窃盗(万引きなど)は証拠不十分でも逮捕される? 不起訴の可能性はあるか
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令和2年、奈良県内のリサイクルショップから商品を盗んだ窃盗の容疑で少年が逮捕されました。犯行直後に少年は逃走しましたが、通報を受けた警察官が付近で少年を発見し、店舗の監視カメラに犯行が記録されていたため、逮捕に至ったとのことです。
窃盗事件のすべてが、この事例のように明らかな証拠が存在するケースばかりとは限りません。なかには、明らかな証拠がないのに容疑をかけられてしまうケースも存在します。
明らかな証拠もないのに窃盗の容疑をかけられてしまった場合でも、やはり逮捕されて刑罰が下されてしまうのでしょうか?
本コラムでは、窃盗事件における証拠の考え方や、証拠が不十分だった場合の処分について、ベリーベスト法律事務所 奈良オフィスの弁護士が解説します。
1、窃盗(万引きなど)は現行犯逮捕だけ?
窃盗罪は方法や目的の違いによってさまざまな手口に分類されています。万引き・空き巣・すり・車上ねらいなどは、手口の名称こそ違うものの、すべて刑法第235条の窃盗罪にあたります。
世間では「万引きは現行犯でしか逮捕されない」といわれることがあるようです。しかし、本当に現行犯でないと逮捕されないのでしょうか?
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(1)逮捕の種類
逮捕には大きくわけると以下の2つがあり、さらに分類されます。
- 逮捕状に基づく逮捕……通常逮捕
- 逮捕状を必要としない逮捕……現行犯逮捕、緊急逮捕
逮捕状に基づく逮捕とは、日本国憲法第33条の定めにのっとり、あらかじめ裁判官の審査を経て逮捕状の発付を受けたうえで被疑者を逮捕する方法です。
逮捕状に基づく逮捕のうち、逮捕状を持って被疑者のいる所に向かい逮捕するのが通常逮捕です。
逮捕状を必要としない逮捕とは、現に罪をおこない、またはおこない終わって間もない被疑者を逮捕する「現行犯逮捕」を指します。まさに犯行を目撃していることから、警察官・検察官だけでなく一般の私人でも現行犯逮捕が可能です。
また、現行犯ではなく、捜査を行なった上で被疑者を特定したが、逮捕状を請求する時間的な余裕がないほど緊急を要する場合は、一定の重大犯罪に限って逮捕状をあとから請求する、緊急逮捕も認められています。 -
(2)窃盗罪でも通常逮捕されることがある
「万引きは現行犯でしか逮捕されない」と考えるのは間違いです。たしかに、万引きをはじめとした窃盗事件には、被害者や目撃者の手によって現行犯逮捕されるケースも少なくありません。
しかし、犯行の後日であっても、窃盗罪を証明する証拠があり裁判官が逮捕状を発付すれば通常逮捕される可能性はあります。
窃盗罪の時効は7年です。犯行現場から逃げ去り、数日以上がたったからといって「逮捕の危険がなくなった」と考えるべきではありません。もし罪を犯してしまった場合は、すぐに弁護士に相談することをおすすめします。 -
(3)窃盗容疑で逮捕される人の割合
令和2年版の犯罪白書によると、令和元年中に検察庁が取り扱った窃盗事件の被疑者の数は次のとおりでした。
- 窃盗事件の被疑者……8万7681人
そのなかで、逮捕となった被疑者の数は次のとおりです。
- 警察で逮捕し、身柄つきで検察官へと送致……2万6609人
- 警察で逮捕したあとに釈放……2193人
- 検察庁で逮捕……30人
逮捕された合計……2万8832人
上記の数値から、5万8849人は窃盗罪の被疑者となったものの、逮捕されていないことがわかります。
つまり、窃盗罪を犯しても必ず逮捕されるわけではなく、およそ7割の被疑者が在宅のまま検察官へと送致(在宅事件)されたということです。ただし、在宅事件であっても捜査機関からの呼び出しには応じなければなりませんし、捜査の進展によって逮捕の可能性もあります。
2、窃盗事件における証拠の考え方
事実を証明するものを一般的に「証拠」と呼びますが、刑事事件においてはさらに細かく証拠の種類を区別しています。ここでは、窃盗事件における証拠の考え方をみていきましょう。
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(1)直接証拠と間接証拠
刑事事件における証拠は、以下の2つに分類されます。
- 直接証拠
- 間接証拠(情況証拠)
直接証拠とは、証明の対象となっている事実を直接証明するものです。たとえば、被害者の供述、犯行を終始見ていた目撃証言、被疑者の自白などが該当します。
一方、間接証拠は、直接の証明はできないものの、証明の対象となっている事実が存在することを推認させるもので、別名として情況証拠とも呼ばれます。たとえば、犯行時刻に犯行現場で被疑者を目撃した証言などがこれにあたります。
犯罪の事実を証明する場合、直接証拠のほうが強い証明力を持っています。しかし、直接証拠が存在しなくても、複数の間接証拠によって事実が強く推認される場合は、有罪認定される可能性はあります。
つまり「間接証拠しか存在しない」というケースでも、逮捕・刑罰を受ける可能性がないとはいいきれないのです。 -
(2)窃盗事件における証拠の考え方
さらに詳しく、直接証拠と間接証拠を知るために、冒頭で挙げた「リサイクルショップでの窃盗事件」に基づいて証拠を仕分けてみましょう。
【直接証拠にあたるもの】- 「商品を盗んだ」という被疑者本人の自白
- 「商品を盗むところを見た」という店員の目撃供述
- 犯行の様子をとらえた店内防犯カメラの映像
【間接証拠にあたるもの】- 「店内にいた客は被疑者だけだった」という店員の供述
- 被疑者が店内を物色している様子をとらえた店内防犯カメラの映像
- 現場に投棄された商品から検出された被疑者の指紋・DNA資料
- 商品をネットオークションやフリマアプリで売却した記録
- 売却された商品に貼り付けられていた商品管理用のシール
- 被疑者について「こづかいが足りなかった」と語る家族の供述
- 被疑者が被害品を売却して得たお金で買い物をした履歴
このように仕分けると、現行犯として逮捕されなかったとしても、被疑者の自白が得られないだけで直接証拠・間接証拠は豊富に存在していることがわかるはずです。また、直接の目撃や映像がない場合でも、複数の間接証拠によって犯行が強く推認されることになります。
ただし、素直に罪を認めて被害者に謝罪し、商品を返す、または代金を支払うといった対応を取れば、逃亡や証拠隠滅を図るおそれがないとして逮捕されず、在宅事件として扱われる可能性があります。
3、警察・検察官が捜査しても証拠が不十分だった場合
警察や検察官が捜査しても有力な証拠がそろわず不十分だった場合は、どのような流れが待っているのでしょうか?
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(1)検察官が不起訴処分とする可能性が高い
窃盗事件の被疑者として容疑をかけられ逮捕された、または在宅事件として捜査を受けた場合は、検察官へと送致されて起訴・不起訴が決定します。
検察官が下す不起訴処分(公訴を提起しない処分のことです。)には、理由に応じてさまざまな種類が設けられていますが、主に次の3つのいずれかが適用されるでしょう。- 嫌疑なし
捜査の結果、被疑者への疑いが完全に晴れた場合の処分です。 - 嫌疑不十分
被疑者が罪を犯したことを証明するための証拠が不十分で、起訴しても有罪が期待できない場合に下されます。 - 起訴猶予
被疑者を起訴すれば有罪にできるだけの証拠がそろっているものの、罪の重さや示談成立といった事情を考慮して、あえて起訴しない処分です。
捜査を進めたものの、被疑者が罪を犯したことを証明するだけの有力な証拠が得られなかった場合は、検察官が嫌疑不十分として不起訴処分を下す可能性が高まります。
不起訴処分となった場合は刑事裁判が開かれないので、刑罰を受けることもなければ、前科がつくこともありません。 - 嫌疑なし
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(2)刑事裁判で無罪となる可能性もある
証拠が不十分でも、検察官が起訴に踏み切るおそれがないわけではありません。しかし、たとえ検察官が起訴に踏み切ったとしても、証拠が不十分であれば裁判官が無罪判決を下す可能性が高いでしょう。
わが国では、検察官が起訴した事件のおよそ99%に有罪判決が下されています。この驚くべき起訴有罪率が維持されているのは、起訴・不起訴を判断する際に検察官が証拠を徹底的に精査し、確実に有罪判決を得られると判断した事件に限って起訴しているからです。
無罪の見通しがある中で起訴されるおそれは低いと考えられるため、やはり嫌疑不十分で不起訴処分となると考えるのが妥当でしょう。
4、窃盗事件を起こしてしまったら弁護士に相談を
窃盗事件を起こしてしまったら、すぐに弁護士に相談したうえで、不起訴処分を得るためのサポートを求めましょう。
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(1)嫌疑不十分を目指すのは難しい
窃盗の容疑をかけられている被疑者に対して、捜査機関がどのような証拠を持っているのかを正確に知るのは難しいことです。検察官側の証拠は、起訴から数週間が経過したころに弁護士に開示されるので、起訴・不起訴が検討されている段階でどのような証拠が存在するのかを知ることはできないのです。
検察官側が有力な証拠を得ているケースもあるため、嫌疑不十分による不起訴処分を期待するのは危険です。 -
(2)被害者との示談交渉で起訴猶予を目指す
窃盗事件を起こしてしまい、逮捕や厳しい刑罰を回避したいと考えるなら、被害者との示談を成立させて起訴猶予による不起訴処分を得るのが適切な策です。弁護士に依頼し、代理人として示談交渉を一任しましょう。
窃盗事件の被害者のなかには、加害者に対して強い怒りを感じている人も少なくないので、本人による示談交渉は拒絶されるおそれがあります。
被害者の警戒心を和らげながら円満な解決を図るためには弁護士のサポートが不可欠といえます。容疑をかけられてしまったら、まず早い段階で弁護士に相談してサポートを依頼しましょう。
5、まとめ
窃盗事件では、さまざまな証拠をもとに検察官が起訴・不起訴を判断します。証拠が不十分であれば嫌疑不十分として不起訴処分が下される可能性がありますが、検察官側が持っている証拠は起訴後にしか開示されないので、嫌疑不十分での不起訴処分を期待するのは現実的ではありません。
逮捕や厳しい刑罰を回避したいと考えるなら、被害者との示談を成立させて起訴猶予による不起訴処分を目指すのが最善といえます。
窃盗事件を起こしてしまい、逮捕や刑罰に不安を感じている方は、ベリーベスト法律事務所 奈良オフィスにご相談ください。刑事事件の解決実績を豊富に持つ弁護士が、被害者との示談成立による不起訴処分を目指して全力でサポートします。
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