仕事中の事故で家族が死亡したら│ご遺族が行うべき手続き

2023年05月18日
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仕事中の事故で家族が死亡したら│ご遺族が行うべき手続き

2022年に奈良県でも、死亡労災事故が発生しています。ご家族が、仕事中の事故などの労災によって亡くなった場合、ご遺族は労働基準監督署に労災保険給付を請求できます。

さらに、労災保険給付によって補償されない損害については、会社に対して損害賠償を請求できる可能性があります。労災の損害賠償請求を行う際には、弁護士への依頼をご検討ください。

今回は、労災で家族が死亡した場合に行うべき手続きとして、労災保険給付の請求と損害賠償請求についてベリーベスト法律事務所 奈良オフィスの弁護士が解説します。

出典:「令和4年 死亡災害発生状況」(奈良労働局)

1、仕事中の事故が労災に当たるケースとは?

仕事中または通勤中に労働者が死亡した場合、労災認定の対象となる可能性があります。

労災に該当するかどうかは、事故の客観的な状況によって決まります。会社側から「労災ではない」という趣旨の説明を受けたとしても、労災保険給付や損害賠償を受け取れる可能性はありますので、弁護士にご相談ください。

  1. (1)労災認定の要件

    労働者の死亡が「業務災害」または「通勤災害」の要件を満たす場合、労災認定の対象となります。

    <業務災害の要件>
    「業務遂行性」と「業務起因性」の2つの要件を満たすことが必要です。

    ① 業務遂行性
    使用者の支配下にある状態で事故が発生したことをいいます。

    ② 業務起因性
    会社の業務と労働者の死亡の間に、社会通念上相当な因果関係があることをいいます。


    <通勤災害の要件>
    以下の要件をすべて満たす必要があります。

    ① 以下のいずれかの移動中に発生したこと
    (a)住居と就業場所の間の移動
    (b)就業場所から他の就業場所への移動
    (c)単身赴任先住居と帰省先住居の間の移動

    ② 業務と密接な関連のある移動中に発生したこと
    原則として、移動の当日に就業する予定があったか、または現実に就業したことが必要です。
    ただし、単身赴任先住居と帰省先住居の間の移動に限り、就業日の前日・翌日の移動も対象となります。

    ③ 合理的な経路・方法による移動中に発生したこと
    不必要に遠回りや寄り道をした場合、通勤災害の対象外となります。

    ④ 移動が業務の性質を有しないこと
    出張中の移動など、移動そのものが業務の一環である場合、通勤災害ではなく業務災害の対象となります。
  2. (2)労災に該当するケースの例

    たとえば以下の死亡事故は、労災認定の対象となる可能性が高いでしょう。

    (例)
    <業務災害>
    • 工事現場での高所作業中に、転落して死亡した。
    • 工場の機械の操作を誤り、巻き込まれて死亡した。
    • 長時間労働が原因で、心臓発作を発症して死亡した。
    • 職場で悪質なハラスメントを受けた結果、うつ病を発症して自ら命を絶った。

    <通勤災害>
    • いつものルートで通勤中に、交通事故に遭って死亡した。
  3. (3)労災に該当しないケースの例

    これに対して以下の死亡事故(事件)は、労災認定の対象にならない可能性が高いと思われます。

    (例)
    • 休憩時間中にコンビニへ買い物に行った際、車に撥ねられて死亡した。
    • 個人的な恨みが原因で、会社の同僚に殺害された。
    • 退勤して自宅へ向かったが、食事のためにレストランへ寄り道した。その後再び自宅へ向かっている最中に、交通事故に遭って死亡した。

2、家族が労災で亡くなった場合の給付金・請求方法

労災によって家族が死亡した場合、労働基準監督署への請求等によって、各種の労災保険給付を受給できます。

  1. (1)遺族が受け取れる労災保険給付の種類

    死亡した被災労働者の遺族は、以下の労災保険給付を受給できます。

    ① 療養(補償)給付
    労災によって発生した治療費や入院費などの全額が補償されます。

    労災病院または労災保険指定医療機関では、労災に関する治療等を無償で受けられます(療養の給付)。
    それ以外の医療機関では、治療費等を被災労働者(または遺族)が立て替えた後、労働基準監督署への請求によって全額の還付を受けられます(療養の費用の支給)。
    参考:「療養(補償)等給付の請求手続」(厚生労働省)

    ② 休業(補償)給付
    労災を原因とする休業期間があった場合、休業4日目から平均賃金の計80%が補償されます。
    参考:「休業(補償)等給付 傷病(補償)等年金の請求手続」(厚生労働省)

    ③ 遺族(補償)給付
    被災労働者の遺族の生活を保障する目的で給付されます。

    遺族数に応じて毎年支給される「遺族(補償)等年金」と「遺族特別年金」、一律300万円が一括で支給される「遺族特別支給金」の3つがあります。
    遺族(補償)等年金については、1回に限り前払いを請求できます(給付基礎日額の200日分・400日分・600日分・800日分・1000日分から選択)。

    遺族(補償)給付の受給資格者は、被災労働者の死亡当時、その収入によって生計を維持されていた配偶者・子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹です。
    ただし、妻以外の遺族については、被災労働者の死亡当時に一定の高齢または年少であるか、または一定の障害の状態にあることが必要とされています。
    また、遺族(補償)給付を受給できるのは、受給権者のうち最上位の者のみです。
    参考:「遺族(補償)等給付 葬祭料等(葬祭給付)の請求手続」(厚生労働省)

    ④ 葬祭料・葬祭給付
    被災労働者の葬儀費用を補填する目的で給付されます。
    葬祭料・葬祭給付の金額は、「31万5000円+給付基礎日額の30日分」または「給付基礎日額の60日分」のいずれか多い方です。
    参考:「遺族(補償)等給付 葬祭料等(葬祭給付)の請求手続」(厚生労働省)
  2. (2)労災保険給付の請求方法

    労災保険給付は、以下の方法によって請求します。

    ① 療養の給付
    治療等を受けた労災病院または労災保険指定医療機関の窓口で手続きを行います。

    ② ①以外の労災保険給付
    事業場の所在地を管轄する労働基準監督署に対して請求します。

    請求書の様式は、厚生労働省のウェブサイトでダウンロードできるほか、労働基準監督署の窓口でも交付を受けられます。労災保険給付の種類によって、使用すべき様式が異なる点にご注意ください。
    参考:「労災保険給付関係請求書等ダウンロード」(厚生労働省)

3、労災は会社に対する損害賠償請求も可能

労災保険給付は、死亡した被災労働者や遺族に生じた損害全額を補填するものではありません。

労災保険給付が損害額に不足する分については、会社に対する損害賠償請求をご検討ください。

  1. (1)労災保険給付では補償されない損害がある

    死亡した被災労働者や遺族の精神的損害に対応する慰謝料については、労災保険給付の対象外とされています。

    治療費等は全額補償されますが、休業損害や死亡逸失利益については、具体的な事情にかかわらず画一的な基準によって支給されるため、労災保険給付が実際の損害額に及ばないケースが大半です。

    しかし、労災保険給付はあくまでも、本来会社が負うべき損害賠償責任の一部をカバーするものに過ぎません。したがって、労災保険給付が実際の損害額に及ばない場合、不足分を会社に請求できる可能性があります。

  2. (2)会社から損害賠償を受けるための要件

    被災労働者や遺族に対して、会社が損害賠償責任を負うのは、「安全配慮義務違反」または「使用者責任」の要件を満たす場合です。

    ① 安全配慮義務違反(労働契約法第5条)
    労働者が生命・身体等の安全を確保しつつ労働できるように、会社が必要な配慮を怠った結果として労災が発生した場合、会社は被災労働者や遺族に対して、安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任を負います。

    工事現場や工場における安全対策のほか、長時間労働の抑止策やハラスメント防止対策を怠った場合などにも、安全配慮義務違反が認定される可能性があります。

    ② 使用者責任(民法第715条第1項)
    他の従業員の故意・過失行為によって労災が発生した場合、会社も原則として、被災労働者や遺族に対し、使用者責任に基づく損害賠償責任を負います。

    会社が当該従業員の選任・監督について相当の注意をしたとき、または相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは免責されますが、使用者責任が免責されるケースは非常に稀です。

4、労災の損害賠償請求は弁護士にご相談を

労災事故によって死亡した被災労働者のご遺族が、会社に対して損害賠償を請求する際には、弁護士へのご相談をおすすめします。

弁護士は、示談交渉・労働審判の申立て・訴訟の提起などを通じて、被災労働者のご遺族が適正な損害賠償を得られるようにサポートいたします。

弁護士を通じて法的に根拠のある請求を行えば、損害賠償の増額を期待できます。また、ご心情にも配慮した親身な対応により、精神的なご負担も幾分軽減できるように尽力いたします。

労災死亡事故の損害賠償請求は、お早めに弁護士へご相談ください。

5、まとめ

会社の業務が原因で、または通勤中に労働者が死亡した場合、遺族は労災保険給付や損害賠償を請求できます。労災保険給付だけでは損害全額の補填に至らないケースが多いので、会社に対する損害賠償請求も併せてご検討ください。

ベリーベスト法律事務所は、労災の損害賠償請求に関するご相談を随時受け付けております。ご家族が労災によって亡くなり、会社に対する損害賠償請求をご検討中の方は、ベリーベスト法律事務所 奈良オフィスにご相談ください。

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