暴行・脅迫に該当するケースとは|科される刑罰についても解説
- 暴力事件
- 暴行
- 脅迫
令和4年、奈良県に住む男性が言いがかりをつけられて、暴行や脅迫を受けたうえで現金などを奪われた事件で、奈良県警は大阪府内の男4人を逮捕しました。逮捕の容疑は「恐喝罪」です。
この事例における加害者の行為を分解してみると、顔面を殴るなどの暴行や「どうやって落とし前をつけるんだ」といった脅迫、さらにお金を脅し取る行為も存在することになりますが、逮捕の理由になっているのは恐喝罪でした。
こうやって事例を分解して考えたとき、暴行・脅迫とはどのような行為でどんな罪になるのか、同時に成立することはあるのか、暴行や脅迫ではなくほかの罪になることもあるのかなど、さまざまな疑問が浮かぶでしょう。
本コラムでは「暴行」や「脅迫」によって問われる罪や両者の違い、同時に成立したり別の犯罪が成立したりといったケースの考え方などを、ベリーベスト法律事務所 奈良オフィスの弁護士が解説します。
1、「暴行」と「脅迫」の違い
刑法にはさまざまな犯罪が規定されていますが、条文のなかには「暴行」「脅迫」という用語がたびたび登場します。
まずは「暴行」と「脅迫」の違いを、法的な角度から確認していきましょう。
-
(1)暴行とは
暴行とは「人の身体に対する不法な有形力の行使」を指します。単純には「暴力をふるうこと」と解釈しておけば間違いないでしょう。
一般的に「暴力」といえば物理的な暴力のほかにも「言葉の暴力」や「精神的な暴力」といった用法もありますが、これらは実体のない無形力であり、刑法が考える暴行にはあたりません。
また、学説のうえで争いがありますが、人の身体に対する不法な有形力であれば、身体への接触は要しないとするのが通説です。この考え方は、近年増加して注目された「あおり運転」に対する取り締まりの法令適用で注目されました。
令和2年に道路交通法が改正されて妨害運転罪が創設されるまでは、後方から車間距離を極端に狭める行為や幅寄せなどの行為が「不法な有形力の行使」として暴行罪が適用されていたという経緯があります。
暴行にあたる行為があり、相手を負傷させていない場合は、刑法第208条の「暴行罪」による処罰の対象です。 -
(2)脅迫とは
脅迫とは「生命・身体・自由・名誉・財産に対して危害を加える旨を告げること」です。
これを法学のうえでは「害悪の告知」といいます。
暴行は「有形力」を指すものでしたが、脅迫は実体のない「無形力」による行為だという点で両者を区別できるでしょう。
こちらも一般的な用法に置き換えると「脅す」という用語と同じ意味になりますが、とくに刑法第222条の「脅迫罪」については、一般人を畏怖させる程度の強度が必要です。
これは、そのような脅しを受けると誰でも「怖い」と感じる程度を指します。すると「言うとおりにしないとお前の頭に雷を落とすぞ」という文句は、思いどおりに雷を落とす力をもつ人など存在せず誰も怖がるはずもないので、脅迫とはいえません。
2、暴行・脅迫にあたる行為の具体例
暴行・脅迫にあたる具体的な行為の例や、同じ機会に暴行と脅迫が同時におこなわれた場合などの考え方をみていきましょう。
-
(1)暴行にあたる行為
暴行にあたる最も典型的な行為は「殴る」「蹴る」といった暴力行為ですが、実はこれらの行為のほかにも暴行にあたるものがあります。
- 胸ぐらをつかむ
- 強く引っ張る、勢いよく押す
- 柔道の技などで投げたり倒したりする
- 首を絞めたり、関節を逆方向に曲げたりする
- 髪の毛を引っ張ったり、切ったりする
これらの行為は、有形力を向けられた相手が負傷するおそれのある行為なので、暴行としての責任を免れられません。
また、一般的には暴力行為とはいえなくても、法律の考え方に照らすと暴行になるものもあります。- 服の袖口を強く引っ張る
- 耳元で大きな音を連続で鳴らす
- 人に向かって勢いよく放水したり、危険な薬剤をふりかけたりする
さらに、次に挙げるような行為は、身体への接触がなくても暴行にあたると考えられています。
- 足元をめがけて石をなげつける
- 狭い室内で竹刀や刃物を振り回す
このように、暴行といえる行為の範囲は非常に広く、意外な行為が暴行と評価されることもあります。
-
(2)脅迫にあたる行為
脅迫にあたるのは、生命・身体・自由・名誉・財産に対する害悪の告知です。
- 「黙らないと殺す」と脅す(生命への危害)
- 「言うとおりにしないと痛い目に遭うぞ」と脅す(身体への危害)
- 「俺の許しもなく家に帰られると思うな」と脅す(自由への危害)
- 「不倫を会社にバラすぞ」と脅す(名誉への危害)
- 「家に火を放つぞ」と脅す(財産への危害)
なお、刑法が定める脅迫罪では、本人だけでなく、親族に向けた害悪の告知も処罰の対象です。
たとえば「子どもを誘拐するぞ」「実家の親も無事では済まさないぞ」といった脅しは、脅迫罪の責任を問われます。一方で、親族に含まれない対象者に向けた害悪の告知では、脅迫罪が成立しません。
たとえば、次のような脅し文句は脅迫罪の対象外です。- 「恋人も同じ目に遭わせてやる」と脅す
- 「お前の教え子もみんな痛い目に遭わせるぞ」と脅す
- 「会社の同僚たちの安全は保障しない」と脅す
脅し文句を向けられた本人にとって「それは困る」と感じる内容でも、法律に照らすと脅迫罪にはあたらないことがあるという点は心得ておくべきでしょう。
-
(3)暴行と脅迫がセットになりひとつの犯罪として成立する場合
トラブルの場では、暴行にあたる行為と脅迫にあたる行為の両方が同時におこなわれるケースも少なくありません。
すると、暴力行為には暴行罪が、脅しには脅迫罪がそれぞれ適用されると考えがちですが、同じ機会におこなわれた暴行の内容と脅迫の内容が同質であれば、ひとつの犯罪として評価されます。- 「言うことをきかないと殴るぞ」と脅したうえで顔面を殴った
- 顔を殴り「もっと殴ってもいいんだぞ」と脅した
これらは、暴行も脅迫も「殴る」という同質の内容なので、行為全体をひとまとめにして考えます。
このように、犯罪の数を考えるうえで、複数の罪が存在するもののひとつの罪としてまとめることを「科刑上一罪」といいます。科刑上一罪にあたる犯罪は、刑法第54条1項の規定によって「その最も重い刑により処断する」とされており、この場合は刑罰が重い暴行罪が脅迫罪を吸収します。 -
(4)暴行と脅迫が個別に成立する場合
同一の機会でも、暴行と脅迫の内容が同質でない場合は、両罪を切り分けて考えます。
- 「家に火をつけるぞ」と脅したうえで顔面を殴った
- 顔面を殴ったところ相手が抵抗してきたので「抵抗をやめないと不倫をばらすぞ」と脅した
これらは、財産への危害を告げたうえで暴力をふるった、暴力をふるったうえで名誉に対する危害を告げたというかたちになり、暴行と脅迫の内容の質が異なります。
この場合は、暴力行為には暴行罪が、脅しには脅迫罪が、それぞれ個別の犯罪として成立します。 -
(5)別の犯罪が成立する場合
刑法に定められている犯罪のなかには、暴行や脅迫が手段となる別の犯罪が存在しています。
- 公務執行妨害罪:刑法第95条
公務員が職務を執行するにあたり、これに対して暴行・脅迫を加えた場合 - 強制わいせつ罪:刑法第176条
13歳以上の者に対して、暴行・脅迫を用いてわいせつな行為をした場合 - 強制性交等罪:刑法第177条
13歳以上の者に対して、暴行・脅迫を用いて性交・肛門性交・口腔性交をした場合 - 強要罪:刑法第223条
暴行・脅迫を用いて、人に義務のないことをさせたり、人の権利行使を妨害したりした場合 - 強盗罪:刑法第236条
暴行・脅迫を用いて他人の財物を強取した場合 - 事後強盗罪:刑法第238条
窃盗が財物を得てこれを取り返されることを防ぎ、逮捕を免れ、罪跡を隠滅するために、暴行・脅迫をした場合 - 恐喝罪:刑法第249条
暴行・脅迫を用いて相手を畏怖させたうえで財物を交付させた場合
ここで挙げた犯罪は、すべて暴行・脅迫が手段となりますが、暴行・脅迫を個別に問わずひとつの犯罪として扱います。
- 公務執行妨害罪:刑法第95条
3、暴行・脅迫に科せられる刑罰
暴行・脅迫に科せられる刑罰の重さを確認しておきましょう。
-
(1)暴行罪の刑罰
暴行罪には、2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料が科せられます。
拘留は30日未満の刑事施設への収容、科料は1万円未満の金銭徴収で、日本の法律で定められている刑罰のなかでも最も軽いものです。 -
(2)脅迫罪の刑罰
脅迫罪には、2年以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられます。暴行罪と比較すると、懲役・罰金の重さは同じですが、暴行罪では拘留・科料が選択される余地があるという点に差があります。
-
(3)両方が同時に成立した場合の刑罰
暴行・脅迫がどちらも成立する場合の刑罰には、2とおりの考え方があります。
まず、暴行と脅迫がセットとなりひとつの犯罪として処罰される場合は「その最も重い刑により処断」されます。暴行罪と脅迫罪は懲役・罰金の上限の面で刑の重さが同じです。
ただし、暴行罪には拘留・科料が予定されており、刑法第53条1項の「拘留または科料とほかの刑とは併科する」という規定に従い、刑の上限が拘留・科料の分だけ加算される可能性があるので、暴行罪のほうが重くなります。
もっとも、拘留・科料が科せられるケースはごくまれなので、現実として刑罰が重くなることはほとんどありません。
次に、暴行と脅迫が個別に成立する場合です。このケースでは、両罪が「併合罪」の関係となり、懲役は最も重いひとつの罪の上限が1.5倍に、罰金はそれぞれの上限の合計額以下に、それぞれ加重されます。
懲役はいずれも2年なので上限は1.5倍の3年、罰金はいずれも30万円なので上限は30万円+30万円=60万円です。すると、3年以下の懲役または60万円以下の罰金の範囲で刑罰が科せられることになり、ひとつの犯罪として処罰されるケースと比べると刑が重くなります。
4、暴行・脅迫の容疑をかけられたら今すぐ弁護士に相談
他人に暴力をふるったり、脅したりした場合は、刑事事件に発展してしまうおそれがあります。その場で逮捕されなくても、後日、警察署に出頭を求められるかもしれません。
暴行・脅迫にあたる行為があり逮捕や刑罰に不安を感じている、すでに警察からの出頭要請を受けておりどのように対応すればよいのか分からないなどの悩みがあるなら、今すぐ弁護士に相談しましょう。
-
(1)被害者との示談交渉による解決が期待できる
弁護士に相談すれば、被害者との示談交渉による解決が期待できます。
被害者に謝罪したうえで慰謝料を含めた示談金を支払うことで許しを得れば、刑事事件への発展を回避できる可能性が高いでしょう。
ただし、暴行・脅迫の被害者は加害者に対して怒りや恐怖を感じているケースが多く、本人同士の話し合いには応じてもらえないかもしれません。示談に応じるよう何度も嘆願していると、さらに被害者が「脅されている」と感じてしまうおそれもあるので、弁護士を代理人として交渉を進めたほうが安全です。 -
(2)早期釈放を目指した弁護活動が期待できる
警察に逮捕されてしまうと、警察・検察官の段階で72時間以内の身柄拘束を受けます。
さらに、検察官の請求で勾留が決定してしまうと、さらに最大20日間の身柄拘束が続き、自宅へは帰してもらえません。社会から隔離された状態が続くので、事件のあとの生活にも悪影響を及ぼすおそれもあるでしょう。
弁護士に依頼すれば、示談成立による捜査の終結や捜査機関へのはたらきかけによる早期釈放が期待できます。事件が終結した後の社会復帰を円滑にするためにも、弁護士にサポートを依頼して早期釈放を目指すのが賢明です。 -
(3)処分の軽減を目指した弁護活動も期待できる
暴行・脅迫にあたる行為には厳しい刑罰が予定されています。ただし、罪を犯せばかならず刑罰を科せられるというわけではありません。検察官が「不起訴」を選択すれば刑事裁判が開かれないので、刑罰を受けないまま事件が終結します。
また、懲役に執行猶予が付されれば、ただちには刑務所へと収監されず、社会生活を通じて更生するチャンスが与えられます。
不起訴や執行猶予といった加害者にとって有利な処分を得るためにも、弁護士のサポートは欠かせません。弁護士が検察官や裁判官に対して、被害者との示談結果や加害者本人が深く反省している状況を示すことで、検察官が「罪を問う必要はない」と判断して不起訴処分を下したり、裁判官が「社会での更生が期待できる」として判決に執行猶予を付したりする可能性が高まります。
5、まとめ
「暴行」と「脅迫」は、似たような機会におこなわれることの多い行為ですが、意味はまったく異なります。
いずれも単体では「暴行罪」と「脅迫罪」に問われる犯罪行為であり、刑事事件に発展してしまえば厳しい刑罰は避けられません。
暴行・脅迫事件を穏便に解決したいと望むなら、被害者との示談交渉を進めるのが先決です。
被害者との示談が成立すれば、逮捕や刑罰の回避も期待できるでしょう。
暴行・脅迫事件の解決は、ベリーベスト法律事務所 奈良オフィスにおまかせください。刑事事件の解決実績を豊富にもつ弁護士が、被害者との示談交渉や捜査機関・裁判官へのはたらきかけ、刑事裁判での弁護活動などを通じて、最善の結果を得られるよう力を尽くします。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています