背任罪|構成要件と罰則、横領罪との違いなどを解説
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令和4年12月、奈良市の新しい火葬場の整備に関して「建設用地の購入額が不当に高い」ということで県市民オンブズマンの市民から背任容疑で刑事告発された奈良市長について、大阪地検特捜部は不起訴処分を決定しました。
また、令和5年には、平成30年に完成した橿原市分庁舎「ミグランス」に併設されたホテルとの契約内容や経緯について疑義があることから、副市長を委員長とする調査委員会を発足させることを現市長が明らかにしました。
「背任罪」とは会社や自治体内などの構成員や責任者が任務に背く行為をしたときに問われる犯罪です。
また、同じく会社内や自治体内での不正を問う罪としては「横領罪」も存在します。
本コラムでは、背任罪が成立する要件や刑罰、横領罪との違いなどについて、ベリーベスト法律事務所奈良オフィスの弁護士が解説します。
1、背任罪とは(構成要件や事例)
令和元年版の犯罪白書によると、平成30年中に認知された背任事件の件数はわずか60件でした。刑法犯全体の認知件数は81万7338件なので、全体の0.01%にも満たないという点から適用がめずらしい犯罪だといえます。
まずは「背任罪とはどのような犯罪なのか?」という疑問を解決していきましょう。
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(1)背任罪とは
背任罪は刑法第247条に定められている犯罪です。
刑法第247条(背任)
他人のためにその事務を処理する者が、自己もしくは第三者の利益を図りまたは本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えたときは、5年以下の懲役または50万円以下の罰金に処する。
詐欺罪や横領罪と同じく「財産犯」に分類される犯罪ですが、複数の学説が存在し、過去の判例をくらべても意見がわかれるなど、成立の判断が難しい犯罪だといえます。
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(2)背任罪の構成要件
背任罪の構成要件は4つに分解されます。
- 他人のためにその事務を処理する者
- 自己もしくは第三者の利益を図りまたは本人に損害を加える目的(図利加害目的)
- その任務に背く行為
- 本人に財産上の損害を加えたとき
ひとつずつ解説していきます。
まず、「他人のためにその事務を処理する者」とは、本人(委託者)から事務処理を委託された者をいい、たとえば、会社に雇用されている社員が会社の業務をおこなっている場合などを指します。
「図利加害目的」が規定されているのは、もっぱら本人(委託者)の利益を図る目的である場合には、背任罪が成立しないことを規定したものと解されています。
つまり、その行為がもっぱら委託者=会社の利益につながると信じたうえでの行為では、図利加害目的ないため背任罪は成立しません。
「その任務に背く行為」とは、委託者から与えられた任務に背いた行為であることを指します。
いわゆる不正融資や不良貸付などが代表的な行為です。冒頭で挙げた事例のように、不動産の価値を正しく鑑定する立場にある不動産鑑定士が本来の価値の11倍で評価するという行為は「任務に背く行為」といえるでしょう。
これらの目的・行為があったうえで、委託者に「財産上の損害」が発生すれば、背任罪が成立します。
もし、これらの目的・行為があっても会社の対策によって損害が発生しなかったようなケースでは背任未遂となりますが、刑法250条の規定によって未遂であっても罰せられるという点には注意が必要でしょう。 -
(3)「特別背任罪」との違い
ニュース報道などで耳にする用語として、背任罪のほかに「特別背任罪」という犯罪を聞いたことがある方も多いでしょう。
特別背任罪とは、刑法ではなく、会社法第960条1項に定められた犯罪です。
株式会社の取締役や支配人など、一定の役職にある者が背任の罪を犯した場合、通常の背任罪よりもはるかに重い、10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金、またはこれを併科という刑罰が科せられます。 -
(4)背任事件の事例
背任罪が適用される事例について、実際の事例をみていきましょう。
●パチンコ店の管理職が特定の客に設定情報を漏らした
パチンコ店の店次長代理だった男が、大当たりが出現する確率が高いスロット台の情報を特定の客に伝えて、店舗にメダル約8400枚、16万2500円相当の損害を与えた容疑で逮捕された事件です。スロット台の確率設定は客に公開することは店に大きな損害を与えるため、重大な任務違背行為とみることができます。
●必要のない臨時職員を雇用した
教育委員会の次長だった男が、業務に従事させるつもりがないのに求職配送の予備運転手として70歳代の男性を臨時職員として雇用し、自治体に給与支払い分76万円の損害を与えた事件です。採用された男性はまったく業務に従事していなかったといい、自治体に対して無駄な支出をさせるという行為が任務違背行為とみなされた事例です。
●取引先に架空発注をくり返した
運送会社役員の男が、旧知の仲である自営業の男と共謀し、43回にわたる架空の発注をくり返して約1300万円を請求させた事件です。この事件は、首謀者の男が会社役員であったため、特別背任罪の容疑で逮捕されました。自営業の男は1万円程度を受け取り、残額を会社役員の男の口座に入金していたとのことです。
2、背任罪と横領罪の違い
背任罪と横領罪は、どちらも「委託関係に反して不正をはたらく」という行為に適用されるイメージがある犯罪です。
また、横領罪が成立する他人の事務処理者が、自己が占有する他人のものについて不法な処分をおこなった場合、このような行為は任務違背にもあたるため横領罪と背任罪は構成要件が重なっている部分があります。
どちらが適用されるのかは、それぞれの行為や目的に注目することで判断できます。
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(1)行為の違い
横領罪と背任罪の大きな違いは「行為」です。
横領罪は、他人から預かり保管中の財物を自分のものにする、売却などで勝手に処分するなど、自分の自由にする行為に限定しています。
一方、背任罪は「任務に違背して損害を与える」ものであれば行為の種類を限定していません。任されている権限を越えていれば広く任務違背とされるため、横領罪が適用できないようなケースでも背任罪なら成立するおそれがあります。 -
(2)目的の違い
横領罪は、他人の財物に対して「自分のものにしよう」という不法領得の意思が必要です。
これに対し、背任罪は、自分の利益だけでなく「第三者の利益を図る」目的であっても成立するため、自分に経済的な利益のない行為でも第三者の利益のためにした行為にも成立します。 -
(3)法定刑の違い
横領罪と背任罪は、法定刑、つまり「罪の重さ」が違います。
- 横領罪……5年以下の懲役
- 背任罪……5年以下の懲役または50万円以下の罰金
懲役刑の上限に差はありませんが、横領罪には罰金刑の規定がなく、背任罪には罰金刑が設けられています。そのため、横領罪の法定刑の方が重いので、両罪が成立しうる場合には、横領罪のみが成立することになります。
なお、横領行為が「業務上横領罪」にあたる場合は法定刑が10年以下の懲役となり、横領罪や背任罪よりも格段に重くなります。
3、背任罪で逮捕された後の流れ
背任罪で逮捕されると、次のような流れで刑事手続きが進みます。
●逮捕
警察署の留置場で身柄を拘束されて取り調べを受けます。自由な行動は一切制限されるので、帰宅や会社への出勤、電話連絡なども不能です。身柄拘束の期限は48時間で、48時間以内に検察庁へ引き継がない場合は釈放しなくてはなりません。
●送致
逮捕された被疑者の身柄が検察官に引き継がれます。ニュースなどで耳にする「送検」とは、この段階にあたります。
●勾留
送致を受けた検察官は、24時間以内に起訴または釈放を決定しますが、この段階では取り調べが尽くされていないので、どちらとも判断がつきません。そこで裁判所に対して身柄拘束の延長を求めます。これが勾留請求です。裁判官が勾留を認めた場合、原則10日間、最長で20日間まで身柄拘束が延長されます。
●起訴
勾留が満期を迎える日までに、検察官は起訴・釈放を決定します。証拠不十分や罪に問うまでの必要はない事情があれば不起訴処分となり釈放されますが、起訴された場合は刑事裁判に移行します。
起訴されると、被疑者は「被告人」の立場となり、さらに被告人としての勾留を受けて刑事裁判を待つことになります。
●裁判
刑事裁判では、検察官と被告人側の弁護士がそれぞれ取りそろえた証拠をもとに裁判官が審理し、結審の日には判決が下されます。
4、背任事件で処分・刑罰を軽くするためにするべきこと
背任罪はいわゆる、不正が絡む犯罪なので、事件の全容を解明するためという理由で長期の身柄拘束を受けるおそれがあります。また、横領罪と比較すると罰金刑が規定されている分だけ刑罰は軽いといえますが、最長で5年という懲役刑も規定されているので、できる限りの対策を講じる必要があるでしょう。
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(1)会社との示談交渉を進める
背任罪は、会社に対して損害を与える犯罪です。つまり、与えてしまった損害分を穴埋めできれば、会社としての実損がなくなるだけでなく、民事的な賠償責任も果たせたことになります。
会社との示談交渉の場を設けて、謝罪のうえで賠償に関する約束を取り交わし、約束どおり賠償金を支払えば、被害届や告訴の取り下げが期待できるでしょう。被害申告が取り下げられれば、逮捕や勾留が回避できる可能性があります。 -
(2)弁護士に刑事弁護を依頼する
背任罪の容疑をかけられたら、直ちに弁護士に相談して刑事弁護を依頼しましょう。
背任罪における弁護活動としては、次のようなものが期待できます。- 会社との示談交渉を代理人として進めてもらう
- 逮捕や勾留決定に対して「逃亡・証拠隠滅のおそれはない」旨を主張し釈放を求める
- 取り調べに際するアドバイスを提供する
- 不起訴処分や執行猶予の獲得に向けて有利な証拠を集める
- 無罪を主張するための材料を探して対抗する
刑事事件の弁護活動は「スピードが命」です。できるだけ早い段階で弁護士がアクションを起こすことで、より有利な結果が期待できます。背任容疑をかけられてしまったら、会社の被害申告や逮捕前に迅速に弁護士に相談し、アドバイスを受けましょう。
5、まとめ
背任罪は、いわゆる不正行為をはたらいて会社に損害を与えた場合に成立しやすい犯罪です。実際に任務に背いた不正行為があるなら、やはり背任罪の成立は免れないでしょう。
しかし「会社のため」と信じて冒険的な取引に打って出た結果として損害が発生してしまったときでも罪に問われるおそれがあるので、成立の判断は容易ではありません。
背任容疑をかけられてしまい会社から責任を追及されている、警察による逮捕の可能性が高いといった事態に直面している方は、ベリーベスト法律事務所 奈良オフィスへご相談ください。
背任事件をはじめとした刑事事件の弁護実績が高い弁護士が、不起訴処分の獲得や処分・刑罰の軽減を目指して尽力いたします。示談による解決も期待できるため、会社との示談交渉は法律のプロである弁護士にお任せください。
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