取引先が破産したときに売掛金を回収する方法を解説
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東京商工リサーチ奈良支店の発表によると、令和5年上半期(1~6月)に奈良県内の負債総額1000万円以上の企業が倒産した件数は43件であり、前年同期に比べて1件の減小となったほか、過去20年間でも3番目に少ない数となりました。
特定の企業との取引が収益の主な源となっている場合、相手の企業が経営破綻して倒産してしまうと、連鎖的に自社も倒産してしまうおそれがあります。
しかし、取引先が破産してしまった場合にも、債権である売掛金を回収できる可能性は残っています。
本コラムでは、取引先が倒産や破産をしてしまった場合に売掛金を回収する方法について、ベリーベスト法律事務所 奈良オフィスの弁護士が解説しま
1、破産(倒産)する会社の予兆とは
安定的に取引をしている会社であっても、何かしらのきっかけで倒産するケースがあります。もっとも、何の兆候もなくいきなり倒産ということではなく、倒産するまでには何らかの兆候があることが一般的です。
会社が倒産する兆候としてはさまざまなものがありますが、典型的なものとしては、以下のものがあります。
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(1)経営者や従業員の変化
経営状態が悪化してきた会社としては、人件費の削減のため従業員を大量に解雇することがあります。解雇でないとしても、会社の経営状態悪化を危惧して、従業員が自主退職したり、役員が辞任するというケースもあります。
また、取引先や金融機関への対応に追われて、会社に従業員がほとんどおらず、電話連絡をしてもつながらなくなるという事態も珍しくありません。
そのため、営業担当者が取引先を訪ねる際などには、取引先の役員や従業員の態度や様子に変化がないかどうかをチェックしておくなど、常にアンテナをはっておくことが重要になります。 -
(2)支払い時期や方法の変更
取引先の経営状態が悪化してきたときには、取引先から以下のような提案を受けることがあります。以下のような提案を受けたときには、取引先の経営状態の悪化を疑った方がよいかもしれません。
①支払猶予
支払猶予とは、買掛金(自社からみると売掛金)などの支払期日を延長することをいいます。支払猶予を求める理由としては、主に、期限までに支払原資を確保できていないことが想定されます。そのため、支払猶予を求める会社は、資金繰りが悪化している可能性があるといえます。
②早期決済の要請
取引先から売掛金(自社からみると買掛金)の支払期日を早めるよう要請があったときにも、取引先の資金繰りの悪化が疑われます。このような要請は、取引先が売掛金の回収を支払期日まで待てない状態にあることをうかがわせます。そして、そのような状態に至った原因は、他の取引先や、金融機関に対する支払原資を確保できていないことにある可能性があります。
③手形のジャンプ
決済手段として約束手形を振り出している取引先から、手形ジャンプの要請を受けることがあります。手形ジャンプとは、手形が不渡りになることを避けるために、手形の決済日を訂正したり、期日を改めた新しい手形を再度振り出したりして、従前の手形の支払期日に、決済を行わないようにすることをいいます。手形のジャンプの要請をしてきた取引先は、①同様、経営状態が悪化しているといえます。
④融通手形の発行
資金繰りが苦しくなってきた会社は、取引先などに依頼して、実際の取引がないにもかかわらず、約束手形を振り出してもらい、手形を金融機関等で現金化する方法で、当面の資金繰りを補うことがあります。このような目的で発行された約束手形を、融通手形といいます。企業が、金融機関からの融資を得られず、このような資金獲得手段に出ることも、しばしばみられます。融通手形の発行を受けている取引先は、業績の悪化に伴って、金融機関から融資を受けられない状態にある可能性があります。 -
(3)不祥事の発生
経営者や従業員が不正行為や不祥事を行ったときには、会社の信頼は著しく害されることになるため、それによって業績が悪化し、一気に倒産の危険性が高まることがあります。不正行為や不祥事に対して企業が適切な対応をとっていれば、業績に影響を及ぼさないケースもありますので、あくまでも倒産の兆候のひとつとして理解しておくとよいでしょう。
2、取引先が破産(倒産)した場合のリスク
取引先が倒産してしまったときには、以下のようなリスクがあります。そのため、最悪の事態を避けるためにも、普段から倒産の予兆がないかどうかといった点からも与信管理を行い、傾注取引とならないように取引先を多様化するなどして、リスク管理をしておくことが重要となります。
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(1)売掛金の回収不能
取引先が倒産をして法的整理を開始したときには、個別に売掛金を回収するということは原則として禁止されます(破産法42条1項等)。破産手続においては、配当手続がありますが、倒産をする会社に目ぼしい財産が残されていることはほとんどなく、配当がなされたとしてもわずかなものとなります。
そのため、取引先が倒産した場合、自社の債権を回収することができないことを念頭に置きつつ、取引相手を選ぶ必要があります。 -
(2)連鎖倒産のリスク
主な取引先が倒産した場合には、売り上げが激減することにつながります。多額の売掛金の回収不能という事態も重なると、場合によっては、連鎖倒産を招く危険性もあります。
何とか持ちこたえたとしても、業績の悪化により、金融機関からの融資にも影響を及ぼすことがあり、今後の事業継続が厳しくなることも考えられます。
3、取引先が破産したときの法的対策
取引先が倒産したとしても、以下の手段によって売掛金を回収することができる場合があります。
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(1)相殺
取引先が倒産したとしても、取引先に対して倒産前から債務を有していたときには、相殺によって債権回収を図ることができます(破産法67条、103条等)。
たとえば、取引先に対して売掛金債権を有している一方で、取引先に対して買掛金債務を負っているときには、両者を対等額で相殺する(民法505条)ことによって、その部分については売掛金を回収したのと同様の効果を得ることができます。
相殺をするときには、取引先に対して相殺通知書を送付するのが一般的です。相殺の意思表示の有無について、後日争いにならないように、内容証明郵便を利用するなど、証拠が残る形で行いましょう。 -
(2)商品の引き上げ
自社の商品が取引先に残っているようであれば、自社の商品を引き上げることによって、売掛金の回収を図る方法があります。取引先との間で、自社商品の売買に際し、所有権留保の合意をしていたときには、その合意を根拠として商品の引き上げを行います。仮に合意がなかったとしても、代金不払いを理由に契約を解除して(民法545条1項、541条、542条等)、商品の返還を求めることが可能です。
ただし、取引先に押し掛けて無断で自社の商品を引き上げてしまうと、トラブルになることがありますので、必ず取引先の同意を得てから引き上げるようにしてください。同意の有無について後日争いにならないようにするためにも、取引先との間で合意書を作成しておくとよいでしょう。 -
(3)担保権の実行
売掛金債権を保全するために、取引先の不動産に抵当権を設定していたり、保証人を確保したりしているときには、それらの担保権を実行する方法によって売掛金債権を回収することができます。
ただし、他の債権者も同様に担保権を設定しているときには、担保権を実行しても十分な満足を得られないことがあります。 -
(4)強制執行
取引先との契約書が公正証書によってなされており、当該公正証書に執行認諾文言が入っているときには、裁判手続を行うことなく、取引先の財産を差し押さえることができます。
ただし、破産手続中には、強制執行の手続を行うことができません(破産法42条)ので、強制執行によって債権の回収を図る場合、破産手続開始決定が行われるより前に、強制執行を終えられるよう、迅速に対応する必要があります。 -
(5)債権譲渡
上記の方法では取引先から売掛金債権を回収することができないという場合には、債権回収会社(サービサー)に対し、売掛金債権を譲渡するという方法もあります。譲渡金額は、債権額よりも低くなりますが、多少でも債権を回収することができますので、検討をしてみてもよいでしょう。
4、債権回収の不安は、早期に弁護士に相談を
売掛金をできる限り多く回収するためには、取引先の倒産の兆候をつかんだときにすぐに弁護士に相談をすることが有効です。
倒産する企業の多くは、複数の取引先や金融機関に対して、債務を負っています。このような場合、他の債権者も、倒産見込みの企業から債権回収を図ろうと考えるのが通常です。早い段階で、債権回収のための手続きをとることができれば、他の債権者と比べて有利な状況となります。ただし、債権回収にあたってどのような手段をとるべきか、取引先の状況や担保の有無等によって異なります。そのため、早期に弁護士に相談をし、適切な手段を選択することが重要となります。
仮に、強制執行等の手続を選択する場合、破産手続開始決定がなされるまでの間に、早期に着手しなければなりませんので、弁護士によるサポートが不可欠となります。
弁護士であれば、取引先との交渉から法的手続まですべてを滞りなく行うことができます。できる限り多く債権を回収したいと考えているのであれば、取引先が倒産してからではなく、より早い段階で、弁護士に相談することが重要です。
5、まとめ
売掛金を回収するにあたって重要なのは、早期に対応をするということです。そのためにも、取引先の信用状況については、普段から意識して観察しておくことが必要になります。取引先の信用状況の悪化が疑われる状況になったときには、ベリーベスト法律事務所 奈良オフィスまでお早めにご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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