
また、令和元年度の全家庭裁判所を対象とした司法統計では、親権者1万8580人のうち1万7358人が母親という結果が出ており、親権者の9割以上が女性であるという現実が示されています。
女性側が親権者になる場合、気になることのひとつとして子どもの戸籍と氏の問題があげられるでしょう。なぜなら、婚姻生活中は子どもの戸籍が元配偶者にあることも多く、離婚後の戸籍を変更しなければならないケースが少なくないからです。
そこで今回は、離婚後の戸籍と姓、変更手続きなどについて奈良オフィスの弁護士が解説します。
1、戸籍とは
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(1)戸籍とは何か
戸籍とは、国民ひとりひとりの出生から死亡までの身分関係を公的に証明する文書のことです。“一組の夫婦とその間の未婚の子ども”という家族単位で管理されている点が、大きな特徴です(戸籍法6条)。
戸籍の最初に“筆頭者”として記載されるのは、結婚によって氏が変わらない方の配偶者です。現在の日本では結婚すると妻が夫の氏に改姓することが多いため、夫が戸籍の最初に“筆頭者”として記載されていることがほとんどです。戸籍は、本籍地のある市区町村役場で管理されており、戸籍法に基づく届け出によって登録・変更されます。 -
(2)離婚後に復籍するケース
結婚を機に結婚相手の戸籍に入った人は、原則として離婚後は結婚前の戸籍に戻ることになります(戸籍法第19条)。この手続きを、“復籍”といいます。
なお、結婚によって氏を変更しなかった人(多くの場合夫側)は、離婚後も戸籍に変更はありません。“筆頭者”の戸籍はそのまま継続し、元配偶者のみ戸籍から抜けます。具体的には、元配偶者の欄には“除籍”の文字とともに、どこへ移動したのかが記載されます。
ただし“筆頭者”の欄にも、離婚の日付とどんな方法で離婚したのかが記載されます。たとえば裁判離婚により離婚した場合には「離婚の裁判確定日○年○月○日」などと明記されます。 -
(3)離婚後に新しく戸籍を作るケース
離婚後は結婚前の戸籍に戻るのが原則です。
しかし、以下のケースでは自分を筆頭者として新たに戸籍を作る必要があります。- 子どもがいる場合
- 両親がすでに他界しており戻る戸籍がない場合
- 前回の離婚後に作成した戸籍を除籍していた場合
なぜ子どもがいる場合は両親が健在でも新しく戸籍を作らなければならないのかというと、法律上、ひとつの戸籍に入れるのは2世代までだからです。戸籍法第6条では、“戸籍は、市町村の区域内に本籍を定める一の夫婦及びこれと氏を同じくする子ごとに、これを編製する“と明記されており、3代戸籍が禁止されています。
したがって、上記の条件に該当する場合には、離婚届にある“新しい戸籍を作る”という項目にチェックを入れて手続きをすることになります。なお、元配偶者に新しい住所を知られたくない場合は、新しく戸籍の本籍地を記載する必要はありません。
2、離婚後の氏はどうなるか
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(1)改姓した人は結婚前の氏に戻るのが原則
結婚により改姓した人は、離婚後は旧姓に戻るのが原則です(民法第767条第1項)。これを“復氏”といいます。
ただし、子どもがいる女性の場合、子ども自身の生活への影響を考えて離婚後も元配偶者の氏を子どもと一緒に名乗りたいと考えるケースもあるでしょう。その場合は、以下の手続きを行う必要があります。 -
(2)元配偶者の氏を使用し続けるための手続き
離婚後は旧姓に戻るのが原則ですが、結婚中の氏を引き続き使用することも可能です(民法第767条第2項)。この制度は、“婚氏続称”と呼ばれています。
“婚氏続称”するためには、離婚の日を含めて3か月以内に、“離婚の際に称していた氏を称する届”を自身の本籍地の市区町村役場に提出します。“離婚の日”とは、協議離婚の場合は離婚届の受理日、裁判離婚の場合は裁判確定日を意味しています。
必要書類は、以下の通りです。- 離婚の際に称していた氏を称する届
- 戸籍全部事項証明書(戸籍謄本)
- 届出人の印鑑
届出書は、市区町村役場または同ホームページからダウンロードすることが可能です。手続きには、元配偶者や親族などの許可は必要ありません。子どもの社会生活や自身の仕事への影響を考えて、自由に選択することができます。
もしも、3か月の期限に間に合わなかった場合は、管轄の家庭裁判所で“氏の変更許可の申し立て”を別途行う必要があります。この場合、社会生活を営む上で困難なことがあるなどの“やむを得ない事由”があると家庭裁判所が判断した場合のみ婚氏続称が認められるとされています。
しかし、実際の裁判例では、柔軟に認められることも少なくありません。離婚後3か月経過してしまったけれど元配偶者の氏を名乗りたいという方は、まずは弁護士に相談してみましょう。
3、子どもの氏と戸籍
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(1)子どもの氏は当然には変更されない
夫婦が離婚すると、改姓した側は原則として旧姓に戻ります。しかし、子どもの氏は当然には変更されません。
したがって、母親が親権者となった場合、何も手続きしなければ子どもの氏は元配偶者と同じままです。親子の氏が同じでなければ同じ戸籍には入れませんので、子どもの氏を母親と同じものに変更する手続きを別途行う必要があります。
子どもの氏の変更手続きは、母親が結婚中の氏を引き続き使用する“婚氏続称”の手続きを行った場合でも必要です。離婚時の子どもの氏はあくまでも父親側のものであり、同じ氏であっても母親が離婚後に新しい戸籍を作って名乗っている氏とは法律上は別のものとして扱われるからです。 -
(2)子どもの戸籍も変更手続きが必要
氏と同じく、子どもの戸籍も変更手続きをしなければなりません。離婚時には、子どもは父親側の戸籍に入ったままです。親権者である母親を筆頭者とする新しく戸籍に入らせるためには、別途手続きを取る必要があります。
詳細な手続きについては、次章で解説します。
4、手続きの流れ
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(1)子の氏の変更許可の申し立て
たとえ母親が親権者であっても、母親と子どもが同じ氏でないと、同じ戸籍に入ることはできません。そして前述の通り、母親が旧姓と元配偶者の姓のどちらを選択した場合であっても、子どもを母親の戸籍に入れるためには“子の氏の変更許可の申し立て”を行う必要があります(民法第791条)。
“子の氏の変更許可”は、子どもの住所地を管轄する家庭裁判所に、以下の必要書類を用意して申し立ててください。
なお、申立人は子ども自身ですが、15歳未満の場合には母親が子どもの法定代理人として手続きを行います。- 子の氏の変更許可の申立書(15歳以上・15歳未満の2種類あり)
- 子どもの戸籍謄本(全部事項証明書)
- 父母の戸籍謄本(全部事項証明書)
- 子ども1名あたり収入印紙800円
- 連絡用の郵便切手
- 印鑑
子の氏の変更許可の申立書は、家庭裁判所または同ホームページより入手できます。必要書類等に不備がなく、申し立てが認められると、審判書謄本が1週間程度で自宅に届きます。
“子の氏の変更許可の申し立て”に期限は設けられていません。しかし何年も経過してから申し立てをすると、必要性を疑問視されて事情を詳しく尋ねられる可能性はあります。 -
(2)市区町村役場で入籍の届け出を行う
“子の氏の変更許可の申し立て”が認められ審判書謄本が届いたら、次に子どもの戸籍を母親の戸籍に移動させます。この手続きを、“入籍”といいます。
本籍地の市区町村役場に、以下の必要書類を提出して届け出を行いましょう。- 入籍届
- “子の氏の変更許可の申し立て”審判書謄本
- 父親を筆頭者とする子どもの戸籍謄本(全部事項証明書)
- 母親が新しく作成した戸籍謄本(全部事項証明書)
- 印鑑
入籍届は、市区町村役場で入手することも、ホームページからダウンロードすることも可能です。以上で一連の手続きは完了となります。
なお、子どもは成人後1年以内までの間であれば、家庭裁判所の許可なしに旧姓に戻ることも可能です(民法第791条)。この場合、市区町村役場に届出書を提出するだけで手続きが完了します。その際、生まれた時に入っていた戸籍に戻るのか、新たに子ども自身を筆頭者とする戸籍を作るのかを選択することができます。
5、まとめ
夫婦が離婚すると、結婚を機に氏を改めた側は、結婚前の氏と戸籍に戻るのが原則です。しかし、子どもがいる場合や両親がすでに他界している場合には、自分を筆頭者として新たに戸籍を作る必要があります。
また、子どもの氏と戸籍は、何も手続きを取らなければ離婚時の状態のままです。親権者が母親であっても、母親と子どもの氏を同じにしないと同じ戸籍に入れません。そのためには、まず家庭裁判所で子の氏の変更許可の申し立てをしてから、市区町村役場で入籍手続きを行う必要があります。
これらの手続きはすべて自分で行うこともできますが、わからないことや困ったことがあればベリーベスト法律事務所 奈良オフィスの弁護士にお気軽にご相談ください。離婚手続きの疑問はもちろん、裁判所・市区町村役場の手続きから法的な判断まで、総合的にサポートいたします。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています