不貞行為とは? 判断基準や不倫・浮気との違い

2021年07月20日
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不貞行為とは? 判断基準や不倫・浮気との違い

奈良県が令和元年に公表している「届出月・市町村別離婚件数」によると、奈良市では同年中に515件もの離婚が成立しています。

離婚原因もさまざまですが、その中でも少なくない割合を占めているのが、配偶者の不倫による離婚です。しかし注意したいのは、不倫であっても法律上の不貞行為にあたらないケースがあるということです。

そこで今回は、不貞行為と不倫の違い、離婚の流れや慰謝料について、ベリーベスト法律事務所 奈良オフィスの弁護士が解説します。

1、不貞行為とは?

  1. (1)不貞行為の定義

    民法では、“不倫”ではなく、“不貞行為(ふていこうい)”という法律用語を用います。では不貞行為とは、具体的にどのような行為のことを指すのでしょうか。

    不貞行為とは、端的にいえば、“既婚者が自由な意思に基づいて配偶者以外と肉体関係を持つこと”です

    したがって、脅迫されて無理やり肉体関係を結ばされていた場合は、不貞行為に該当しないとされています。また、原則として肉体関係を持つことが条件なので、親密なメッセージのやり取りや、デート、キス、ハグなどのスキンシップでは不貞行為と認められにくいでしょう。さらに、一度きりではなく継続した関係であることも求められます。ただし、例外的に肉体関係なしで不貞行為による慰謝料が認められた裁判例もありますので、3章で解説します。

    一方、不倫は人の主観によって定義はさまざまです。肉体関係がなくてもお互いに恋愛感情を持っていれば不倫である、という意見もあるでしょう。

  2. (2)慰謝料を請求できる法律上の根拠

    では不貞行為により慰謝料を請求できる法律上の根拠とは、一体どのようなものなのでしょうか。

    民法第752条には、夫婦が同居してお互いに助け合うべき同居・協力・扶助義務があること、また、民法第770条1項1号には不貞行為として法定離婚事由が明記されていることなどが、不貞行為が法律上許されない理由とされます。

    法律上許されない行為をして他人の権利を侵害した人は、民法上の不法行為責任を追及されることになります。

    民法第709条には、「故意または過失によって他人の権利または法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」として、不法行為による損害賠償責任が明記されています。この損害には、肉体的苦痛だけでなく精神的苦痛も含まれます。

    不貞行為は、配偶者以外と肉体関係を持つこと、または相手が既婚者であることを知っていて肉体関係を持つことにより、“平和な結婚生活を送る権利”を侵害して相手に精神的苦痛を与えたことになるため、不法行為に該当します

  3. (3)不貞行為をされたら離婚できるか

    不貞行為は民法第770条1項1号に法定離婚事由として明記されています。法定離婚事由とは、裁判により離婚を強制的に認めさせることができる条件です。

    原則として、離婚は配偶者の合意がなければ認められません。しかし、民法第770条にあげられた以下の5つの法定離婚事由がある場合には、裁判所に離婚の訴えを提起することができます。

    • 配偶者に不貞な行為があったとき
    • 配偶者から悪意で遺棄されたとき
    • 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき
    • 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき
    • その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき

2、どこから不貞行為となるか

  1. (1)不貞行為とされる関係性とは

    不貞行為は、原則として継続的な肉体関係があったかどうかによって判断されます。肉体関係とは、性器による性交だけでなく、口腔性交などの類似行為も含まれています。

    ただし、不貞行為の相手が風俗店の従業員である場合は、相手はあくまでも業務の一環として、客から対価を得る目的で肉体関係を結んだにすぎないため、不貞行為と認められないとした裁判例もあり、不貞行為の相手である風俗店の従業員への請求は認められない可能性があります。

    しかし相手がホステス・キャバクラ嬢となると、判断が難しいところです。ホステスによる枕営業については慰謝料請求が認められないとした裁判例がありますが(東京地裁平成26年4月14日判決)、これについては専門家の間でもさまざまな意見があります。判断が難しい場合は、弁護士に相談されることをおすすめします。

  2. (2)不貞行為が認めらない3つのケース

    ひとつ目は、すでに夫婦関係が破たんしていた場合です。不貞行為によって侵害されているのは、“平和な婚姻生活をおくる権利”です離婚を前提として別居している、離婚調停中であるなど、すでに夫婦関係が破たんしていると言える場合には、不貞行為によって侵害される権利・利益がそもそもないと判断される可能性が高いでしょう

    次に、肉体関係のないプラトニックな関係です。たとえば親密なメッセージのやり取り、二人きりでの外食やデート、手をつないで歩く、キス・ハグなどの軽いスキンシップなどが挙げられます。

    最後に、脅迫や暴力や睡眠薬等により肉体関係を強要された、つまり相手が性犯罪の被害者である場合にはその人に対する慰謝料請求は認められません。

  3. (3)プラトニックだが慰謝料が認められたケース

    たとえ肉体関係がなくても、恋人同士のような行為を継続して行い、それによって夫婦関係が壊れたと客観的に認められる場合には、例外的に慰謝料の支払いが命じられることがあります。

    具体的には、平成26年3月に大阪地裁で下されたプラトニック不倫の判決です。原告である妻側は不貞相手(肉体関係なし)の女性に220万円の損害賠償を求めていましたが、結局裁判所は44万円の支払いを命じました。

    被告の女性は原告の夫にキスや肉体関係は拒否しつつも、何度も二人きりでデートをしていました。具体的には、浴衣で一緒に花火大会に出掛けたり、手をつないでデートをしたり、自転車に二人乗りをしたりしていました。肉体関係はないもののそれ以外は通常の恋人と変わらない、非常に仲むつまじい様子だったことが伝えられています。

    ふたりの交際について、裁判所は「社会通念上、相当な男女の関係を超えたものと言わざるを得ない」とし、「同僚女性の態度と夫の(妻への)冷たい態度には因果関係がある」と結論付けました。

    配偶者と親密な関係にある人に悩まされているけれど肉体関係の証拠がどうしても入手できずにお悩みの方は、まずは弁護士に相談することをおすすめします

3、不貞行為における慰謝料請求

  1. (1)慰謝料の増額要因

    離婚することを選んだ場合、原則として不貞行為の慰謝料は配偶者と不貞相手に請求することになります(民法709条)。

    不貞行為による慰謝料の金額はケース・バイ・ケースですが、一般的に増額要因になることが多いのは以下のような事由です。

    • 不貞行為により離婚することになった
    • 婚姻期間が長い
    • 夫婦の間に子どもがいる
    • 不貞相手との間に子どもができた
    • 慰謝料請求の相手が高収入・社会的地位がある
    • 不貞期間が長い、頻度が多い
    • 慰謝料請求の相手の態度が不誠実、反省していない
  2. (2)慰謝料請求には証拠収集が大切

    慰謝料を請求するためには、不貞行為による損害を客観的に示す証拠を集めることが非常に重要となります

    証拠として提出されることが多いのは、以下のようなものです。

    • ラブホテルや宿泊施設、マンション等に出入りする写真
    • メッセージや画像のやり取りのスクリーンショット
    • SNSやブログ等のスクリーンショット
    • 不貞相手との性行為を記録した画像・動画
    • クレジットカードやETCカード等の利用履歴
    • 領収書
    • 配偶者やその不貞相手とのやり取り、精神的苦痛を詳細につづった日記
    • 配偶者やその不貞相手による不貞行為の自白を記録した録音データ
    • 不貞行為により精神的苦痛を受けたことを証明する医師の診断書 等


    証拠収集の方法について疑問や不安がある方は、弁護士に相談しましょう。不貞行為の離婚トラブルに実績がある弁護士であれば、有効な証拠収集のアドバイスも行ってくれるでしょう。

4、離婚の進め方

  1. (1)離婚を考えたらまずやるべきこと

    離婚における、主なポイントは、お金と親権です。
    まず、財産分与ですが、原則として夫婦の共有財産を原則2分の1で分け合うことになります。これは相手が不貞行為をしていても同様です。また、財産分与の際に財産隠しをされないよう、夫婦の共有財産を洗い出しておくことが重要です。

    さらに、親権を獲得するにあたって、まず配偶者と養育費支払いの合意を取り付け、ひとり親世帯が受けられる公的支援制度を下調べし、実家の家族に相談して子育ての協力を求め、必要に応じて就職・転職活動を行いましょう。

    子どもの親権を希望する場合には、子どもを連れて別居することも有効になります。離婚時に子どもを実際に監護しているほうが、親権者として有利になる傾向があるからです。離婚を前提とする別居期間中の生活費は、婚姻費用分担請求の手続きにより、収入が多い方の配偶者に求めることができます。なぜなら、夫婦には離婚成立時まで扶助義務(民法第752条)があるからです。

  2. (2)協議離婚ができなければ調停離婚・裁判離婚へ

    離婚の手続きには、協議離婚・調停離婚・裁判離婚の3種類があります。まずは夫婦間の話し合いによる協議離婚から行うのが、一般的です。

    協議離婚で合意に達しない場合には、次に管轄の家庭裁判所での調停離婚で調停委員を介して話し合いを行い、それでも不成立となれば最終手段として裁判離婚を行うことになります。夫婦が合意すればどんな理由であっても離婚できます。

    ただし、民法第770条1項の法定離婚事由がないのにもかかわらず裁判で強制的に離婚することは認められません。そのため、不貞行為の証拠がなく、配偶者が離婚を強く拒否している場合には、裁判によっても離婚することが難しくなる可能性があります。

    協議離婚は弁護士なしでも行うことができますが、財産分与や慰謝料や養育費の支払いについて公正証書を作成する際には弁護士に依頼した方がスムーズでしょう。冷静な話し合いが難しい場合も、弁護士を介するメリットがあると言えます。離婚調停・裁判離婚では裁判所とのやり取りが生じますので、弁護士に依頼されることをおすすめします。

5、まとめ

不貞行為は、結婚している人が自由な意思に基づいて配偶者以外の人と肉体関係を持つことです。しかし肉体関係がなくても慰謝料の支払いが認められたケースもあります。慰謝料を請求する際に重要なのは、不貞行為があったこと、それにより精神的苦痛を受けたことの証拠です。

配偶者の不貞行為にお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所 奈良オフィスの弁護士にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています