年齢切迫の少年事件│逆送の回避は可能? 少年法改正による影響は?
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奈良県警察が公表している「少年非行の概況」によると、令和2年中に刑法犯・特別法犯として検挙または補導された非行少年の総数は293人でした。
罪種で多いのが万引きなどの窃盗犯で全体の60%、学識別では高校生がもっとも多い41%、再犯率は前年比で3.1ポイント増加しています。また、凶悪犯や薬物事犯での検挙もありました。
少年が犯罪にあたる非行をしても、原則として刑罰が下されることはありません。では、もうすぐ成年を迎えるという直前で非行があった場合は、どのような扱いを受けるのでしょうか。令和4年4月からは改正民法が施行され、成年年齢が引き下げられました。
本コラムでは、成年を目前にした(年齢切迫)少年が事件を起こした場合の扱いや最新の法改正による影響について、ベリーベスト法律事務所 奈良オフィスの弁護士が解説します。
(参考:少年非行の概況(令和2年中)奈良県警察)
1、少年事件における「年齢切迫」とは?
少年法第2条では、20歳に満たない者を「少年」と呼ぶと定義されています。
そして、少年が成人する直前の状況にあることを「年齢切迫」といい、一般的な少年事件とは異なった扱いを受けます。
成人が事件を起こすと刑事裁判において裁判官の審理を受けたうえで刑罰が下されますが、少年事件では更生を目指した保護処分を受けます。
このような事情から、少年が20歳を迎えるまでに少年として処分を受けるか、それとも成人として刑事責任を追及されるのかはきわめて重要な問題だといえます。
なお、一般的に少年といえば男児を指し、女児を少女と呼びますが、少年法における少年に男女の区別はありません。
2、少年法における年齢の区分
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(1)現行の少年法における少年の区分
少年法第3条では、審判に付すべき少年として、少年を3つに区分しています。
- 犯罪少年……罪を犯した14歳以上20歳未満の少年
- 触法少年……14歳未満で刑罰法令に触れる行為をした少年
- ぐ犯少年……性格や環境に照らして、将来罪を犯し、または刑罰法令に触れる行為をするおそれのある少年
なお、20歳以上の者は「成人」と呼びます。
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(2)刑法における少年の扱い
刑法は、少年法のように「少年」を定義・区別していません。
ただし、第41条において「14歳に満たない者の行為は罰しない」と規定されており、少年法上の触法少年にあたる場合は刑事責任を問わないことが明記されています。
3、少年事件の流れ
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(1)一般的な少年事件の流れ
14歳以上の少年が罪を犯した場合は、以下の流れで事件が進みます。
- ① 警察の捜査
- ② 検察官送致
- ③ 家庭裁判所へ送致
- ④ 家庭裁判所の調査・審判
- ⑤ 処分
まず、成人と同じように警察の捜査を受けます。逃亡や証拠隠滅のおそれがある場合は逮捕されるという点も同じです。
警察の捜査を終えると、事件は検察官へと引き継がれます。これを検察官送致といいます。
成人事件では検察官による捜査が尽くされたうえで起訴・不起訴が決定しますが、少年事件では検察官による捜査を終えるとすべての事件が家庭裁判所へと送致されます。これを、全件送致主義といいます。
家庭裁判所では、検察官の捜査結果を参考にしながら調査がおこなわれ、調査の結果によって審判が開かれます。成人でいえば刑事裁判にあたる段階です。
審判の結果によって、少年院送致・保護観察・児童自立支援施設または児童養護施設送致といった保護処分を受けたり、成人事件でいう不起訴にあたる不処分が下されたりします。 -
(2)殺人など重大事件の場合
死刑・懲役・禁錮にあたる、いわゆる重罪となりうる事件を起こした14歳以上の少年については、調査結果に照らして「成人と同様の刑事処分が適当」と判断される可能性があります。その場合、家庭裁判所からさらに検察官へと送致されます。
また、16歳以上の少年が故意の犯罪によって被害者を死亡させた場合は、原則として必ず検察官へと送致しなくてはなりません。
検察官から送致された事件が家庭裁判所からさらに検察官へと戻されることから、これを、逆送(逆送致)と呼びます。
4、年齢切迫事件における逆送の扱い
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(1)捜査・調査段階で成人になる場合は逆送される
家庭裁判所が審判結果を決定するまでに被疑少年が成人してしまった場合は、少年事件としての扱いを受けず、成人事件として検察官へと逆送されます。
警察において逮捕された事件では逮捕から審判までにおよそ2か月、任意の在宅事件ではそれ以上の時間がかかるのが一般的です。
したがって、下記のケースでは逆送される恐れが高くなります。- 警察・検察官による捜査の段階で成人してしまうのが確実なケース
- 家庭裁判所における調査や審判の段階で成人してしまうケース
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(2)少年法改正による逆送対象の拡大
令和4(2022)年4月1日から改正民法が施行され、これまでは20歳と定められていた成年年齢が18歳へと引き下げられます。
この段階で18歳以上20歳未満である者は、同日をもって民法上では成年として扱われることになるわけです。
民法改正による成年年齢の引き下げを受けて、少年法も同様に「少年」としての扱いを18歳未満とするのかが議論されてきましたが、令和3年5月に、改正民法の施行とあわせて改正少年法を施行することが国会で可決・成立しました。
改正少年法では、従来どおり20歳未満を少年としたうえで、18歳・19歳の少年を「特定少年」とし、特例規定が設けられます。
罰則が1年以上の懲役・禁錮にあたる罪を犯した特定少年による事件は、原則として検察官へと逆送されることになりました。1年以上の懲役・禁錮が規定されている犯罪としては、強盗罪や強制性交等罪などが挙げられます。
従来の少年法では、原則として刑事処分相当とする基準を16歳以上の少年が故意の犯罪によって被害者を死亡させて事件のみに限定していたので、実質的に厳罰化されたといえるでしょう。
ただし、民法上の成年年齢が18歳に引き下げられたからといって、18歳以上の特定少年も成人と同じ刑事手続きを受けるというわけではありません。
法的には成年に達しているといっても、18歳・19歳はいまだ成長途上にあり更生の可能性が高いため、いったんは家庭裁判所に全件送致し、家庭裁判所の調査・審判に付するとする制度に変更はありません。
5、年齢切迫の少年事件なら弁護士のサポートは必須
年齢切迫の少年事件において、成人するまでに少年審判による処分を受けるのか、逆送されて刑事裁判を受けるのかの差は重大です。
刑事裁判において有罪判決が下されれば前科がついてしまうので、資格制限が設けられている職業に就くことができないなどの不利益が生じてしまいます。
逆送によって刑罰・前科を受ける事態を回避するには、弁護士のサポートが欠かせません。
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(1)逆送の回避をサポートできる
警察・検察官による捜査や家庭裁判所による調査の段階で確実に成人してしまうほど切迫している事件では、逆送は避けられません。
ただし「成人まであと数か月」といった猶予がある場合は、弁護士が捜査機関や家庭裁判所に手続きを急ぐようはたらきかけることで逆送を回避できる可能性があります。
とくに、身柄拘束の時間的な制約を受けない在宅事件の場合は、警察の段階で捜査に時間がかかり過ぎて少年であるうちに送致されず逆送されてしまうケースが少なくありません。警察の捜査を受けている早い段階で弁護士に相談・依頼すれば、少年自身の更生のためにも送致を急ぐようはたらきかけることで、逆送されてしまう事態の回避が期待できます。 -
(2)処分の軽減に向けたサポートが得られる
年齢切迫事件の場合は、検察官へと逆送されてしまい刑事裁判によって審理される事態に発展するおそれが高まります。
刑事裁判では、最終回となる結審の日に有罪・無罪の別が言い渡され、有罪の場合は法定刑の範囲内で懲役・禁錮・罰金といった量刑が下されます。厳しい刑罰となってしまうと、少年、あるいは成人したとはいえまだ未成熟な者の将来を閉ざしてしまう危険もあるでしょう。
また、年齢切迫だからといって、むやみに逆送を回避するだけが最善策とはいえません。
逆送されて刑事裁判になれば執行猶予が期待できるケースなのに、少年審判によって少年院送致を受けてしまえば、結果的に社会から隔離される期間が長くなってしまいます。
年齢切迫事件では、逆送を回避して少年審判による処分を受けるべきなのか、反対に逆送されたうえで刑罰の軽減を目指すべきなのかを判断しなくてはならないケースも少なくありません。
非常に難しい問題なので、少年事件・刑事事件の解決実績が豊富な弁護士に相談のうえで適切なサポートを受けることをおすすめします。
6、まとめ
罪を犯した時点では未成年の少年であっても、警察・検察官による捜査や家庭裁判所の調査・審判の期間に成人してしまうおそれがある状態を「年齢切迫」と呼びます。
年齢切迫の少年事件では、検察官に逆送されて刑事裁判による刑罰を受けるおそれが高いため、逆送を回避するための弁護活動が欠かせません。
また、少年審判による処分を受けたほうが逆送されるよりも不利にはたらくケースも存在するため、少年自身はもちろん、保護者の方にとっても判断は容易ではないでしょう。
年齢切迫の少年事件で処分の軽減を期待するなら、少年事件・刑事事件の解決実績が豊富な弁護士のサポートは必須です。できる限り早い段階で弁護士のサポートを得たほうが有利な結果が期待できるので、年齢切迫の少年事件にお困りであれば、ただちにベリーベスト法律事務所 奈良オフィスへご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています