盗撮で事件化! 示談しない場合でも不起訴となる可能性はあるのか
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令和4年1月には、奈良県の医師が女性のスカート内をスマートフォンで撮影して逮捕されたニュースが報じられました。このように、「バレない」と思っていても、盗撮を続けているといずれは被害者や目撃者にバレてしまい、事件化されてしまうでしょう。
一方で、盗撮の容疑で逮捕されたものの、被害者との示談が成立しており検察官が不起訴処分とした、というケースも存在します。盗撮事件を穏便に解決するには「被害者との示談」が有効ですが、では、示談をしなかった場合はどうなるのでしょうか。不起訴処分を得るには、必ず被害者との示談が成立していないといけないのでしょうか。
本コラムでは、盗撮事件における示談の意味や効果に触れながら、示談しないことで起きる展開を解説します。
1、「盗撮」に適用される犯罪と刑罰
まず確認しておくべきは「盗撮」という行為がどのような犯罪になるのかという点です。実は、どの法律をみても「盗撮罪」という名称の犯罪は存在していません。
盗撮行為には、場所や状況に応じて、次の3つの犯罪のうちいずれかが適用されます。
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(1)迷惑防止条例違反
迷惑防止条例とは、各都道府県が定めている条例のひとつです。奈良県にも「奈良県 公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」が定められています。
奈良県の迷惑防止条例では、第12条の「卑わいな行為の禁止」において、盗撮行為を禁止しています。- 公共の場所・乗り物における、着衣の全部もしくは一部を着けないでいる他人の姿態もしくは着衣で覆われている他人の下着を映像として記録する行為(第12条1項2号)
- 公共の場所・乗り物以外の場所から望遠カメラなどで公共の場所・乗り物にいる他人の下着や胸部などの身体を映像として記録する行為(第12条2項1号)
- 住居・浴場・更衣室・便所など、人が着衣の全部または一部を着けない状態でいるような場所にいる人の裸や下着姿を映像として記録する行為(第12条2項2号)
罰則は6か月以下の懲役または50万円以下の罰金で、常習と判断された場合は1年以下の懲役または100万円以下の罰金に加重されます。
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(2)刑法の建造物侵入罪
実際に盗撮していなかったり、盗撮したかどうか判然としない状況だったりしても「盗撮目的だった」と疑われた場合は刑法第130条の「建造物侵入罪」に問われます。
建造物侵入罪といえば、いわゆる不法侵入と呼ばれる行為を罰する犯罪です。本罪では、管理者の意思に反する立ち入りを侵入ととらえるため、盗撮という違法行為を目的としていれば、たとえ出入りが自由なスーパーや商業施設、公共施設などへの立ち入りでも侵入と解釈されます。
迷惑防止条例には未遂を罰する規定がないので、実際に盗撮した事実がない場合は建造物侵入罪が適用されるのが定石です。
有罪になると、3年以下の懲役または10万円以下の罰金が科せられます。 -
(3)軽犯罪法違反
迷惑防止条例違反の要件に合致せず、また違法な目的の侵入もない場合でも「軽犯罪法」の違反になることがあります。
軽犯罪法とは、軽微な秩序違反行為を罰するための法律です。33類型の違反行為が定められており、正当な理由なく住居・浴場・更衣場・便所など、人が通常は衣服を着けないでいるような場所をひそかにのぞき見た者を罰する規定があるので、盗撮・侵入がなかった場合でも「のぞき」の事実さえあれば罪を問われます。
罰則は拘留または科料です。拘留とは1か月未満の刑事施設への収容、科料とは1万円未満の金銭徴収を指します。
2、盗撮事件における示談の効果とは?
盗撮事件をできるだけ穏便に解決するために有効なのが、被害者との示談です。では、被害者との示談が成立すればどのような効果が得られるのでしょうか?
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(1)逮捕・勾留の回避が期待できる
盗撮を犯してしまっても、警察への通報よりも早く、あるいは警察が認知していても逮捕に踏み切られてしまう前に示談が成立すれば、逮捕の回避が期待できます。もし逮捕されても、ただちに示談が成立すれば引き続き勾留による身柄拘束を受ける事態を避けられる可能性が高まるでしょう。
逮捕されれば警察の段階で最長48時間、検察官の段階で最長24時間の身柄拘束を受けます。さらに勾留されると最大20日間の身柄拘束を受けるので、社会生活への悪影響ははかり知れません。
事件後もこれまでどおりの生活を送るためには、逮捕・勾留の回避がきわめて重要です。 -
(2)起訴の回避が期待できる
盗撮事件を起こしても、必ず刑事裁判が開かれるわけではありません。刑事裁判が開かれるのは、検察官が「起訴」したときだけです。言いかえれば、検察官が起訴しない限り、たとえ盗撮したのが事実でも刑事裁判は開かれないし、刑罰も受けないことになります。
被害者との示談が成立すると、被害者側は示談書の文面や被害届の取り下げによって「犯人の処罰は望まない」という意思を示すのが通例です。被害者が処罰を望まない状況なら、検察官があえて起訴に踏み切る必要も弱くなるので、穏便な解決が期待できます。 -
(3)厳しい刑罰の回避が期待できる
刑事裁判では、裁判官がさまざまな証拠をもとに有罪・無罪を判断したうえで、有罪の場合は法定刑の範囲内で適切な量刑が言い渡されます。
被害者との示談を通じて、真摯(しんし)な謝罪や賠償が尽くされていれば、たとえ有罪であっても「どの程度の刑罰が適切か?」という点で有利に評価されやすくなるので、刑罰が軽い方向へと傾く可能性が高まるでしょう。 -
(4)損害賠償請求訴訟の回避が期待できる
盗撮事件の被害者には、盗撮されたという精神的苦痛に対する慰謝料や事件のために被った損害について、加害者に賠償を求める権利があります。
これは「民事」としての権利であり、逮捕や刑罰といった「刑事」としての手続きや処分とは別問題です。加害者が刑罰を受け入れたからといって、被害者がもつ損害賠償請求の権利まで失われるわけではありません。
つまり、刑事裁判などの手続きとは別で、被害者から損害賠償請求訴訟を起こされてしまう可能性があるわけです。刑事事件が進むなかで被害者との示談交渉において示談金を支払う等して清算条項(当事者間で互いに他方に対する請求権を放棄する合意をすること)を含んだ示談書を作成すれば、被害者からの損害賠償請求を防止できます。
別途、民事訴訟を起こされてしまう事態を避けられるので、トラブル解決までのプロセスが省力化されるでしょう。
3、被害者が示談に応じてくれない場合、どうすればいいのか?
盗撮事件の被害者の多くは、加害者に対して強い怒りや嫌悪の感情をもっています。加害者から示談の申し入れを受けても、簡単には応じてくれないかもしれません。
しかし、示談がもたらす効果を考えれば、やはり「食い下がってでも示談を成立させたい」と望むのは当然です。では、被害者が示談に応じてくれないときはどうすればよいのでしょうか?
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(1)しつこく食い下がるのは逆効果
まず心得ておくべきことは、被害者が示談に応じてくれなかったとしても、しつこく食い下がるような行動をしてはいけないということです。
たとえば、毎日のように電話をかけ続けたり、連続してメッセージを送信したり、被害者の自宅を訪ねて「示談に応じてくれるまでは帰らない」と食い下がったりしていると、脅迫罪や強要罪、不退去罪といった別の犯罪が成立してしまいます。
加害者本人や家族による示談の申し入れは応じてもらえないおそれがあるうえに、別の犯罪の容疑がかかってしまう危険もあるので、対応は弁護士に一任したほうが安全です。 -
(2)示談金の供託
被害者が示談を受け入れてくれない背景のひとつに「示談金」の問題があります。
盗撮事件の示談金がいくらになるのかは、事件の状況や被害者の年齢、被害者が被った精神的苦痛の度合いなどによって変動するので、相場は存在しません。なかには過大な示談金の支払いを求めてくる被害者もいるので、金額面の折り合いがつかず、示談交渉が難航するケースも少なくないのが現実です。
精いっぱいの金額を示しているのに被害者が「この金額では応じられない」とかたくなに拒否している状況が続くなら「供託」という手段があります。
供託とは、示談金などを法務局に預ける手続きです。供託された示談金は被害者側が手続きをすれば自由に引き出せるので、加害者側には示談金を支払ったのと同じ効果が生じます。
「示談金を支払った」という事実が生じるだけで、被害者から「加害者の処罰を望まない」という意向を受けたわけではないという点では不利ですが、できる限りの方法で民事的な賠償を尽くしたという事実は有利にはたらく可能性が高いでしょう。 -
(3)贖罪寄付
盗撮を犯してしまったことに対する反省を示す方法のひとつとして考えられるのが「贖罪寄付(しょくざいきふ)」です。
犯罪被害者の支援機関や慈善団体など、贖罪寄付の受け入れを実施している団体・機関に寄付することで証明書が発行されます。深い反省を示す材料として証明書を検察官や裁判官に示せば、処分が有利な方向へと傾く可能性が高まるでしょう。
ただし、贖罪寄付は被害者への賠償とは異なるうえに、被害者から「加害者の処罰を求めない」という意向を受けるわけでもないので、過度の期待は禁物です。
4、示談しないと必ず有罪?
盗撮事件を起こしたからといって、必ず被害者と示談しないといけないというわけではありません。
あらぬ疑いをかけられているケースや、示談金の用意が難しいといった状況がある場合は「示談しない」という選択肢も考えられます。
しかし、示談がもたらす効果を考えると、反面、示談をしなければ必ず有罪となって刑罰を受けるかのようなイメージもあるでしょう。
示談をしないと、必ず有罪になるのでしょうか?
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(1)示談の有無にかかわらず、盗撮の事実が立証されれば有罪
被害者との示談は「必ずしないといけない」というものではありません。示談はあくまでも民事的な解決方法であり、刑事手続きの流れに照らすと、起訴不起訴や量刑の判断材料のひとつになるのは事実だとしても、必須ではないのです。
そもそも、示談をしないから有罪に、示談が成立すれば無罪になるという考え方は間違っています。
刑事裁判は、裁判官が証拠をもとに「罪を犯したのは事実なのか?」を審理する場なので、示談が成立しているからといった過去に起きた犯罪が「なかった」ことにはならないのです。
「盗撮した」という事実が客観的な証拠によって証明されると、たとえ示談が成立していても有罪判決が言い渡されます。一方で、示談をしなかった、あるいは示談が成立しなかったとしても、盗撮の事実が証明されなければ無罪です。 -
(2)無罪を目指すよりも不起訴処分を目指したほうが現実的
盗撮を犯したのが事実なら、無罪判決を期待するのは難しいでしょう。しかし、事件後の対応次第では、厳しい刑罰を避けることは可能です。
刑罰を避けるには、無罪を目指すよりも素早い示談交渉による「不起訴処分」を目指すべきでしょう。
そのためには、やはり被害者との示談交渉は欠かせません。被害者との示談が成立しなければ必ず起訴されるとは断言できませんが、示談成立によって不起訴処分の可能性が高まるのは事実です。
盗撮の事実があり、刑事裁判に発展すれば有罪判決を避けられない状況なら、被害者との示談交渉によって積極的に解決を目指したほうが賢明だといえます。
もちろん、実際に盗撮を犯したという事実がなく、無実なのに疑いをかけられている状況なら、無罪判決を目指すべきです。ただし、罪を犯していないことを証明するのは決して容易ではありません。無罪を主張したいなら、法的な知識と経験をもつ弁護士のサポートは必須でしょう。
5、まとめ
盗撮事件を穏便に解決するためには「被害者との示談」が重要です。あえて「示談しない」という選択も可能ですが、盗撮をしたことが事実なら逮捕・刑罰を避けるのは難しいでしょう。
盗撮容疑で逮捕・勾留されてしまうと、最大23日間にわたる身柄拘束を受けます。さらに検察官が起訴すると刑事裁判へと発展し、ほぼ確実に有罪判決が言い渡されてしまうので、示談による利益をいかしたいなら素早い対応が欠かせません。
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