逆送致とは? 回避の対策や法改正による厳罰化の可能性について解説

2021年09月21日
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逆送致とは? 回避の対策や法改正による厳罰化の可能性について解説

昨今、少年による凶悪な犯罪がニュースで取り上げられることは珍しくなくなりました。そのため、「逆送致」や「逆送」という言葉を耳にしたことがある人も増えてきたのではないでしょうか。

今回は、逆送致とは何か、逆送致回避の対策などについてベリーベスト法律事務所 奈良オフィスの弁護士が解説します。

1、逆送致(検察官送致)とは

少年事件における逆送致(検察官送致)とは、どのようなことをいうのでしょうか。また、どのようなケースで逆送致がなされるのでしょうか。以下では、逆送致についての基本的知識を説明します。

  1. (1)逆送致(検察官送致)とは何か?

    少年法は、少年の健全な成長を期し、非行のある少年に対して保護処分を行うことを目的としています(少年法1条)。そして、検察官は、犯罪の嫌疑のある少年の被疑事件について、家庭裁判所に送致しなければならないと定めています(少年法42条)。これを“全件送致主義”といいます。

    しかし、送致後、家庭裁判所が事件を家庭裁判所から検察官に送致する(送り返す)ことがあります。(少年法20条1項)。

    この家庭裁判所から検察官への送致が、いわば逆向きの送致であることから、通称“逆送致(逆送)”と呼ばれています

  2. (2)どのようなケースが逆送致(検察官送致)になるのか

    逆送致の要件については、少年法に規定されており、少年法上、以下の2つの場合に分けられます。

    ① 年齢超過の場合
    調査または審判の結果、本人が20歳以上であることが判明したときには、年齢超過を理由として逆送致がなされます(少年法19条2項、23条3項)。少年が20歳以上かどうかは、罪を犯した“行為時”ではなく、“調査・審判時”の年齢が基準になります。間もなく20歳になる少年は、“年齢切迫少年”と呼ばれ、審判までに20歳になると自動的に逆送致されてしまいます。

    ② 刑事処分相当と判断された場合
    死刑、懲役、禁錮が法定刑にある罪の事件で、家庭裁判所が、その罪質および情状に照らして刑事処分を相当と認めるときには、逆送致がなされます(少年法20条1項、23条1項)。

    また、平成12年の少年法改正によって、行為時16歳以上の少年が故意の犯罪行為によって被害者を死亡させた罪の事件については、原則として逆送致することとされました(少年法20条2項、23条1項)。

    ただし、「調査の結果、犯行の動機および態様、犯行後の情況、少年の性格、年齢、行状および環境その他の事情を考慮し、刑事処分以外の措置を相当と認めるとき」は、逆送しないとされています

  3. (3)逆送致の流れ

    家庭裁判所の少年審判の結果、逆送致の決定がされた場合には、その後は、以下のような流れで手続きが進んでいきます。

    ① 検察官による捜査
    年齢超過による逆送致と刑事処分相当による逆送致のどちらであっても、事件が検察官に逆送致されると、原則として、成人の刑事事件と同様に扱われます。

    逆送致後は、少年鑑別所への観護措置は、裁判官のした勾留とみなされ、引き続き身体拘束が継続することになります。これを“みなし勾留”といいます。みなし勾留の期間は、検察官が送致を受けた日から起算して10日間です(少年法45条4号前段)。

    必要に応じてさらに10日間の勾留延長がなされることもありますが、家裁送致前の捜査段階で勾留状が発せられた事件については、みなし勾留の延長をすることはできません(少年法45条4号後段)。

    ② 起訴
    20歳以上の年齢超過が理由で逆送致された場合、成人の刑事事件と同様に、起訴をするかどうかは検察官の判断に委ねられることになります(少年法45条の2及び同45条5号参照)。

    しかし、刑事処分相当による逆送致の場合には、家庭裁判所の刑事処分相当との判断を踏まえて、起訴便宜主義は制限を受けることになります。その結果、検察官は、逆送致を受けた事件について、刑事裁判を起こすに十分な犯罪嫌疑があると判断するときには、起訴が強制されることになります(少年法45条5号本文)。

2、法改正で逆送致の対象が拡大される?

成人年齢が20歳から18歳に引き下げられることを受けて、家庭裁判所から検察官に逆送致される事件を拡大する動きがあります。以下では、逆送致事件の現状と少年法改正の動向について説明します。

  1. (1)逆送事件の現状

    令和2年版犯罪白書では、令和元年における逆送事件の検察庁処理人員を公表しています。それによると、令和元年に逆送致となった事件の総数は、1689件あり、そのうち1653件が起訴されています。

    逆送致となった事件のうち約98%が起訴されていることからすると、家庭裁判所での逆送致決定がなされた場合には、ほとんどのケースで成人と同様に刑事裁判によって処分が決められることになります

    また、逆送致となった事件のうち1529件が道路交通法違反の事件でした。全体の約90%の事件が道路交通法違反であることからすると、逆送致事件に占める道路交通法違反の割合が非常に高いことが少年事件の特徴であるともいえます。

  2. (2)逆送致の対象拡大の可能性

    令和3年5月21日、少年法等の一部改正案が成立し、令和4年4月1日から施行されることが決定しました。

    同改正案では、少年法の適用年齢自体の引き下げは行わず、全件家裁送致という仕組みは維持されることになります。

    しかし、18歳および19歳の少年を“特定少年”と位置付けて、特定少年についても家庭裁判所から原則、検察官に逆送致される対象に含まれることになります。また、特定少年については、強盗や強制性交など法定刑の下限が1年以上の懲役または禁錮にあたる罪についても、逆送致の対象に含まれます(改正少年法62条2項)。

3、逆送致を防ぐためすべきこと

法定刑が罰金刑以下の犯罪以外の犯罪を行った場合には、逆送致の可能性があります。適切な弁護活動を行わなければ、逆送致となってしまうこともありますので、なるべく早期に弁護士に相談をすることをおすすめします。

  1. (1)被害者との間で示談を行う

    少年事件の場合には、家庭環境などの環境調整が重要であるともいわれていますが、被害者との間で示談が成立しているかどうかも処分の決定にあたっては考慮される事情となります。

    ただし、加害者である少年の親が被害者と示談交渉を行うことは、心情的に被害者が受け入れがたい部分もあり、スムーズに進めることができない場合があります。

    被害者との示談交渉は、弁護士が代理人として対応にあたることによって、被害者の心情にも配慮した適切な交渉を行うことが可能になります。

  2. (2)保護処分の妥当性を主張

    未成年の子どもに対しては、刑罰ではなく社会での適切な処遇によって更生を図ることが適切であるといえます。

    弁護士は、家庭裁判所の裁判官に対して、少年には刑事処分ではなく保護処分が適切である意見書を提出し、裁判官と家庭裁判所調査官の面談において説得的に保護処分が適切であることを伝えることによって、逆送致回避に向けた活動を行うことができます

    その他にも、逆送致回避に向けてさまざまなサポートをすることができますので、まずは弁護士に相談をするようにしましょう。また、弁護士を選ぶ際には少年事件の実績のある弁護士を選ぶようにしましょう。

4、逆送致が決定したらどうすべきか?

逆送致回避に向けて活動してきたものの、残念ながら逆送致の決定が下されることもあります。逆送致が決定した場合には、どのように対応すべきなのでしょうか。

  1. (1)逆送致決定には不服申し立てができない

    逆送致決定に対する抗告などの不服申し立てを認める規定は存在しないこと、逆送致決定は実体的な不利益が伴っていないことから、逆送致決定に対する不服申し立ては認められません。

    逆送致が決定した場合には、逆送致自体を争うのではなく、不起訴処分に向けた活動や起訴後の家庭裁判所への移送に向けた活動をしていくことになります。

  2. (2)不起訴処分に向けた活動

    刑事処分相当を理由に逆送致となった場合には、検察官は原則として起訴を強制されます。しかし、例外的に以下のような事情がある場合には、不起訴処分になる可能性もあります。

    1. ① 送致を受けた複数の事件のうち一部について公訴提起に足りる犯罪の嫌疑が認められないとき
    2. ② 犯罪の情状などに影響を及ぼすべき新たな事情を発見したため訴追を相当でないと思料するとき
    3. ③ 送致後の情況により訴追を相当でないと思料するとき


    これらの事情がある場合には、家庭裁判所に再送致されることになります(少年法42条1項)。

  3. (3)起訴後の家庭裁判所への移送に向けた活動

    検察官による起訴がなされた後でも、刑事裁判所が事実審理の結果、少年被告人を保護処分に付するのが相当であると認めるときには、事件を家庭裁判所に移送する決定をしなければならないとされています(少年法55条)。

    弁護士としては、刑事裁判において、刑事手続きで科されることが見込まれる刑罰よりも、移送後の保護手続きで見込まれる処分の方が少年の更生に有効であること、刑罰ではなく保護処分を選択することが社会的に許容されることを具体的に主張していくことによって、家庭裁判所への移送を求めていくことになります

5、まとめ

少年であっても一定の要件を満たす場合には、逆送致によって成人と同様に刑事裁判を受けることになります。しかし、未成熟である子どもに対して刑事罰を科すことは、必ずしも子どもの更生につながるとは限りません。

適切な更生をサポートするためにも、まずは、弁護士に相談をするようにしましょう。自分の子どもが罪を犯してしまった場合は、まずは早めにベリーベスト法律事務所 奈良オフィスまでご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています