交通事故の主婦(夫)手当とは│慰謝料(損害賠償)として請求できる?
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奈良県警察のデータによると、2021年に奈良県内で発生した交通事故の死者数は39人(前年比14人増加)、重症者数は444人(前年比13人増加)でした。死者数に占める高齢者の割合は約59%、重症者数に占める高齢者の割合は約40%となっています。
交通事故の被害に遭い、ケガの治療に伴い仕事を休まざるを得なくなった場合、加害者に対して休業損害を請求できます。
専業主婦(主夫)の方は仕事をしていないために、また、兼業主婦(主夫)の方は収入が多くないために、休業損害を請求できないのではないかと考えてしまいがちです。しかし実務上は、いわゆる「主婦手当」として休業損害を請求できる可能性があります。
慰謝料など他の損害項目と併せて、適正な金額の損害賠償を請求するため、お早めに弁護士までご相談ください。今回は、交通事故の「主婦手当」の概要・算定基準・金額相場などについて、ベリーベスト法律事務所 奈良オフィスの弁護士が解説します。
出典:「令和3年における交通事故の発生状況について(奈良県版)」(奈良県警察本部交通企画課)
1、交通事故の「主婦手当」とは?
主婦(主夫)の方が交通事故に遭った場合、サラリーマンなどの場合よりも少ない金額の損害賠償しか受けられないと思われがちですが、必ずしもそうとは限りません。
主婦(主夫)の方でも加害者に対して、いわゆる「主婦手当」のほか、さまざまな項目の損害賠償を請求できます。
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(1)主婦の仕事を休んだことに伴う「休業損害」
交通事故によってケガをして、ケガの治療をするために仕事を休んだ場合、失われた賃金や事業収入に相当する「休業損害」の賠償を受けられます。
休業損害は、収入を稼ぐ仕事をしている方に限らず、主婦(主夫)の方についても認められます。家事労働にも、仕事としての経済的価値があると考えられるからです。
主婦の方が受けられる休業損害の賠償金は、「主婦手当」と呼ばれることがあります。主婦手当は、あくまでも休業損害に当たるものであって、精神的損害の賠償金に当たる「慰謝料」とは異なる点に注意しましょう。 -
(2)主婦が請求できる交通事故の損害賠償項目
主婦手当(休業損害)以外にも、交通事故の被害に遭った主婦(主夫)の方は、加害者に対して多岐にわたる項目の損害賠償を請求できます。
以下に挙げるのは、主婦(主夫)が賠償を請求できる損害項目の一例です。
- 治療費
- 通院交通費
- 装具、器具購入費
- 付添費用
- 介護費用
- 入院雑費
- 入通院慰謝料
- 後遺障害慰謝料
- 逸失利益
ご自身が被った損害の項目・金額を網羅的に把握して、漏れのないように請求を行ってください。
2、主婦手当(休業損害)の3つの算定基準
主婦(主夫)の方が賠償を受けられる休業損害(主婦手当)の金額を算定する基準には、「自賠責保険基準」「任意保険基準」「裁判所基準(弁護士基準)」の3つがあります。
このうち、最も高い基準で損害額を算定できるのは「裁判所基準(弁護士基準)」です。自賠責保険基準や任意保険基準を用いて計算すると、適正額よりも被害者に不利な金額が算出されてしまうので注意しましょう。
各算定基準の概要は、以下のとおりです。
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(1)自賠責保険基準
自賠責保険基準は、自賠責保険から支払われる保険金額を算出するための基準です。
自賠責保険は、加害者が任意保険に加入していないケースを想定して、被害者に対して最低限の補償を提供することを目的としています。
そのため、自賠責保険基準に基づき算出される保険金額は、客観的な損害額よりもかなり低額になるのが一般的です。 -
(2)任意保険基準
任意保険基準は、加害者側の任意保険会社が独自に設けている、被害者に支払う保険金額を算出するための基準です。
他の2つの基準とは異なり、任意保険基準は非公開とされています。任意保険基準に基づいて算出される保険金額は、あくまでも支払う保険金額を抑えたいと考えている、加害者側の任意保険会社の算定基準です。
自賠責保険基準よりは若干高額となるものの、客観的な損害額よりは低額が提示される傾向にあるので、任意保険会社の主張をうのみにしないように注意が必要です。 -
(3)裁判所基準(弁護士基準)
裁判所基準(弁護士基準)は、過去の裁判例に基づいて設定された基準で、被害者に生じた客観的な損害額を算出することができます。
3つの算出基準の中で、裁判所基準(弁護士基準)はもっとも公正かつ被害者に有利な基準です。被害者が加害者に対して、交通事故の損害賠償を請求する場合には、裁判所基準(弁護士基準)により請求を行うことが重要になります。
3、主婦手当(休業損害)の金額相場|専業主婦・兼業主婦
公開されている自賠責保険基準と裁判所基準(弁護士基準)に照らして、主婦手当(休業損害)の金額相場を確認しておきましょう。
専業主婦の方、主婦業とパートなどを兼務している兼業主婦の方のそれぞれについて、主婦手当(休業損害)の金額相場は以下のとおりです。
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(1)専業主婦の主婦手当(休業損害)
専業主婦の場合、交通事故の加害者に請求できる主婦手当(休業損害)の1日当たりの金額(基礎収入日額)は、以下の要領で算出します。
自賠責保険基準 6100円(2020年3月31日以前に発生した事故の場合は5700円) 裁判所基準(弁護士基準) 約1万574円(事故が発生した年の「賃金センサス」における全年齢・女性の平均賃金の1/365)
賃金センサスとは、厚生労働省が毎年公表している「賃金構造基本統計調査」を意味します。(参考:「賃金構造基本統計調査」厚生労働省)
2021年の賃金センサスでは、全年齢・女性平均の賃金は385万9400円です。
したがって、2021年に発生した交通事故の場合、裁判所基準(弁護士基準)によって算出される専業主婦の主婦手当(休業損害)は、1日当たり約1万574円となります。 -
(2)兼業主婦の主婦手当(休業損害)
兼業主婦の場合、自賠責保険基準に基づく主婦手当(休業損害)の金額は、専業主婦の場合と同じく、1日当たり6100円です(2020年3月31日以前に発生した事故の場合は5700円)です。
これに対して、裁判所基準(弁護士基準)に基づく主婦手当(休業損害)の金額は、1日当たり以下のいずれか高い金額となります。
- ① 実際に得ている賃金の1/365
- ② 事故が発生した年の賃金センサスにおける全年齢・女性の平均賃金の1/365
したがって、2021年に発生した交通事故の場合、兼業主婦の年間賃金が385万9400円を超えていれば、実際に得ている賃金をベースに主婦手当(休業損害)の金額を算定します。
一方、年間賃金が385万9400円以下であれば、主婦手当(休業損害)は1日当たり約1万574円です。
4、主婦手当・慰謝料等を裁判所基準により請求するには?
主婦手当(休業損害)は、自賠責保険基準では1日当たり6100円であったのに対して、裁判所基準(弁護士基準)では1日当たり約1万574円と、1.7倍以上の差がありました。
他の損害項目についても、自賠責保険基準や任意保険基準よりも、裁判所基準(弁護士基準)を用いた場合の方が、被害者にとってかなり有利な損害額が算出されます。
交通事故の被害者が、加害者に対して裁判所基準(弁護士基準)に基づく損害賠償を請求するには、以下の各点に留意して請求を行いましょう。
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(1)弁護士を代理人として損害賠償請求を行う
被害者が弁護士を代理人として示談交渉に臨んだ場合、加害者側の任意保険会社は、裁判所基準(弁護士基準)に基づく保険金の支払いに応じる可能性があります。
最終的に訴訟を提起された場合、裁判所基準(弁護士基準)に基づく損害賠償が認められる公算が大きいからです。
裁判所基準(弁護士基準)による適正額の損害賠償を受けたい場合には、弁護士へのご相談をおすすめします。 -
(2)状況によっては訴訟を提起する
示談交渉において、加害者側(任意保険会社)が裁判所基準(弁護士基準)に基づく支払いを拒否する場合、訴訟を提起して裁判所の判断を求めることも有力な選択肢です。
裁判所基準(弁護士基準)は、過去の裁判例に基づいて損害額を算定する基準です。
そのため、訴訟で適切な主張・立証を尽くせば、裁判所基準(弁護士基準)に基づく損害賠償が認められる可能性が高いでしょう。
弁護士を代理人として訴訟に臨めば、交通事故の事実関係や過去の裁判例などに基づき、裁判所に対して説得的に主張を伝えることができます。交通事故の損害賠償請求は、ぜひ弁護士にご依頼ください。
5、まとめ
交通事故によるケガの治療のために仕事を休んだ場合、加害者に対して、休業日数に応じた休業損害の賠償を請求できます。主婦(主夫)の方でも、賃金センサスなどを参照して休業損害(主婦手当)を請求できるため、他の損害項目と併せて漏れなく請求を行いましょう。
ベリーベスト法律事務所 奈良オフィスでは、交通事故の損害賠償請求に関するご相談を随時受け付けております。サラリーマン・事業主・主婦(主夫)など、幅広い職業の方が、適正な損害賠償を獲得できるようにサポートいたします。
交通事故の被害に遭ってしまった方は、お早めにベリーベスト法律事務所 奈良オフィスへご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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