名誉毀損で逮捕される場合とは? SNSの悪口は罪になるのか

2021年09月30日
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名誉毀損で逮捕される場合とは? SNSの悪口は罪になるのか

奈良県では、インターネット上の人権侵害や名誉毀損を防止するために、掲示板への書き込みなど実際に起こった事例を県のホームページで紹介する取り組みを行っています。

名誉毀損とは、公然と事実を摘示し、他人の名誉を傷つけた場合に成立する犯罪です(刑法第230条)。「公然と摘示」とは、不特定多数または多数の人に対して知らしめることです。そのため、直接悪口を伝えたりビラを配ったりするだけでなく、インターネットを利用してSNSで悪口を書き込む行為も、名誉毀損が成立する場合があります。匿名のSNSで、ついエスカレートして悪口を書き込んでしまい、もしかして逮捕されるかもしれない、慰謝料を請求されるかもしれない、と不安になっている方もいらっしゃるかもしれません。

そこで今回は、名誉棄損の基礎的な知識と、SNSで悪口を書き込むとどのような場合に名誉毀損にあたるのか、逮捕される可能性があるのかなどについて、ベリーベスト法律事務所 奈良オフィスの弁護士が解説します。

1、名誉毀損とは

まずは、名誉毀損はどのような犯罪かについて、成立の要件、成立しないケース、類似する犯罪との違いなどを解説していきます。

  1. (1)名誉毀損の構成要件

    構成要件とは、どのような行為がどのような犯罪に該当するかを分類したもので、犯罪が成立するための条件ともいえます。名誉毀損の構成要件の主なポイントは、「公然性」と「事実の摘示」です。

    では具体的にどのような要件なのか、みていきましょう。

    ●公然性
    公然性とは、不特定または多数の人が知り得る状態にあることです。不特定または多数のどちらかを満たせば、公然性が認められます。

    不特定または多数が知り得る状態であればよいので、伝えた相手が特定または少数であっても、その少数からさらに他者に伝える可能性があれば公然性が認められる可能性があります。具体的にはSNSでの悪口などです。

    不特定とも多数ともいえない場合は、公然性がないので名誉毀損は成立しません。たとえば、外に声がもれない密室において、本人だけに名誉を毀損するような発言をしても、名誉毀損にはあたりません。

    ●事実の摘示
    名誉毀損が成立するには、他人の社会的評価を害する事実を示すことが必要です。他人には会社などの法人も含まれるので、法人の名誉を毀損した場合も名誉毀損罪が成立します。

    事実とは客観的な真実である必要はありません。つまり、嘘の悪口であっても要件を満たせば名誉棄損になります。

    逆に、客観的には真実であっても他人の社会的評価を害する場合には、一定の場合を除いて名誉毀損罪が成立します。

    なお、社会的評価を害するような言動でも、それが単なる評価であって事実を示していない場合は、名誉毀損にはなりません。たとえば、「Aさんはいつも気持ち悪い」という発言を不特定多数に発信した場合、「気持ち悪い」という発言は単なる評価であり事実を摘示していないので、名誉毀損にあたりません。ただし、侮辱罪が成立する可能性があるので注意が必要です。

  2. (2)名誉毀損が成立しないケース

    本来は名誉毀損が成立するケースであっても、表現の自由や知る権利などを考慮して、一定のケースにおいては罰しないことが刑法に規定されています(刑法第230条の2)。

    名誉毀損が成立しないポイントは、公共性、公益性、真実性の3つの要件をすべて満たしていることです。

    ●公共性
    公共性とは、摘示された事実が社会的な利益に関わることです。政治家など国の構造に関わる人物の不祥事については、一般に公共性が認められます。

    また、有名企業やその経営者など、社会的な影響力が強い団体や人物に関する事実についても、公共性が認められる場合があります。

    ●公益性
    公益性とは、主として社会的な利益を目的として、事実が摘示されたことを意味します。個人的な恨みや、相手に損害を与えたりすることが目的ではないということです。

    事実の公共性が高いほど一般に公益性も認められやすいですが、私怨目的で行われたことが明らかな場合などは、事実の公共性が高くても公益性が否定される可能性があります。

    ●真実性
    真実性とは、摘示された事実が客観的な真実に合致することです。摘示された内容が真実に反している場合、保護すべき価値が薄いので名誉毀損が成立するのもやむを得ないということです。

    ただし、摘示された事実が真実ではなくても、真実であると誤信し、かつ真実であると信じるのに相当な理由がある場合は、犯罪の故意がないので名誉毀損罪が成立しません。

    たとえば、正確な情報を長年提供してきた取材元から汚職の情報を得たため真実と誤って報道し、情報源もそれが真実ではないことを知らなかった場合などは、犯罪の故意がなく名誉毀損罪が成立しない可能性があります。

  3. (3)名誉毀損と他の犯罪の違い

    刑法にはさまざまな犯罪の類型が規定されていますが、中には名誉毀損と似て異なる犯罪もあります。名誉毀損に似ている犯罪としては侮辱罪や信用毀損罪があります。

    ●侮辱罪との違い
    侮辱罪は、公然と他人を侮辱する犯罪です(刑法第231条)。他人の尊厳を公然と傷つける点で、名誉毀損と侮辱罪は似ています。

    違いは、名誉毀損は事実を摘示するのに対し、侮辱罪は事実を摘示しない点です。

    たとえば、「お前は2年前にA銀行で横領をした犯罪者だ」という言動は事実を示しているので名誉毀損にあたる可能性があります。一方、「お前はバカだ」という言動は具体的な事実を示していないので侮辱罪にあたるおそれがあります。

    ●信用毀損罪との違い
    信用毀損罪は、わざと嘘の噂を流したり、騙したりして他人の信用を毀損する犯罪です(刑法第233条前段)。名誉毀損は他人の名誉を毀損するのに対し、信用毀損罪は他人の信用を毀損するのが違いです。

    信用毀損罪における「信用」とは、主に経済的な側面での社会的評価を意味します。

    たとえば、「A銀行はあと半年で経営破綻する」という情報を嘘と知りながらわざと世間に流した場合、銀行の経済的な信用を傷つけているので信用毀損罪が成立する可能性があります。

2、SNSの書き込みは名誉毀損にあたる?

SNSでは誰でも簡単に自分の意見を投稿できますが、匿名性が高いため、悪口や悪評が流布しやすい特徴があります。そのため、SNSに悪口を書き込んだ場合でも、内容などによっては名誉毀損が成立する場合があります。

前述の通り、名誉毀損の成立に重要なポイントは公然性と事実の摘示ですが、SNSに投稿する場合でもこの2つは成立しうるものです。

まず公然性についてですが、SNSへの投稿はネット上ですぐに拡散する可能性が高いため、不特定または多数が知り得る状態にあり、一般に公然性が認められるでしょう。

次に事実の摘示については、SNSに投稿された発言の内容によります。「芸能人のAは、3年前にBという店で万引きをした」など具体的な事実を含む内容で悪口を投稿した場合は、事実の摘示が認められる可能性があります。

3、名誉毀損で逮捕される可能性はあるか?

名誉毀損で逮捕される可能性はあるのでしょうか。名誉毀損の刑事罰の内容・民事訴訟を起こされる可能性と併せて解説します。

  1. (1)名誉毀損(親告罪)は告訴が必要

    名誉毀損は親告罪です。親告罪とは、被害者の告訴がなければ検察官が刑事裁判を起こすこと(起訴)ができない犯罪のことです。

    したがって、名誉毀損は告訴がなければ起訴の前段階である逮捕も通常は行われません。逆に言えば、被害者が捜査機関に告訴をした場合、名誉毀損で逮捕される可能性があるということです。

    告訴とは、犯罪の被害者など告訴をする権利のある方(告訴権者)が、検察官や司法警察員などの捜査機関に対して、犯罪にあった事実を申告し、かつ犯人の処罰を求める意思表示のことです(刑事訴訟法第230条)。

    一方、告訴と似て異なる制度として、被害届があります。被害届とは、犯罪にあった事実を警察署などの捜査機関に申告するものです。被害届は犯人の処罰を求める意思表示を含まない点で、告訴とは異なります。

    告訴と被害届の大きな違いは、捜査機関が犯罪の捜査をする義務を負うかどうかです。

    被害届が提出されても、捜査機関は捜査する義務を負いませんが、告訴を受理した場合、捜査機関は犯罪について捜査する義務を負います。

    なお、告訴するには犯罪事実を特定する必要がありますが、犯人を特定する必要はありません。つまり、SNSで誹謗中傷された被害者が告訴する場合、犯人がどこの誰かわからなくても告訴できるということです。

  2. (2)名誉毀損の刑事罰

    告訴があれば名誉毀損について捜査が行われ、その結果逮捕される可能性があります。名誉毀損で逮捕・起訴されて有罪になった場合、どのような刑事罰の対象になるのでしょうか。

    名誉毀損の刑事罰の内容は、3年以下の懲役もしくは禁錮、または50万円以下の罰金です。

    初犯で重い刑罰が科される可能性はあまり高くありませんが、制度上は刑務所に収監される懲役と禁錮の対象なので、名誉毀損は犯罪の中でも比較的重い刑罰といえます。

  3. (3)名誉毀損は民事訴訟の可能性もある

    名誉毀損をしてしまった場合に注意すべきなのは、告訴によって逮捕される場合があるだけでなく、被害者に民事訴訟を起こされる可能性があることです。刑事事件と民事事件はそれぞれ別個の手続きなので、被害者は告訴と民事訴訟の両方を行うことができるのです。

    民事訴訟を起こされて裁判で負けた場合、逮捕されたり有罪で前科がついたりはしませんが、相手の名誉を傷つけたことに対する損害賠償や精神的な苦痛を与えたことに対する慰謝料などを、金銭で支払うことになります。

    損害賠償金をきちんと支払うことができればよいのですが、賠償金を支払わない場合は、強制執行の手続きによって給料の口座や資産などを差押えられて、強制的に支払わなければならなくなる可能性があります。

4、名誉毀損を弁護士へ相談するメリット

名誉毀損に該当するような行為をしてしまった場合、すぐに弁護士に相談するのがおすすめです。名誉毀損について、弁護士に相談するメリットや必要性を解説します。

  1. (1)名誉毀損に該当するか適切な判断が得られる

    名誉毀損が成立するには、公然性や事実の摘示などの要件を満たす必要がありますが、名誉毀損が成立する要件をすべて満たしているかを判断するのは簡単ではありません。

    弁護士に相談すれば、SNSについ他人の悪口を書きこんでしまった場合、そもそも自分の行為が名誉毀損に該当するかどうかから判断してもらえます。

    また、仮に名誉毀損に該当する場合、具体的にどうすればいいかについて、ケースに沿ったアドバイスを得ることができます。

  2. (2)逮捕・起訴の防止につながる

    名誉毀損に該当する行為をしてしまった場合、被害者が告訴すれば犯罪の被疑者として逮捕される可能性があります。仮に裁判で有罪になれば、前科がついてしまいます。

    名誉毀損などの親告罪で逮捕・起訴を防ぐには、被害者と示談を進めることが重要です。しかし、直接相手側と交渉することは、感情的なやりとりになる可能性もあり、かえって事態の悪化につながりかねません。

    弁護士に依頼すれば、法的知識をもつ者として適切な内容で相手と示談交渉をするため、相手が告訴する前に円満に解決へと進められることが期待できます。また、すでに相手が告訴してしまった場合でも、検察が起訴するまでに告訴を取り下げる可能性があります。

    なお、弁護士は、刑事事件だけでなく、被害者が民事訴訟を起こした場合にも対応します。損害賠償請求の訴訟を起こされる前に相手と交渉し、円満に解決できる可能性があります。

5、まとめ

SNSの投稿は不特定または多数の人間に伝わることから、他人の社会的評価を侵害するような悪口を書き込んだ場合、名誉毀損が成立することがあります。

名誉毀損は親告罪なので、告訴を受理した捜査機関には犯罪の捜査をする義務が生じるため、逮捕される可能性もあります。また、投稿に内容によっては侮辱罪や信用毀損罪などが成立する可能性もあります。

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