窃盗(万引きや自転車泥棒等)後に、盗んだ物を返したらどうなる?
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つい魔が差して窃盗してしまったが、後日返却した場合、逮捕されたり罪に問われたりすることはあるのでしょうか。たとえば、道端の他人の自転車を勝手に使用してしまい、後日もとあった場所に戻す、などのケースです。
奈良県警察本部の統計によれば、令和2年12月末における奈良市の刑事事件の認知件数のうち、オートバイ・自転車窃盗は220件ありました。1日あたりで約0.6件の二輪車窃盗が市内で発生している計算になります。
自転車泥棒や万引きなど、他人の物を盗むことは窃盗罪という犯罪に該当しますが、返却しても窃盗罪の罪に問われるのか、罪が軽くなるのか気になるところです。
そこで今回は、窃盗した物を返したらどうなるかについて、刑事事件の経験が豊富な弁護士が解説します。
1、窃盗した物を返したらどうなる?
他人の物を盗んでから返した場合に、窃盗罪が成立するのか、解説します。
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(1)後で返しても窃盗罪が成立する
窃盗罪とは他人の財物を窃取(せっしゅ)した場合に成立する犯罪です(刑法235条)。窃取とは、相手の承諾なしに盗みとることを意味します。つまり、他人の所有物を盗んだら窃盗罪が成立するということです。
では、盗んだことを後悔して、返却した場合はどうなるのでしょうか。たとえば、店の商品をポケットに入れ、店を出るまでにこっそり返す、などのケースです。
実は、盗んだ物を返したとしても、法的には窃盗罪が成立してしまいます。なぜなら、盗む意志をもって自分の支配内であるポケットに移したということが、他人の財物を窃取するという行為に該当するからです。ただし、物を盗んでしまったとしても、すぐに返せば事件として扱われない可能性や、裁判にかけられても有罪にならない可能性はあるので、返しても意味がないというわけではありません。 -
(2)窃盗罪は原則として非親告罪
犯罪を警察などの捜査機関に申告して、処罰を求めることを告訴といいます。この告訴がなければ処罰されない犯罪を、親告罪といいます。
窃盗罪は、原則として親告罪ではない、非親告罪になります。つまり、被害者が警察に告訴をしなくても、逮捕されて刑事裁判にかけられる可能性があるということです。
なお例外として、配偶者や同居の親族などの物を盗んだ場合は親告罪となります。
また、被害者が物を盗まれたことに気づいて被害届を出す前に盗んだ物を返却し、反省の気持ちを示せば、事件として扱われない可能性はあるでしょう。
2、窃盗に失敗して未遂に終わったらどうなる?
他人の物を盗もうとしたものの、失敗して未遂に終わった場合について解説します。
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(1)未遂とは
犯罪を実行したものの、結果を得られずに犯罪が失敗することを未遂といいます。後述しますが、未遂には「中止未遂」と「障害未遂」の2種類あります。
未遂に終わった犯罪は原則として処罰されず、法律に規定がある場合にのみ処罰されます(刑法44条)。
ただし、窃盗罪は未遂であっても罰すると定められているので、窃盗に失敗して未遂に終わった場合でも処罰の対象になります(刑法243条)。 -
(2)窃盗罪における未遂と既遂
未遂に対して、犯罪を実行に着手しこれを遂げたことを既遂(きすい)といいます。
窃盗罪における既遂とは、簡単に言えば盗んだ物を自分の支配下に置いたかどうかです。
過去の判例・裁判例においては、以下のような場合に窃盗罪の未遂とされた事例があります。- 自動販売機から紙幣を盗もうとしてバールを使って挿入口をこじ開けたが、通報されて逮捕された(神戸地裁平成20年2月8日判決)
- 夜中に店の中に侵入し、現金を盗もうとしてたばこの売り場に向かって歩きかけた(最高裁昭和40年3月9日判決)
一方、以下のような場合に既遂とされた事例があります。
- 商品をカゴに入れてレジを通らず、店舗内の袋詰め場所に持ち出した(東京高裁平成4年10月28日判決)
- 盗むために自動車を道路まで移動させて、エンジンを始動させた(広島高裁昭和45年5月28日判決
なお、似たようなケースでも、個別の事情によって判断が異なる可能性があるので注意が必要です。
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(3)未遂の場合、刑は軽くなるか
未遂は犯罪を実行したもののそれを遂げるに至っていないので、既遂と比べると、犯罪としては悪質でないと考える方もいるかもしれません。
窃盗罪の刑罰は10年以下の懲役または50万円以下の罰金ですが、未遂は既遂と比べると刑が軽くなるのでしょうか。
刑法における未遂には以下の2種類があります。- 中止未遂……自分の意思によって犯罪を中止すること
- 障害未遂……自分の意思ではなく外部的な要因によって、犯罪が未遂に終わること
中止未遂の場合、刑を軽くたり免除することが法律によって定められています(刑法43条)。たとえば、既遂であれば懲役の実刑であったところ、未遂なので執行猶予がつくなどです。一方、障害未遂の場合、犯そうとした罪の危険性を鑑みて刑が軽くならない可能性があります。
3、盗品を返しても刑事責任に問われる可能性はあるか?
上述のとおり盗んだ物を返した場合でも、窃盗が成立するため刑事責任を問われる可能性があります。しかし、場合によっては、刑事責任を問われないで済む可能性もあります。
繰り返しになりますが、たとえば、店で万引きをしようとして物を自分のポケットに入れた場合、他人の物を自分の支配下に置いているので、窃盗罪が成立します。
しかし、ポケットに入れたものの、その場で後悔してすぐに棚に戻したような場合は、店に通報されて窃盗罪として警察に逮捕される可能性は、一般に高くないでしょう。また、盗品が戻ってきた被害者が処罰を求めなければ、逮捕される可能性は低くなります。
ただし、過去に何度も物を盗んでいた場合などは、常習性があるとケースでは、刑事責任を問われる可能性があります。
4、窃盗で逮捕されたら早期に弁護士に相談を
もし窃盗罪で逮捕されてしまった場合は、早めに弁護士に相談することをおすすめします。弁護士に依頼するメリットは次の通りです。
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(1)取り調べに対する適切なアドバイスがもらえる
捜査機関に逮捕されると、一般に刑事事件の被疑者として厳しい取り調べを受けることになります。
身柄を拘束されながら取り調べを受けることは心身にとって大きな負担です。場合によっては意図しない発言をしてしまい、不利な調書を作成される可能性があります。
弁護士に相談することで、取り調べに対してどのように主張をすべきか、どのような発言に気をつけるべきかアドバイスがもらえるため、取り調べに対して適正な対応ができるようになるでしょう。 -
(2)不起訴に向けた働きかけが期待できる
警察に逮捕されて検察に送致された場合でも、不起訴処分になれば身柄が釈放され、前科もつきません。
不起訴処分のためには、被害者との示談成立が有効です。ただし、知人や家族が被害者と示談交渉することはかえってトラブルになりかねません。刑事裁判の経験が豊富な弁護士であれば、法的知見をもった第三者として、被害者との冷静な示談交渉が期待できます。また、捜査機関に本人の反省の弁や家族の受け入れ態勢などを話し、不起訴に向けて働きかけることも可能です。
5、まとめ
他人の物を盗んでから返した場合、刑法上は窃盗罪が成立しています。ただし、被害者が物を盗まれたことに気づいて被害届を出す前に盗んだ物を返却し、反省の気持ちを示せば、事件として扱われない可能性はあるでしょう。
なお、過去に何回も窃盗をしたなどで悪質だと判断された場合は、逮捕されて刑事責任を問われる可能性もあるので注意が必要です。
窃盗罪で逮捕される可能性がある、もしくは逮捕されてしまった場合は、早期にベリーベスト法律事務所 奈良オフィスにご相談ください。刑事事件の経験が豊富な弁護士が迅速に対応いたします。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています